SSブログ

『帰還 -ゲド戦記最後の書-』 [読書・海外]

『帰還 -ゲド戦記最後の書-』
Tehanu, The Last Book of Earthsea

『さいはての島へ』から18年後に発表された作品。
出版当時の不評は何となく覚えています。
読んでみると、ゲド戦記を大切に
思ってきた人たちの落胆が理解できました。
私もがっかりしました。なかなか受け入れられない。

テルーの身に刻まれたむごい仕打ち。
ここまでする作者の意図がよくわからない。
『アースシーの風』を読んで、
やっと『帰還』の感想を書こうという気になりました。
リアルタイムで読んでいたら、
この二作の間に11年の間隔があったわけです。
Earthsea三部作の愛読者は『アースシーの風』が発表されず
ゲド戦記が『帰還』で終わっていた11年間、
割り切れない気持ちでいた方が多かったのではないのでしょうか。
私も心地よい文章は書けそうもありません。

Earthseaを愛する読者の心に、
この世界がどのような形で根を下ろしているか
作者は考えなかったのか。
時が流れ、作者の中でのEarthseaが変化を起こしているならば、
違う時代の違う登場人物で書けばよかったのではないですか。
これでは、読者に対する裏切りのように感じてしまう。

この作品については、 フェミニズム色が強い
という批評を聞いていました。
フェミニズム?よくわからないです。
全編を通して、女だから~と言われる、
女だから~されてしまう、
というような表現が見受けられます。
なんだか女の繰り言を
くりかえし聞かされているような気がしました。

魔法使いとしての力を失ったゲドは、
15歳の男からやり直さなかければならない。
苦しみながらも、ゆっくりと回復していく。
「さあ、あなたはいよいよ一人前の男」
「まず、別の男を田楽刺しにして、
それから女と寝たんですもの」
そして、テナーと穏やかに暮らしはじめる。

テルー、ならず者に強姦され、
親に殴られ火の中に投げ込まれ殺されかけた女の子。
顔の右半分がケロイド状にただれひきつり、目はなかった。
右手も四本の指がくっついてしまっている。

「おおかたの人が、すべては結果に
その人間の善し悪しがあらわれると考える。
カネと力を持った人間には
それなりの徳が具わっているにちがいないし、
ひどい目にあう人間はその人間が悪いからで、
ばちがあたっただけのことだというのである。」

ゆえにテルーを忌み嫌う。

「あの子が怖がって、怖がれば怖がるほど
だんだん自分をおびえさせているもののほうへ
引っぱられていくことが。不安なんです、なぜって」
「もし、おびえてばかり暮らしていたら、
あの子はきっと誰かに危害を加えることになります。
わたし、それが怖いんです。」

「カレシンの娘」という強力なバックをつけて、
過酷な烙印を刻みつけられたテルーの痛みを軽くする。
作者の思惑は安易ではないのかと思います。

「我々につきまとう闇は、
魔法の剣をふるうことでは打ち払うことはできないのです」
映画ゲド戦記に寄せるコメントで作者はこう言っていますが、
テルーに関して
作者はこれをやってしまっているのではないですか。

ゲドとテナーが魔法使いに捕らわれてしまったとき、
テルーは行動を起こします。
彼女が自分の意志で動いていくここからのシーンが好き。

「串ざしにされてのたうちまわっている闇」
としか見えない魔法使いアスペンが
父と母をその支配下においてしまった。
全速力で走り抜け、崖っぷちに立つ。

「子どもは見えないもう一方の目をこらし、
いつもとちがう別の声で、
母親の夢のなかで自分がきいた名まえを呼んだ。」 

やってきたのはカレシン。

岩場で海に突き落とされそうになっていた
ゲドとテナーは助けられます。
二人以外は「骨のひと」になってしまったから。
カレシンは「子どもよ、よくやった。」と言い、
テルーをテハヌーと呼びます。

テハヌー…白い夏の星の名前、
アチュアンではテハヌーと呼ばれていた。
ハード語では白鳥の心臓、
ゲドの故郷、十本ハンノキでは矢と呼ばれている。

テルーとはカルガド語で炎をあげて燃えるという意味。

テハヌーはカレシンとともにいくことを拒み、
ここに残ると言います。
「まあ、いいだろう。そなたはここで
しなければならない仕事があるからな。」

カレシンの言うテハヌーがなすべきこと、それが何なのか、
『アースシーの風』を読んでわかりました。
「竜でいたころに学んだものを
大事に守りつづけてきた人たちがいて
― それこそ天地創造の真のことばにこめられているのだけれど ―
その人たちこそ今、魔法使いと呼ばれる人なんだ」
こんなふうに考えられていた世界の成り立ちが覆されていきます。

帰還―ゲド戦記最後の書

帰還―ゲド戦記最後の書

  • 作者: アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1993/03
  • メディア: 単行本


nice!(2)  コメント(3)  トラックバック(2) 

nice! 2

コメント 3

miyuco

mironさん、読んでいただいてありがとうございます♪
by miyuco (2006-09-20 09:06) 

遅まきながら、コメントさせていただきます。
miyucoさんのこの記事、何回も読みました。私はこの「帰還」に落胆したリアルタイム読者だったので、記事を書く気になれないでいたのですが、miyucoさんのこの記事を見て、私も書こうと思いました。
>映画ゲド戦記に寄せるコメントで作者はこう言っていますが、テルーに関して作者はこれをやってしまっているのではないですか。
同感です。
そして、テルーがあまりにも痛々しい。辛い作品でした。
TBさせていただきますので、よろしくお願いします。
by (2006-09-27 12:52) 

miyuco

>ミミ猫さん
読み終わってから記事にするまで一ヶ月くらいかかってしまいました。
救う事ができないなら、例え物語の設定上だとしても、
子供に酷い仕打ちをするべきではないと、作者に憤りを感じました。
リアルタイム読者の方の失望がよくわかります。
nice!とコメント、TBありがとうございます。
by miyuco (2006-09-27 18:55) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2