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『ラギッド・ガール―廃園の天使(2)』 飛浩隆 [読書]

これは、すごい。
欠けていたピースが前作『グラン・ヴァカンス』という物語に、
はめ込まれていく快感。
欠けていると認識できた部分よりも、もっとたくさん
思いがけないところにおさまっていく感じ。
(読み手のわたしが未熟で認識できなかっただけだけど
この快感は『グラン・ヴァカンス』を読まないと味わえない。
二作が出版されたインターバルは長すぎ。
たまたま続けて読んだわたしはラッキーでした。

数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)を作り上げた
悪魔的なふたりの人物。
ドラホーシュ教授と阿形渓は強烈です。

〈ラギッド・ガール〉 Unwearving the Humanbeing
自らラギッド・ガール(ざらざら女)と名乗る異形の女【阿形渓】
身長170㎝体重150㎏以上。
直感像的全身感覚の持ち主。
先天性の代謝障害を患い、
異常に発達した皮膚組織が全身を覆う。
誰かがネットで彼女についた悪態、
「阿形渓は、全身これ犀のけつ」
剥落する角質化した皮膚。
何度もでてくる悪夢のイメージはこれなのか。

【カリン・安奈・カスキ】
阿形渓の作品「ラギッド・ガール」の少女「阿雅砂」にそっくりな女。
アンナが阿形渓に巻き取られていく。
悪夢はさらに加速する。

数値海岸がどのように開発されたかを描いている
説明的な部分が多いストーリーなのに
インパクトのある登場人物たちがそれを彩り、魅力的です。

   

人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという
画期的な技術によって開設された仮想リゾート“数値海岸”。
その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ
一人の醜い女の存在があった―“数値海岸”の開発秘話たる表題作、
人間の訪問が途絶えた“大途絶”の真相を描く書き下ろし「魔述師」、
“夏の区界”を蹂躙したランゴーニの誕生篇「蜘蛛の王」など全5篇を収録。
“数値海岸”開設から長篇『グラン・ヴァカンス』に至る数多の謎を明らかにし、
現実と仮想の新たなる相克を準備する“廃園の天使”シリーズ待望の第2章。

   

〈魔述師〉 Laterna Magika
「大途絶(グランド・ダウン)」がどうして起きたのかが明かされる。
「数値海岸」が人道的な観点から問題ありじゃないの、
というひっかかり。
前作を読んで感じていたことが、ここに組み込まれている。
おもしろかった。
「情報的似姿」はいずれ物理世界の似姿デッキのなかで
消去される存在だと自覚しているんですね。
「大途絶」はそこに派遣されている情報的似姿の大量殺人でもある。
…ほんとうに一筋縄ではいかない物語です。

シュレッドされたゲストの情報「微在」から生まれたふたつのもの。
「硝視体(グラス・アイ)」の成り立ちがやっとわかりました。
「微在」は鯨に吸い込まれてしまった。
「この微在がいずれ数値海岸ぜんたいを決定的に汚染していく」

ドラホーシュはゲストなきまま放置されている数値海岸を
どうしたいんだろう。
内部から崩壊させたいのか、あるいは崩壊を阻止したいのか。

Laterna Magika 幻燈機

「情報的身投げ」という行為、これもすごい。
AIの権利擁護のための敵対的監視行動。
目的はきれいなものでも、数値海岸に欲望を映し出され、
あばかれる実行者たちの精神の暗渠。
こういう視点が好き。

〈クローゼット〉
安奈さん、コワイですってば
「コートの女」「タイルを剥ぎ取られること」
数値海岸には安奈がいる。

〈夏の硝視体(グラス・アイ)〉
テイルにはそういう意味合いがあったんですね。
「コットン・テイル」うさぎのまるいふわふわのしっぽ。

〈蜘蛛(ちちゅう)の王〉
ランゴーニを区界の外に連れ出したのは、
〈魔述師〉で教えを受けていたあの男ですね。
ランゴーニの父の行為は意図したものなのか。

あとがきにはこう書いてあります。
〈夏の硝視体(グラス・アイ)〉と〈蜘蛛(ちちゅう)の王〉は、
仮想リゾート「数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)」の内部が舞台で、
〈ラギッド・ガール〉と〈クローゼット〉には
現実側―物理世界での出来事が書いてある。
〈魔述師〉は両方にまたがっている。

〈汎用樹(オムニトウリー〉のある区界を出た
ランギーニはどこに行くのか、
何をするのか。
物語はまだまだ続くということです。
全体像が見えてくるのは、どのくらい先になるんだろう…

 

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉

  • 作者: 飛 浩隆
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本

 


タグ:SF 飛浩隆
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