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ノルウェイの森 村上春樹 [読書]

『スプートニクの恋人』のラスト、
電話ボックスからの電話というシチュエーションが
『ノルウェイの森』と同じだという事で、再読してみました。
18年ぶり。

1987年9月刊。発行部数は上巻238万部、
下巻211万部、計449万部。
売れてましたよね。
上巻は国内小説単行本の発行部数歴代一位を維持していたのに
「世界の中心で、愛をさけぶ」(約320万部)に
抜かれてしまいました

赤と緑の装丁は村上春樹が手がけたものでしたが、
当時、書店でとても目立っていました。
時期もちょうどクリスマスシーズン。
帯には『100%の恋愛小説』これも作者の言葉です。

村上春樹の作品はそれまで読んだことがありませんでした。
だって難しそうだったしメンドクサそうだったし。
「恋愛小説」だなんて、片手間に売れ線の本でも
書いたんじゃないのなんて思ってました。
それが、立ち読みして、即購入。
フツーの恋愛小説なんかじゃありませんでした。
甘い恋愛小説を期待して読み始めた人は
裏切られた気分じゃないかな。

センチメンタルで通俗的な小説にすぎないと
発売直後は酷評されたりしていました。
「メッタ斬り」でお馴染みの豊崎由美さんが、
当時は散々批判したけれど、本当に悪かった。
なんて言っていました。
『世界の中心で、愛をさけぶ』を
「『ノルウェイの森』のエピゴーネンにすぎない」
と切り捨ててます。

   

過去を振り返るかたちで始まるこの物語。
【死】の影に覆われています。

 

 


エキセントリックな登場人物たち。
逃れようもなく【死】に向かっていってしまう『直子』
対照的に【生きている】『緑』という二人の女性と
主人公『僕』ワタナベトオル。
直子と緑の間で揺れ動く『僕』というよりも、
「直子の世界」と「緑のいる世界」で揺れ動く物語。

「死は生の対極としてではなく、
その一部として存在している。」
それは今にして思えばたしかに奇妙な日々だった。
生のまっただ中で、何もかもが死を中心にして回転していたのだ。


直子は最後まで、『僕』を立ち入らせなかった。
できなかった。
何者をも受け入れずにひとりで去っていってしまった。
もし『緑』の事がなければ、『僕』は直子の死に関して
何らかの責任を感じる事さえできなかったのでは。
責任を感じることさえさせて貰えなかった。
それは『僕』にとってはこの上なく残酷なことです。
冒頭で『僕』が語っているように、直子は僕を愛してさえいなかった。
「忘れないで」という言葉は
『僕』へのせめてもの思いやりだったのか。

直子の症状が悪化しているとの手紙を読み、
楽観的な希望がうち砕かれた後、
17歳で死んでしまったキズキに語りかけるかたちで
『僕』はこう言います。

俺は生きると決めている。きちんと生きると決めている。

直子を絶対に見捨てない。そして俺は今よりももっと強くなる。
そして成熟する。大人になるんだよ。
そうしなくてはならないからだ。
俺は責任というものを感じるんだ。もう二十歳になったんだよ。
そして俺は生きつづけるための代償を
きちっと払わなきゃならないんだよ。

生きると決めていると言いながらも
『僕』はしばしば迷い揺れ動く。
『僕』をつなぎ止めるのは真っ直ぐな愛情をぶつけてくる緑。 

「僕が直子に対して感じるのは
おそろしく静かで優しくて澄んだ愛情ですが、
緑に対して僕はまったく違った種類の愛情を感じるのです。
それは立って歩き、呼吸し、鼓動しているのです。
そしてそれは僕を揺り動かすのです。

『僕』は緑を選び、そのこととは関係なく『直子』は死を選ぶ。
直子が死を選んだことで
『僕』は「自分自身に許しがたいものを感じる」
それに対して、レイコさんはこう言います。

「あなたがもし直子の死に対して
何か痛みのようなものを感じるのなら、
あなたはその痛みを残りの人生をとおしてずっと感じつづけなさい。
そしてもし学べるものなら、そこから何かを学びなさい。
でもそれとは別に緑さんと二人で幸せになりなさい。」
「もっと成長して大人になりなさい。」

ラスト、電話ボックスから緑に電話をかける。
「あなた、今どこにいるの?」という緑の問いかけ。
僕は今どこにいるのだ?
でもそこがどこなのか僕にはわからなかった。」
「僕はどこでもない場所のまん中から緑を呼びつづけていた。」

『僕』はどこにいるのでしょう。
もう直子が生きていない世界。
いままでとは別の意味で生きていこうとしている世界。
まだ馴染んでいない世界で、
心許ない気持ちで緑を呼んでいるのでしょうか。

ノルウェイの森 上

ノルウェイの森 上

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫
ノルウェイの森 下

ノルウェイの森 下

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫


タグ:村上春樹
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コメント 2

snorita

大学生の時、本屋さんにならんだその日の朝に講義をサボって買いに行き、夕方読み終わって激泣きしている自分がいました。今はもう、この本で泣けるとは思わないですけど、その時の自分はそんな感じでした。私もこの緑と赤の帯の本を大事にしています。途中で金色の帯に変わったんですよね。
by snorita (2006-02-25 18:05) 

miyuco

当時、日本人作家のもので読みたいと思うような本はないと
生意気にも考えていたので、この本を読んでびっくりでした。
村上春樹を読んでいないというおバカさんな私だったわけです。
今回再読してみて、「純愛ブーム」の本とはまったく違う
ほんとうに苦い物語なんだなと改めて思いました。
いつまでも印象に残っている本です。
映像化されなくて本当によかったですよね。
by miyuco (2006-02-25 23:12) 

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