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『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都 [読書]

直木賞受賞おめでとうございます!

直木賞の選評、井上ひさしの説明。
「森さんの短編集は、連載当初、文章も不安定だったが
一作ごとに成長している。
1%の光明があればそこをめざしていく理想主義があり、
結末がどれも鮮やかだ」

すてきなコメントで、共感します。
森絵都の作品はどれもみな、明るい。

短編集。六つの物語
「自分なりの信念や目標をもって
もくもくと生きている人を描きたかった」

新聞広告に載っていた自筆コメント
「ここだけの話…
舞いあがらずにコツコツ生きる人たちの物語です。」

「器を探して」
・・・「時の人」とマスコミにもてはやされている
美貌のパティシエに振り回される秘書。
「犬の散歩」・・・犬猫の保護ボランティア。
「守護神」・・・大学の二部に通う社会人大学生。 
「鐘の音」・・・仏像修復。
「ジェネレーションⅩ」・・・世代間ギャップを感じている
初対面のサラリーマンふたり。
「風に舞いあがるビニールシート」
・・・愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を
今日も思っている。

「ジェネレーションⅩ」が好き。


通販雑誌の特集ページに誇大広告があり、
クレームがつく。
客の怒りは収まらず、ページ担当者の健一が、
販売元の玩具会社の社員石津と共に、
直接謝罪に赴くことになる。
都内から宇都宮までのドライブ。
健一は30代後半、石津は20代。
弱小出版社と玩具会社の微妙な力関係を考慮して、
運転席には健一が座ることになる。
助手席の石津は携帯電話をかけ続ける。
最初は遠慮していたが気にすることはないと健一が返すなり、
それを真に受けて電話をかけ、電話を受ける。

断片的な電話の内容が、健一とともに読者の頭にもはいってくる。
そして彼がなぜ必死に電話でのやりとりを続けるのか
健一とともに読者もわかってくる。
このあたりが読んでいて楽しい。
最初は若いヤツは常識を知らない、
なんて不愉快に思っていたであろう健一が
若いヤツ、なかなかやるじゃん、と考えを変えていく。
というより「若いヤツ」とカテゴリーをつくってしまう考え方が変わってくる。
読んでいる私たちも、健一と同じように
なんだか爽やかな気分になっていく。
この爽快感がいいですね。

「守護神」
大学の二部に通うフリーターの大学生。
後期の試験とレポート提出。
わずかひと月足らずで五本のレポートを書き上げ
なおかつ、四教科分の試験勉強をしないければならない。
無理だと確信した祐介は代筆の達人ニシナミユキに
助けを求めることにする。
ちゃらちゃらとした軽薄なヤツと思えた祐介だが、
(趣味は合コンなんて言うし)
ニシナミユキとのやりとりが進むにつれ別の側面を見せてくる。
物心ついた頃から本が好きだった
真面目で融通の利かない文学少年。
気がつくとクラスから浮いていた。
これではまずいと軽薄にふるまうようになる。
今にいたるまで、ずっと。

しかし、実際には今でもかわらず
彼は真面目で融通の利かない時代遅れの文学青年。
レポートを書く時間が足りないのは、完璧主義のため。
いいヤツだな~祐介もニシナミユキも。
ニシナミユキからの言葉とストラップ。
祐介はきっと死にものぐるいで四年間やりぬく。
自力でがんばることでしょう。

森絵都さんは早稲田大学の第二文学部に
つい最近まで通っていたはず。
その経験が活かされているようです。
この二つの作品は特に森絵都らしい生き生きとした筆致で
大好きです。

「器を探して」
ヒロミの作るショートケーキが食べたい  
「恋人」と「ヒロミのケーキ」を秤にかけると後者に傾いてしまう弥生。
弥生はヒロミのケーキを信奉し、ヒロミの気まぐれに振り回されても
彼女から離れることはできない。
揺らぐことのない信奉。一番強いのは弥生ですね。

「鐘の音」
ミステリーですね。
頭でっかちの狭量な人間は仏様に救われました。

「風に舞いあがるビニールシート」
国連難民高等弁務官事務所を舞台にしたラブストーリー。
社会的問題提起がスパイスなのかな、なんて醒めた事を思いながらも
ラストシーンには泣けてしまいました。
日本が平和で良かった。
平和な場所がなければ、誰かを救うことなんかできない。

メッタ斬り!版 芥川賞・直木賞選考会
社会性のあるテーマを選んだのは
直木賞対策ではないかなんて言われてます。
そうなのかな。
「風に舞いあがるビニールシート」という作品は
別に森絵都が書かなくてもいい内容のような気がする。
うまいけれど、なんだか居心地が悪い。

伊坂幸太郎は今回も逃しましたね。
私としては『砂漠』より『終末のフール』のほうが好きだけど、
受賞してもよかったのに。
軽い感触のものは直木賞に向かないのかな。
でも『空中ブランコ』の例がありますよね…?

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート

  • 作者: 森 絵都
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 単行本

さて、次は文庫になった『DIVE!!』を再読しましょうか。
この本、大好き 


タグ:森絵都
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