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『ロード・オブ・ザリング/旅の仲間』 [外国映画]

映画の始まりはあまりにのどかなホビット庄。
平和に暮らすホビットたち。
最初に映画を観たときには、冒頭の明るい表情のフロドを見て
泣けてしまいました。
フロドは、もう二度と、この頃のように暮らすことはできないと
原作を読んで知っていたから。
これからの長い過酷な道のりを思うとつらくなります。
屈託のない笑顔。
(この時点で、イライジャ・ウッドを
フロドにキャスティングしたPJの勝利確定でした)

ガンダルフでさえも、指輪に触れることができない。
それほどまでに、人の心を誘惑する、
強い力を秘めた危険なもの。
映画だと、指輪が人々を誘惑するささやきが聞こえます。
裂け谷でのエルロンドの会議でも、
そのささやきで話し合いを紛糾させてしまいました。
アラゴルンにも「Aragorn Elessar」と呼びかけています。

指輪の餌食になってしまったのがボロミア。


瀕死の祖国ゴンドールを憂い、
絶望に絡めとられそうになっている心を誘惑します。

サウロンのいるモルドールとゴンドールの
距離的な近さは映画だとよくわかる。
そんな場所で戦い続け、じりじりと負けていく祖国を
執政の跡継ぎであるボロミアが、救いたいと思うのは当然です。

そんな彼のあせる心を指輪は突いていきます。

エルロンドの会議では、アラゴルンをさすらい人と蔑み、
王の血筋を引くその出自を聞いても
Gondor has no king. Gondor needs no king.
「ゴンドールに王はいない。王は必要ない」と言い放つ。

それがロスロリアンの、カラス・ガラゾンではこう言います。
One day our paths will lead us there.
And the tower guard shall take up the call.
For the Lords of Gondor have returned
「いつか君と共にあそこ(ゴンドールの都)へ戻ろう
塔の見張りがこう叫ぶ ゴンドールの救い主たちが戻られた!と」
自分とアラゴルンのふたりを「the Lords of Gondor 」と言います。
アラゴルンは複雑な顔をするだけでした。

そしてこの映画のラスト、
指輪の誘惑に屈したボロミアは、フロドを襲います。
しかし、フロドはわかっている。
「ボロミアじゃなくなっている」(正気ではなくなっている)
指輪の恐ろしい力を見せつけられます。
ボロミアから逃れたフロドは
アラゴルンに指輪の誘惑に勝てますかと問いかける。
指輪はここで、アラゴルンをも誘惑します。
アラゴルンはそれに耐える。
しかし触れることはできない。

原作では、ボロミアと別れたあとにフロドは自分一人で決断します。
「今こそわたしはやらねばならぬことをやる。これだけははっきりした。
指輪の魔性はすでにわたしたちの仲間うちにも働きかけた。
さらに害を及ぼさないうちに、指輪をみんなから離さねばならぬ。
わたしは一人で行こう。
信用できぬ者もいるし、信用できる者はわたしにとって大切すぎる」

「できればモンドールの火口まで君と行きたかった」
映画ではアラゴルンがこう言い
「わかってます。皆を頼みます。特にサムを。彼は怒るだろうけど」
とフロドが応える。
直後、オークの出現に気づき、アラゴルンはフロドを行かせます。

正気に戻ったボロミアは強く後悔する。
オークからメリーとピピンを守るための激しい戦いの末
ボロミアは瀕死の状態に。
最後のアラゴルンとの会話。

Boromir
Leave it! It is over.
The world of men will fall.
And all will come to darkness.
My city to ruin.

構うな おしまいだ 
人間の世界も… 
悪が この世を支配し―我々の都は滅びる

Aragorn
I do not know what strength is in my blood.
But I swear to you,
I will not let the White City fall.
Nor our people fail

私の血にどれほどの力があるのか…
だが我らの都と民を必ず滅亡から救う

Boromir
Our people. Our people
我らの民…
I would have followed you,
my brother. My captain. My king.
心残りだ 兄弟よ 我が将 我が王

Be at peace, son of Gondor.
静かに眠れ ゴンドールの息子よ

゚・。.(><*).。・゚ 

出会った当初はアラゴルンをさすらい人と蔑み、
後に自分たちふたりを「the Lords of Gondor 」と形容し
最期の時には「My king」と呼ぶ。

「My king」には感動です。
ボロミアとアラゴルンとの関係の変化が、
アラゴルンの置かれている立場と
彼の心境が変わっていく様を
くっきりと映し出していて見事だと思います。

ボロミアの亡骸は死者の装いを整えられ、
エルフの舟で大河アンドゥインに流される。
原作では、舟に乗り流されてくるボロミアの亡骸を
オスギリアスに近いアンドゥインの河辺を見張っている
ファラミアが見つけます。

「その時、わたしは見た。あるいは見たように思った。
一隻の小舟が灰色の光芒を放ちながら河面を漂ってくるのを。」

かすかな光がその小舟を包んでいる。
畏れの念を抱きながら、引き寄せられるように
流れの中に足を踏み入れるファラミアの前で小舟は向きを変え
速度を落とし、手を伸ばせば届くほどの近くをゆっくりと流れていく。

「小舟はまるで重い荷を載せているように深く水に浸かっていた。
そしてわたしの目の下を通り過ぎる時、
わたしはそれが透き徹った水で
ほとんど一杯に満たされているように思った。
光はそこから放たれているようだった。
そしてその水に洗われながら、
一人の戦士が眠ったまま横たわっていた。」
エルフの舟は大瀑布を越え、オスギリアスを通り抜け、
大海へ放たれていったのです。

 ファラミアは兄であるボロミアをこう評します。
「誇り高く恐れをしらない、そしてしばしば事を急ぎ、
ミナス・ティリスの勝利を(それに伴いかれ自らの誉れを)
絶えず切望していた」

映画のボロミアが好きなんです。
原作よりも人間味が感じられる。
PJはとても丁寧に愛情を込めて彼を描いています。
単なる誘惑に負けた弱い人、悪役のように思われがちですが
それは違います。

* * * * *

フロドはガンダルフの言葉を回想します。
指輪を貰いさえしなければ
こんな旅に出ることもなかったのに
と嘆くフロドにガンダルフはこう言いました。

「つらい目にあうと皆そう思うがどうにもならん
それより大切なのは今自分が何をすべきかを考えることだ」

*I wish the ring had never come to me.
I wish none of this had happened *

*So do all who live to see such times,
but that is not for them to decide.
All you have to decide is
what to do with the time that is given to you. *

モリアの坑道でのフロドとガンダルフの会話です。
このセリフの入ったポスターが2001年の公開当時つくられました。
9.11後のアメリカへのメッセージが込められているように感じられる
という文章を読んだ記憶があります。


過去記事リンク…ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還

  


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KANAchanMaMa

こちらも 元々原作を読破されていたのですね~。さすがっ!
なんだか 参考書代わり(!?)に 拝読に伺ってしまって…。(^^ゞ
中高生の頃に 読書を怠っていた不勉強に、今頃 苦しめられております。(-_-;)
“指輪”3部作は、何度でも 観直したい作品なので、この記事も とても 面白く
読ませていただきました~♪(*^^)v
by KANAchanMaMa (2006-06-28 17:51) 

miyuco

>KANAchanMaMaさん
実はこの時も映画公開に合わせて、読み始めたんです^^;
でも、本当にハマってしまって、文庫本9冊一気読みしてしまいました。
TV放映していた時に、いろいろ言ってくる息子に細かく答えていたら
「…ヲタ」とボソッと言われてしまいました。光栄ですわ☆
(実はもっとスゴイ人たちがたくさんいるって知ってます)
長文読んでくださって、ありがとうございました。
by miyuco (2006-06-28 18:27) 

yuhki02

はじめまして。
わたしは映画3部作しか観ていない派なんですが、
アラゴルンとボロミアの関係がとても丁寧に描かれてますよね。
そのおかげか、わたしの中でボロミアは結構いい人、いいお兄ちゃんな感じで観終えました。
(なのでボロミア役のショーン・ビーンが、実は悪役でのほうが有名と知った時はびっくりでした^^;)
ロードってさりげないところに、いい台詞が多いですよね。
ガンダルフの言葉、しみじみいい言葉だなぁと思います。。
by yuhki02 (2006-06-28 19:59) 

堀越ヨッシー

はじめまして、堀越ヨッシーと申します。このポスターは初めて見ました、かっこいいですね。恥ずかしながら原作は読んでないオイラですが、映画にはかなりハマりました。
「静かに眠れ、ゴンドールの息子..」そう言ってアラゴルンの頬を伝って流れるひとすじの涙...悲しくも美しい感動的なシーンでした。余談ですがオイラのブログでレゴラス&ギムリのイラストを公開してます。良かったら見にきて下さい(カテゴリー→ラクガキの中にあります)。
by 堀越ヨッシー (2006-06-28 20:45) 

dekochan-kyou5momo

私も映画しか見ていませんが、本当にスケールの大きな作品で、
ついついDVDまで買っちゃいました。
原作を読むとまた違った印象なんでしょうね。
by dekochan-kyou5momo (2006-06-29 09:14) 

マルハナバチ

はじめまして。私も原作・映画ともに大ファンです。
映画を観てボロミア大好きになりました。
この物語でただひとつ残念なのが、最後にボロミアがいないことでした。
本当にPJ監督は素晴らしいですね。原作の名シーンと名台詞をしっかり抑えていて。miyucoさんの記事を読んでいたらまた原作が読みたくなってきました。
by マルハナバチ (2006-06-29 23:34) 

miyuco

みなさま、nice!とコメントありがとうございます♪
『ロード・オブ・ザリング』がいかに愛されている映画なのかが
よくわかります。とても嬉しいです。

>ユウキさん
モリアと雪山でボロミアがメリーとピピンを両手に抱え上げているシーンが
ありましたよね。二人に剣の稽古をつけているシーンとか。
そんなところから、お兄ちゃん的な印象が残るのは私も同感です。
そう印象づけてくれたPJ、good job!

>堀越ヨッシーさん、はじめまして
さっそくイラスト見にいっちゃいました。ギムリ大好き!
ボロミアの最期、見るたびに涙です(><。)。。

>deko先生
原作を読むと、この映画をつくった方たちが
いかに原作を深く読み込んで、深く解釈して制作したのかがよくわかります。
そこにダイナミックな映画としての華やかさもきちんとつけ加えています。
映画だけ観ても原作の本質は伝わっているのではないでしょうか。

>マルハナバチさん、はじめまして
アラゴルンと共にボロミアもゴンドールに帰ることができたらよかったのにと
本当に私もそう思います。残念ですよね。
原作を読むと、この長い物語を素晴らしい映画に仕上げたPJの手腕に
なおさら感動します。PJが心からの指輪ファンだということがよくわかります。
彼の手で映画化されたことは『指輪物語』にとってこの上なく幸運で
原作指輪ファンにとっても幸福なことでしたね。
by miyuco (2006-06-30 09:08) 

かいろ

miyucoさん、こんにちは。
わたしが映画『旅の仲間』を好きなのは、ボロミアの力によるところがかなり大きいのです(もちろんそれ以外のところでも大好きな部分はたくさんあるのですが)。彼の最期のシーンは何度観ても胸に迫るものがあります・・・(で、泣いちゃうわたし)。そしてボロミアが射られたときのメリーとピピンの表情や、アラゴルンの頬を伝う一筋の涙。ピータージャクソン氏のボロミアへの愛情が感じられますよね。彼に感謝したい!
そしてまたこの記事では、miyucoさんの『ロード』への愛が感じられて、胸がいっぱいになりました・・・。このまま『二つの塔』に、そして『王の帰還』にも手が伸びてしまいそうです。なんとも魔力に満ち満ちた映画ですね~。
それではこの辺で。
by かいろ (2006-06-30 15:16) 

miyuco

>かいろさん
愛を感じ取っていただいて光栄です^^
『旅の仲間』は登場人物の心理的なやりとりが濃密ですよね。
そのためか、印象に残るセリフやシーンが特に多かったように思います。
ボロミアの最期…書いていても泣けてしまいます(><。)。。
実はまだまだ書き足りないので、また機会を見つけて書きたいと思います。
かいろさんたちがBBMについて書いていらっしゃるように♡
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-06-30 17:55) 

「指輪物語」は私の中で特別席にいる本です。昔の瀬田貞二さん訳の文庫と、その後改訳版の文庫と、豪華本と、「ホビットのものがたり」「シルマリルの物語」その他関連本…コレクターと化している自分が怖いんですが。
でもそれだけ思いいれがあったので、本当は映画は観たくなかったんです。でも、興味と誘惑に負けて観ちゃいました。そうしたら、とても良い出来で、感心しました。なんといってもガンダルフの格好いいこと!
ボロミアも、原作のイメージに近く、「My king」には、私もグッときました!感動ですよね!
by (2006-07-13 11:55) 

miyuco

>灰色猫のミミさん 
「指輪の幽鬼」と化しているのではないですか (*≧v≦) 
私は映画公開直前に原作を読み終えたキャリアの浅い
指輪ファンなので、昔からの愛読者の方たちと
対等に語ることなどおこがましいと思っています。
でも、書いちゃうんですよね^^;
PJの手で映画化されて、『指輪』は本当にラッキーだったと思います。
ガンダルフのユーモアをたたえた瞳!
映像から伝わってくるものってやはり大きいですね。
by miyuco (2006-07-13 15:02) 

pointdpo

はじめまして。
TBさせて下さいね。

原作のボロミアは、お坊っちゃんで、あなりお気に入りではありませんでしたが(ファラミアのほうが好きでした。)、映画では回を追うごとに(エクステンデッドバージョン)重要さ、素敵さが増しますよね・・原作より人間味があるような気がします。
by pointdpo (2006-07-30 21:51) 

miyuco

> pointdpoさん
映画の方がゴンドールを思う気持ちが強く出ているような気がします。
ボロミアがなぜ指輪に惑わされたのかがよくわかります。
仰るとおり、死んでしまったボロミアがその後も物語のなかで
重要な役目を果たしていますね。
それにしてももう一度ゴンドールに帰らせてあげたかった。
コメント、TB、ありがとうございました。
by miyuco (2006-07-31 14:16) 

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