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『風が強く吹いている』 三浦しをん [読書]

おもしろかった!大好きな青春小説。清々しい後味です。
6年の歳月を費やして書き下ろした500ページの長編。
箱根駅伝を走るラスト200ページは、一気読み。
彼らと共に疾走するような気持ちでした。

「かけがいのないひとたちと、
このうえもなく濃密な一年を過ごした」
本を読みながら、走(かける)たちと
夢のような一年を味わうことができて私も幸せな気分。

たった十人、ぎりぎりの人数で挑む箱根駅伝。
寛政大のメンバーが住む竹青荘、通称「アオタケ」は
安普請でいまにも崩れ落ちそうな木造二階建てのアパート。
ハチクロのボロアパートを思い出します。

箱根駅伝を見たことはないです
TVはついていても、どこがおもしろいのか
サッパリわかんなかった。
こんなドラマがあったとは。
今度のお正月は違った目で観ることができると思う。
区間ごとの違いもちょっとだけわかるようになりました。

以下、覚え書き。ここから、私のマンガセンサーが発動。
イヤな方はごめんなさい

「走るの好きか?」
という問いかけから始まる物語。
「バスケットは好きですか?」
というスラムダンクのセリフが頭に浮かぶ^^;



箱根の王者・六道大のキャプテン、四年生の藤岡一真。
主人公、走(かける)が戦いを挑む相手。
深く高い次元で走りを追求している。
名前はスラムダンクの藤真みたいだけど、
「ピンポン」のドラゴンのイメージ。
スキンヘッドで修行僧のような容貌。
勝つことが宿命づけられている。

「俺のことは、ハイジと呼んでくれていい」
このセリフ回しにもニヤッとしてしまった。ペコみたい。

   

箱根の山は蜃気楼ではない。
襷をつないで上っていける、俺たちなら。
才能に恵まれ、走ることを愛しながら
走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。
奇跡のような出会いから、二人は無謀にも
陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。
たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。
長距離を走る(=生きる)ために必要な
真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!
超ストレートな青春小説。最強の直木賞受賞第一作。
(「BOOK」データベースより)

   

家賃三万、敷金礼金なし、朝と晩の食事はハイジが作る。
そんな「アオタケ」には隠された陰謀があった^^
「あと一人たりない、あと一人…」
9室しかないアパートは8室うまって9人が住んでいる。
残りの部屋に走がはいって、これで十人。

「俺たちみんなで、頂点を目指そう」
「十人の力を合わせて、スポーツで頂点を取る」
そして、箱根駅伝を目指す日々が始まる。

走は機械のように走ることだけを求められてきた。
記録のために走らされたり、
チームメイトの嫉妬や競争心に振り回される世界。
自由に走りたい。

右脚に爆弾を抱えているハイジ。
「走は、清瀬の理想の走りを地上に実現してみせる。
清瀬が求め、あがき、ついに届かずに終わろうとしているものを、
いともたやすく視覚化してみせる。
これほどまでにうつくしい生き物を、ほかに知らない。」

陸上で挫折を味わった清瀬だからこそ
走りに不慣れな住人たちを導けた。
住人たちの性格に沿ったかたちで、
走りと自主的に向き合うように指導していく。

「脳みそ筋肉なあんたたちの夢を、
一度くらいは一緒に見てもいいかと思ったからだ。」
漫画の山のなかで暮らす運動が苦手な王子の言葉。

黒人の留学生、ムサはうれしかった。
何と自由で平等な場所にいるんだろうと思いながら、
箱根駅伝のエース区間を走る。
真摯に走りと向きあったものだけが知る、
血の沸騰するようなざわめき。

ジョータ。双子の弟のジョージとは
別の道を行くときが来たことを感じている。
「走らなければ、知ることはなかった。
まだまだ一緒に、同じものを見ていられた。」
ランナーとしてさらに高みを目指そうとするジョージへの
はなむけのためにも、走る。

葉菜子はジョータとジョージのふたりを
決して取り違えたりしない。
彼女は双子のふたりをふたりとも好きであるらしい。
レース中に突如そのことに気が付いた双子。
動揺するジョージへの走からの伝言。
「好きなら走れ」

 神童は熱があり朦朧とした状態でも走りやめようとは思わない。
「ここで自分に負けるようなことだけはしたくない。」
神童は強い、と走は思う。
「苦しくてもまえに進む力。自分との戦いに挑みつづける勇気。
目に見える記録ではなく、自分の限界をさらに超えていくための粘り」

応援してくれる家族の姿を見て、ユキのわだかまりが消えていく。
区間賞にはわずか二秒だけ及ばなかったけれど、見事に走り抜けた。

「走るために生まれてきたような走と、
走りたくても走れない苦しみを知る清瀬。
走りへの底なしの情熱を抱える二人は、きっとお互いに影響しあい、
大多数の人間には垣間見ることすらかなわぬ高みへと、
上がっていくことができるだろう。
竹青荘の残りの住人たちで、それを手助けしなければならない。」
ニコチャンはこう考える。陸上経験者だから、わかる。

「箱根駅伝はもう、ハイジ一人の夢じゃない。
俺たち全員の夢になった。」
走るキングはこう思う。
「俺はなあ、ハイジ。これが夢であってほしいと思うんだ。」
「二度と覚めたくないほどいい夢だから、
ずっとたゆたっていたいと思ってるんだよ」

陸上選手にとっての一番の褒め言葉は「強い」だというハイジ。
走は「強い」の意味を考える。
走るってなんなのか。答えを知りたくて、走り続ける。
言葉が足りず、自分を制御することが苦手なの成長物語。

「走りはもう、走を傷つけない。
走を排除したり、孤立させたりしない。
走がすべてをかけて求めたものは、走を裏切らなかった。」

ハイジはうれしい。喜びで胸は満ちる。
「故障し、もとのように走れないと知ったとき、裏切られたと思った。
全てを捧げたのに、走りは俺を裏切った、と。
でも、そうじゃなかった。
もっとうつくしい形でよみがえり、
走りは俺のもとに還ってきてくれたのだ。」

すべてが終わったとき、ハイジは問いかける。
「頂点が、見えたかい?」

エッセイ『妄想炸裂』で作者は駅伝物のホ○話を書くことを
決意表明しています^^;
少し方向性が変わったかもしれないけれど、
(さりげなく初志貫徹かも…)
本当に長い期間書き続けていたのがわかります。

ハイジの走への熱のこもった賛辞の言葉が繰り返し出てきます。
これが鼻につく方もいるかもしれない。

山口晃さんの装画・挿画、すばらしい。


 

風が強く吹いている

風が強く吹いている

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09/21
  • メディア: 単行本


タグ:三浦しをん
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コメント 4

未読ですが、とても読みたい作品です。
『妄想炸裂』での決意表明は本当だったんですね…。
miyucoさんのマンガちっくなセンサーに、にやりとしたミミです[ニコニコ]
by (2006-11-05 20:57) 

miyuco

>ミミ猫さん
そうなんですよ、本気だったんですね^^
箱根駅伝を走る状況を追いながらそれぞれの心象が語られる
ラスト200ページの間に何度涙したことか[ラブラブハート]
「ぜひ、お読みください」と強くお薦めできる作品です。
名前がいいんですわ。走(かける)と灰二。
灰二は「灰になるまで走ってほしい」と思ってつけたそうです。
読んでからこれを知って、ジーンとしてしまった。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-11-06 11:34) 

遅まきながら読みました。もう一気読み。駅伝本番シーンは涙ものでした。
miyucoさんの素晴らしいレビューには及びませんが、私も記事を書きましたので、TBさせてくださいませ。
by (2006-12-01 09:28) 

miyuco

>ミミ猫さん
涙なくして読めないですよね。
感動でした[ラブラブハート]
ホントにすてきな物語だと思います。

TBありがとうございました♪
私のほうからもTBさせていただきますね。
by miyuco (2006-12-01 11:42) 

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