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タフの方舟 禍つ星 ジョージ・R・R・マーティン [読書・海外]

「ジュラシック・パーク」の興奮と「ハイペリオン」の愉悦がここにある。
帯に付いている惹句に「ハイペリオン」と入っていれば
読みたくなってしまうではありませんか。
酒井昭伸の訳はハイペリオンシリーズでお馴染みですし。
でも、ジュラシック・パークって何だろう?
というのが読む前の疑問でした。

楽しかった!ハヴィランド・タフがとてもいいです。
身長2メートル半の大男だが、物腰はおだやか、人畜無害。
猫を何匹も飼っていてひとぎらい。
腹のでかさもそうとうのもの。
長い顔には奇妙に表情がなく、動きは妙に堅苦しくて、
異様な印象を与える。
全身の肌の色は漂白したように真っ白。菜食主義者。
どんな相手にもいちいち[sir]をつけてしゃべる嫌みな話し方。

そんなタフが方舟を手に入れるまでが最初の短編です。
方舟とは、いにしえの地球帝国の遺物、生物戦争用の胚種船。
超巨大宇宙船。
ありとあらゆる環境的厄災を自在に創りだすことができる。
貴重な軍事的資源の宝庫。
ジュラシック・パークってそうゆう事なのね。
遺伝子操作。

     もしかしてネタばれ書いちゃっているかも・・・
     
人口増大による大飢饉が目の前に迫っているス・ウスラムが、
何としてでも方舟を手に入れて
窮地を脱しようとするのもよく分かる話です。
それほどのお宝だから。
それが2話の「パンと魚」。
魅力的なトリー・ミューンが出てきます。
<良い品をお安くお分けする豊饒の角>号
(タフらしいネーミングですてき!)で
しょうもない小物や安物の装身具を地道に売り歩いていた商売人から
環境エンジニアに職を変えたタフ。食糧危機を回避させるために
彼はス・ウスラムで腕を振るい、方舟の威力を見せつけます。
パンと魚をひねりだしてしまうわけです。
危機を救ってくれたトリー・ミューンに(恩人なのに)
修理代を値切る交渉をするし、
方舟を奪われそうになって攻撃されたのに、
ローンの支払いをするために5年以内に戻ってくるなんて言うし。
本当にヘンなヤツ。とっても愉快。

<方舟>号を手に入れれば神にも悪魔にもなれる。
しかし「絶対的な権力は絶対的に腐敗する」。
悪魔になる確率の方が高いという事ですね。
トリー・ミューンは続けて言います。
「もしかするとあたしは、あんたが純真で無害だと
判断したのかもしれない」
「腐敗しない人間なんてのがいるとは、あたしにゃ思えないけど
・・・もしいるとしたら、あんたはその候補だと思うよ、タフ。
欲がないというか、損得の感覚がちがうというか」
方舟を委ねるにはタフ以外は考えられないです。

3話の「守護者」では、自分のことを
「商売人より慈善家の性格が強く、
ついつい情にほだされやすい」なんて言いながら、
追加料金の支払いを渋るナムールに
「この舟のような胚種船がその気になれば
どれほどの惨害をもたらせるかを、目を見張るほど
リアルに見せてくれるドラマ」に興味を持ったりなさいますまいか、
とサラッと脅しをかけていく。
それってしたたかな商売人そのものではないですか。

「守護者」もおもしろかった。
人間って本当に愚かで人類中心にしか、ものを考えられないのね。

もし実際に<方舟>号だけを手に入れたら、
地球は愚かにも滅びるに違いないけれど
タフが方舟に乗っていてくれたら、森林破壊問題や砂漠の緑化など、
知恵を貸して貰いたいことがたくさんあるのに。
タフは地球の指導者達をお気に召さないに違いない、とは思うけれど。

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

  • 作者: 酒井 昭伸, ジョージ・R.R.マーティン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/04/21
  • メディア: 文庫

タフのカバーイラストが、すごく好き!末弥 純さんのイラストは
原書のイラストの様々なタフよりもタフらしいと思います。
私にはイメージ通りです 


タグ:SF
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