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『ひとがた流し』北村薫 朝日新聞夕刊連載終了 [読書]

2005年8月20日から朝日新聞夕刊に連載されていた
『ひとがた流し』が3月23日の171回で終了しました。

千波が牧子の入院している病院を訪れるあたりから
泣けてしまって…
夕刊が届くたびに泣いてるっていう状況でした。

静かな静かな別れ。

良秋さんがつらかったと言うエピソード。
彼女は良秋さんを心から信頼していたから、
そういう夢を見たのでしょうね。
別れがこなければ、あるいは出会いが早ければ
ふたりで望み、実現したであろう夢。

このときのおーなり由子さんの挿し絵が素晴らしかった。

連載前の8月15日付け朝日新聞のお知らせには

「ひとがた流し」は三つの家庭の物語であり、
そしてまた、アナウンサー、作家、写真家の妻として、
それぞれの40代を迎えた女性たちが、
互いの人生を見つめる物語です。

と紹介されています。

北村薫さんの“作者の言葉”

この小説では過去の作品で
小学生だった女の子「さきちゃん」が、
高校生になって登場します。
年月が流れた今、あの子は
どうしているかなあという気持ちが、
執筆のきっかけとなりました。

 さて、どうにもならない障害があるため
愛が一層輝く――といった物語は数多くあります。
そういう「形」を、読者の涙を絞るための
あざといものと眉をひそめる人も、多いと思います。
ところが、そうした人間関係の「形」も、
現実には泣けるだけのものではありません。
そんなところを見つめながら、書き始めようと思っています。

おーなり由子さんの挿し絵が大好き。
単行本になったら挿し絵はカットされてしまうんでしょうね。
残念だな。

おーなりさんのHP“Blanco”にこんな文章を見つけました。

 2月4日
朝日新聞の夕刊の北村さんの連載小説
「ひとがた流し」の挿絵、いよいよ佳境に入ってきました。
お気づきの方も多いと思いますが、
この小説は章ごとに、語り手が変わるのです。
その章の語り手が、最後の回に
つぎの語り手に何かを手渡して、
つぎの語り手がわかるようになっています。
わたしも、毎回、章の一回目は、
その章の語り手の顔のアップを描くことにしていて、
それがわたしの中の決めごと。
次回は、最終章の牧子さん。
さきちゃんの、おかあさんです。

…気がつかなかった 
図書館に行って縮小版で、もう一度読んでこようかな。

   

3/27朝日新聞夕刊 “連載『ひとがた流し』を終えて”
の抜粋を追記しました。

作中では、千波は「悪い病気」と、
病名をあえて記さなかった。
第一には描きたかったのが、ある特定の病気ではなく、
ひとつの状況だからだ。
さらに、作中でも再三触れたが、千波の場合の症例は、
取材した中でも、特別に重いものだ。     
―中略―
わたしは規制によるわけではなく、
まったく自由な、個人の意志として、
今回、その単語と、もうひとつ、登場人物が流すものとしては
「涙」という言葉を使うまい、と思った。
つらいことだからといって書かない、というわけにはいかない。
そういう観点からは、逃げや弱さと見えるかもしれない。
しかし、わたしはそうは思わない。
これを書かないということは、
わたしにとって、意思であるとともに、
物語の大きな要素のひとつである。
祈りに近いものだった。

   

過去に読んだ新聞小説で最も印象に残っているのは
中上健次『軽蔑』 
ぐいぐいと迫ってくる語り口に圧倒されました。
これが遺作になってしまいました。

他に読んでいたのは、宮尾登美子『きのね』 
筒井康隆『朝のガスパール』
高橋源一郎『官能小説家』 
奥泉光『新・地底旅行』
読んだことのない作家さんの小説を
お試しに読めるというのがいいですね。
嫌いだったら読まなきゃいいだけだし。

『ひとがた流し』のあとには
吉田修一『悪人』がはじまりました。
このかたの本は読んだことがないので、
ちょっと興味があります。
現在、朝刊に連載中の桐野夏生『メタボラ』は挫折中…

最初に新聞小説にはまったのは
1979年読売新聞に連載されていた
立原正秋の遺作であり未完に終わった
『その年の冬』でした。
端正な文章が大好きだった。
出てくる食べ物がおいしそうでしたね。

一番続きが気になったのは、宮部みゆき『理由』
当時、すでに超多忙の売れっ子作家で、そんな立場のひとは
新聞連載のようにハードなものは引き受けないのがふつうなのに
宮部さんは人柄が良いので断れなかったのではないかと
どこかに書かれていたのを読んだ記憶があります。

でも昨年、東京新聞で『名もなき毒』を
連載してたんですよね^^;


タグ:北村薫
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コメント 2

笹倉 邦彦

新聞連載中は読んでいなかったので、ようやく今図書館で借りて一気に読んだところでした。この書評をみてわたしもおーなり由子さんの挿絵を見てみたくなりました。
by 笹倉 邦彦 (2006-09-18 21:24) 

miyuco

笹倉 邦彦さん
おーなりさんの挿絵はストーリーの一部のような気がしました。
とくに千波と良秋と駆け出す小さい子どもが描かれたイラストは
絵の中で願いを叶えてあげたのかなと思って泣けました。
コメントありがとうございました。
by miyuco (2006-09-19 12:45) 

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