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映画『ゲド戦記』 [日本映画]

シンプルな映画でした。
頑ななまでに生真面目なストーリー。
緩急自在な宮崎駿映画のファンには期待外れかもしれない。
でも、これはアーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』のテイストです。
原作の雰囲気を損なうものではありません。

映画の文法から批判される部分があるのもわかります。
映画として魅力がないと言われればそうかもしれません。
それでも、私はこの作品に好感を持ちました。
「TALES FROM EARTHSEA」を大切に誠意を込めて描いている
原作を読んだ上で映画を観た感想です。

影を(死を)受け入れてこそ、全きものとなる。
映画だけを観たら伝わらなかったでしょうか?

やわらかいタッチの人物たち。「未来少年コナン」を思い出します。
「ゲド戦記にはクロード・ロランの世界観が似合う」
宮崎駿がスタッフとの雑談の中でふと漏らしたこの言葉から着想を得たという背景美術。
どこか終末感の漂うホート・タウン。町並みが美しいです。

「はてみ丸」 画面でお会いできて嬉しかった

酷評ばかりが耳に入ってきて、観に行くのを躊躇っていました。
実際に観てみると、巷で言われるほどひどいとは思えなかったな。
ただし、冒頭の父親殺し、これだけは理解できない。
アレンが旅立つための動機付けとして強いものが必要だったのかもしれません。
鈴木Pのアイデアだということですから、宮崎父子との関係をオーバーラップさせるための
センセーショナルな話題づくりなのかもしれない。
でも、息子による父親殺しを、盛り上げるためのアイテムにしてはいけないと私は思う。
「わからないんだ、どうしてあんな事をしたのか」
そこに至る心情も、その結果、アレンが引き受けなければならないはずの
生涯にわたる重さも描かれていない。ここは許すことができません。

アレンにはもっといろいろな人と会ってほしかったな。
「テルーの唄」をフルコーラス聞かせていただかなくても、けっこうですから。
(この曲はあまり好きではありません)

音楽が素晴らしかった。
ブレイブ・ストーリーとは格が違う、さすがに久石譲だなと思っていたら、
別の方だった…寺嶋民哉という方の音楽でした。

岡田准一くんの声、落ち着いていて老成しているように感じる。
若く迷えるアレンの声としてはふさわしくないのでは。
(岡田くんの大ファンだけど…)
田中裕子のクモは不気味で残酷でさすがでした。

映画を観たアーシュラ・K・ル=グウィンの言葉。
http://www.ghibli.jp/ged_02/20director/000854.html
「It is not my book.
It is your film.
It is a good film.」
厳しくも温かいコメントですね。

ジブリ映画だというだけで注目されるのは
幸運でもあり不運でもあるのかなと考えてしまう。
ジブリ制作の映画がみんな傑作だというわけではないのに
観客側はどれだけのハードルを設定しているのか。

宮崎駿は天才なんだもの、比較することなんかできない。
ハウルで「戦争を終わらせましょ」という空疎なセリフを聞いたときには愕然としたけれど
やっぱり魅力的なキャラクターづくりには惹きつけられてしまう。
顔を見せるより先に声が降ってくるハウルの登場シーンの鮮やかさ。
随所で心を揺さぶられる。

比較されるのは仕方ないことなのかもしれない。
それをわかっていて逆手に取ろうとする意図もあったようですが
相手が大きすぎて逆効果になってしまいましたね。

 

 


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miron

感想、とても面白く、何度も繰り返し読みました。
吾朗監督が最初に思いついた冒頭は、
母親が狂王からアレンを逃がしてやることでアレンは旅に出る。
というもので、これじゃ、吾朗君のままだと鈴木プロがいって、
次に吾朗監督が考えたのが今のストーリーだった。そして、これが、
思いがけず、返って、宮崎親子を連想させることになってしまった。
というような事を鈴木プロはどこかで言っていました。。
どこまでが計算か分からないけど、
意外とそんなもんかもしれません。

最初の案の方が、あきらかに、観客に共感されたと思いますが、
父親殺しも、
ギリシア神話や、村上春樹の「海辺のカフカ」までの
共通のテーマであるので、個人的には興味深かったです。
僕は、特に違和感は感じなかったのですが、
おっしゃる様に、許せないのも分かります。

解決作の一つとして、次のようなシーンでもあれば、
良かったのではと思っています。
奴隷運搬船の中で、鎖につながれているシーンで、
奴隷商人A「エンラッドの王が王子に刺されたそうだ。」
奴隷商人B「王は死んだのか?」
奴隷商人A「いや、命はとりとめたらしい。」
鎖につながれたアレン(頭をうずめてつぶやく)「よかった。。」

ちょっと、テーマの重さからは逃げているかも知れませんが。

”影を(死を)受け入れてこそ、全きものとなる。”という、ところ
納得しました。
by miron (2006-08-11 10:50) 

KANAchanMaMa

こちらは いつも 読み応えのある内容で、↑「miron」さんのコメントにも
感嘆してしまいました。ジブリ情報には できるだけ目を通していると
自負しておりましたが、“これじゃ、吾朗君のままだ”エピソードも 面白く
読ませていただきました♪
「テルーの唄」…アカペラでフルコーラスは不要でしたね。予告編が
よく できていたので、この点も ちょっと残念でした。
“ハウルで「戦争を終わらせましょ」という空疎なセリフを聞いたときには
愕然とした”←これは 全く同感で、娘(当時 中2)と 観たので、あの
ラストに関しては、大人として(!?)あたふたと解釈したのでありました。
上手く 娘に伝わったかは、ちょっと自信ありませんが…。(@_@;)ゞ
この映画が きっかけで、原作の売り上げが急激に伸びているそうですね。
私も、映画化が きっかけで、その原作の存在を知った 一人です。その
事 自体で、偉大な意義のあった映画化作品…とも 思います。
by KANAchanMaMa (2006-08-11 13:10) 

miyuco

>mironさん
読んでいただいてありがとうございます。
そう、わたしも『海辺のカフカ』が頭に浮かんだんです。
カフカくんの旅を思うと、これはないんじゃないかと。
mironさんがお書きになったシーンを読んで
こういうワンシーンがあったらよかったのにと改めて思いました。
(しっくりと映画に入り込みそうなセリフ、すごい!)
やっぱり吾朗監督と鈴木Pにはいろいろな裏話があるんですね。

mironさんのコメントを読むときは
試験の結果発表を見るときのようなドキドキ感でした^^;
(sknysさんのコメントもちょっと恐いんですわ)
by miyuco (2006-08-12 08:12) 

miyuco

>KANAchanMaMaさん
この感想を書くのに、すごく時間がかかりました。
総論賛成、各論反対みたいな感じになってしまった。
小五の姪っ子が原作本を読んでいて『帰還』を読み終わったそうです。
映画化されなければソフトカバーで出ることもなく
彼女が手に取る可能性も低かったと思います。
おっしゃるようにその点だけでも意義のあることですね。
(負けじと私もいま『帰還』を読んでいるところです)
キムタクの声が大好きなので、ハウルのあの登場シーンには
クラッときてしまいました。すてきすぎですわ♡
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-08-12 08:33) 

miron

ル=クヴィンの公式な感想が載っていました。
厳しいお言葉だと思います。深く考えさせられました。
http://www.ursulakleguin.com/GedoSenkiResponse.html
by miron (2006-08-14 22:17) 

miyuco

>mironさん
教えていただいてありがとうございました。
原文を読み解くのは私には難しいので、某巨大掲示板の有志による
日本語訳(ご丁寧に3パターン!)を読みました。
http://hiki.cre.jp/Earthsea/?GedoSenkiAuthorResponse
厳しいですね。これを読む限りではル=クヴィンの厳しさは
至極ごもっともと言えるのではないでしょうか。
ジブリと原作者の思惑の行き違いはかなり大きかったんですね。
ジブリスタッフは(宮崎駿を含めて)真摯に受け止めるべきです。
by miyuco (2006-08-15 18:05) 

私もやっと観てきました。
色んな意味で、従来の固定されていた「ジブリ」のイメージを壊してくれた、意味ある作品だと思いました。
父親殺し、これは実際に父親を刺すシーンが出てきますが、やはり宮崎親子を連想させます。父親を乗り越えること、特にあの天才の父親は、もの凄い圧倒感だと思います。吾朗監督の心情がやはりひしひしと感じられて痛かったです。
V6ファンの一人として、岡田君のキャスティングは嬉しいのですが、やはりちょっとあっていませんでしたね。不安定な影に怯える少年にしては、落ち着きがありすぎる。暗い雰囲気はあるのですが。
クモの田中さんには脱帽でした。
これから原作者のコメントを読みに行ってきます。
by (2006-08-17 05:12) 

★いづみ★

初めまして、いづみもこの作品観て来ました。
世間で言われているほど悪い映画じゃないと思いますが、どうしても父殺しが納得できなくて・・・。
子供たちがどうこの場面を解釈するのか、それが心配でなりません・・・。
by ★いづみ★ (2006-08-17 08:28) 

miyuco

>灰色猫のミミさん
ご覧になったんですね。
岡田くんの声、やはり違和感がありましたか。
これは、演技力以前の問題ではないでしょうか。(残念だけど)
原作者のコメントを読んでしまうと映画を観る目が
純粋ではなくなってしまいますね。不幸な作品だなと思ってしまう。
原作のあるハウルの映画化が成功したので、
ジブリはゲドの状況を甘く見てしまったんでしょうか…
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-08-17 15:49) 

miyuco

>いづみさん
どう考えても、父親殺しのエピソードを軽んじて扱っているように
感じてしまいます。
父親を殺すことができず、かわりに義理の母と幼いきょうだいを
火事で殺してしまった少年の事件が記憶に新しいので、
それもあって、なおさら引っかかってしまいました。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-08-17 15:57) 

私も記事を書きました。書きながら、色々考えました。そして、私の力では多くは語れないと思ってしまったんですが、やはり原作もジブリ映画も好きだから、つい、色々考えてしまいます。
再度miyuco様の記事を読み返し、感心してしまいました。
よく、理解されていらっしゃいますね。愛を感じます。
TBさせていただきます。よろしくお願いします。
by (2006-08-19 11:04) 

miyuco

>灰色猫のミミさま
お褒めいただいてありがとうございます。
映画だけを素直に観た感想を書くことができないという
宿命を背負ってしまった映画なんだなと思います。
私もいろいろと考えてしまって
迷路にはまったような感想になってしまいました。
今は『帰還』を読み終わり、感じたことをどういうふうに文章にしようかと
考え続けているところです。時間、かかりそうです。
by miyuco (2006-08-19 18:47) 

KANAchanMaMa

再び おじゃまいたします。m(__)m
mironさんの ご紹介 以降に在る↑『ル=クヴィンの公式な感想』
(日本語版)を 読ませていただきました。
「スタジオ ジブリ」サイドが 発表していたニュアンスよりも、厳しいもの
なんですね。その差に ちょっと驚きました。
(こちらのような…)内容の濃いブログには、コメントによって 更に充実した
情報が 集積するものなのですね。更に 原作に対する興味が湧いて、
“得をした”気分(!?)で 読ませていただきました。ありがとうござい
ました!m(__)m
by KANAchanMaMa (2006-08-20 23:34) 

miyuco

>KANAchanMaMaさん
コメントしていただく方たちの知識の深さに教えられる事が多いです。
みなさま、すごいです。
ブログ主が一番頼りなかったりします^^;
by miyuco (2006-08-21 17:29) 

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