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『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』 [読書]

村上春樹論。
著者は『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』を
翻訳しているジェイ・ルービン。

「はじめに」
はじめから認めておこう。私は村上春樹ファンだ。
作品を読んだときから
本人のことも好きになるだろうとわかっていた。
私と同じように村上氏に親しみを覚え、
彼の人生や作品について知りたいけれど、
日本語が読めないから無理という愛読者のために
この本を書いた。

こんなふうな文章から、この本は始まります。
日本語は読めるけれど、
ほとんど村上春樹について知識がない私のような人間にとっても
この本はとてもおもしろかった。
村上春樹作品の優れた手引き書になっています。

「本をいちばん精読するのは訳者だ」 
という強烈な自負がバックにあるようです。

「僕の文体に人を引きこむものがあるとすれば、
さびしい孤独へと容赦なくすべり落ちながらも、
そのことに独特のユーモアを見出しつづけていることでしょう。
せめてこのスタンスは、
どんなに歳をとっても失わないようにします。」 
2001年8/13 ジェイ・ルービン宛ての私信

中上健次の名前が出てきて驚きました。
この2人に接点があったなんて初めて知りました。
ジャズ喫茶の寡黙なマスターと常連客という関係だったとあります。

近年、村上は日本文学を読むようになったが、
それらは古典ではなく、近現代文学である。
1985年に村上がフォークナーばりの小説家中上健次と対談した際には
中上と、官能を喜劇的に描く文豪谷崎潤一郎以外の日本の作家は
ほとんど読んでいなかった。
三島由紀夫にいたっては、全く興味がなかった。
「自己形成期を通じて僕は、日本の小説を読んで心を動かされたり、
胸を打たれたりした経験を一度も持ちませんでした」とも述べている。

小説家は自分の社会の文化に対して
重大な責任がある、と村上春樹は考えている。
村上は大江健三郎を高く評価している。
村上が距離を置いていた日本の主流である「純文学」を信ずる者として
(ならびにその中心にある人物として)の責任をまっとうしているからだ。

大江や中上健次が緩衝装置の役目を果たしてくれていたため、
村上のような新しい作家が言いたいことを模索することができた。

十年は模索できると踏んでいた村上にとって、
前前年に中上が急逝したことは打撃になった。

まもなく自分は日本人作家の「トップランナー」の一人として、
政治的にも明らかな立場をとらざるを得ないだろうし、
おのずと自分のテーマも決めていくことになるだろう。
試行錯誤の時は終わった。
これは村上が政治家や
ソーシャルワーカーになろうとしていたということではなく、
書くことを通して社会全般の考え方や態度の変化に
何らかの貢献ができればと思っていたのだ。

こうして生まれた、真摯で自己意識に立脚した最初の作品が
『ねじまき鳥クロニクル』と言えよう。

『ねじまき鳥クロニクル』について書かれた部分
とてもおもしろかった。
わかりやすく優れた解説です。

『ノルウェイの森』が売れすぎたことの波紋、
1995年の阪神大震災とオウム真理教による事件を
どのように受け止めたか、
このあたりには当然ふれられています。

『海辺のカフカ』が『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の
続編として書かれたこと、 まったく知りませんでした。

村上は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の
続編を書きたいと長年思っていたが、
『海辺のカフカ』はその願いをほぼ満たす作品となった。
直接の続編を書くには時間が経ちすぎていたから、
旧作のストーリーが継承されているわけではないが、
「精神的」に結びついているものになったと村上は語っている。
しかしこの作品が互いに響きあうものであることは間違いない。

私が初めて読んだのは『ノルウェイの森』 
初期の短編は苦手。
しばらく間があいて
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を読みました。
そして、これがベストの作品だと思っています。
村上春樹に対する知識がほとんどない状態だったので、
ハードボイルドとファンタジーを読む感覚で読み通し、
魅了されました。
世界の終わりの静謐さがとても好きだった。

『羊をめぐる冒険』
村上龍の長編小説『コインロッカー・ベイビーズ』に
感銘を受けた村上は、同じくらい息の長い作品を書きたい、
好評を集めたそれまでの二作品は、
短い章をつないでいったものだったが
それとは異なるものを書きたいと思った。
『コインロッカー・ベイビーズ』の
すさまじいエネルギーを受けて村上は、
モンタージュよりもストーリーテリングの見地から
物語に勢いと強い完全性を与えたいと思うようになった。

『コインロッカー・ベイビーズ』に動かされたんですね。
私は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の後に
『羊をめぐる冒険』を読みましたが
これで確実に村上作品のファンになり、今に至るというわけです。
この時点でやっと『ノルウェイの森』は
彼の作品では異質な部類に入るのだと
遅蒔きながら理解しました^^;
読む順番が違ったのかもしれない。

『グレート・ギャツビー』が手元にあり、
これからゆっくり読もうと思っています。
(ロバート・レッドフォードとミア・ファーローの顔が
ちらついてしまう。
『華麗なるギャツビー』は見てないのに^^;)

グレート・ギャツビー

グレート・ギャツビー

  • 作者: 村上春樹, スコット フィッツジェラルド
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 単行本


タグ:村上春樹
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コメント 9

真紅

miyucoさま、こんにちは。TBさせていただきました。
この本、ジェイ・ルービンの「村上春樹愛」が物凄く伝わってきて、春樹ファンとしてはうれしい限りでしたよね。
『コインロッカー・ベイビーズ』は私も大好きだったのですが、ここのところ龍氏の本は読んでないのです。
何故だろう・・?
今年はmiyucoさまと交流できてとっても楽しかったです、ありがとうございました。
来年もお話できるとうれしいです。よいお年をお迎え下さいね。ではでは。[ラブラブハート]
by 真紅 (2006-12-28 17:51) 

まつり

はじめまして[ぴかぴか]
私は村上春樹さんは今まで「食わず嫌い」だったのですが…
この記事を見て読みたくなっちゃいました[ニコニコ]
ありがとうございます。
by まつり (2006-12-28 21:15) 

miron

この本、読んでみたくなりました。
良いお年を。
by miron (2006-12-29 09:17) 

miyuco

>真紅さま、コメント&TBありがとうございました♪
遅れてきた春樹ファンの私にはこういう本がとても嬉しいです。
真紅さんに教えていただいてよかった[!!]ありがとうございました[ラブラブハート]
また、いろいろと教えてくださいね。
来年もよろしくお願いいたします。
by miyuco (2006-12-29 18:58) 

miyuco

>まつりさん
はじめまして。
『東京奇譚集』はとても読みやすいですよ。
ぜひ、お楽しみくださいませ^^
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-12-29 19:00) 

miyuco

>mironさん
春樹ファンの先輩である mironさんなら、私よりももっと
この本を楽しめると思いますよ[ラブラブハート]
nice!とコメントありがとうございました♪
来年もよろしくお願いいたします[ぴかぴか]
by miyuco (2006-12-29 19:03) 

sknys

miyucoさん、新年おめでとう(←松の内は15日までらしい)^^;
遅ればせながら『東京奇譚集』(2005)を読みました
(本来なら過去記事に付けるべきですが、年始も兼ねているので、
ここにコメントします)。

「偶然の旅人」の2つのエピソードは実際に起こった事実かもしれません。
しかし、3つ目の「ある知人が個人的に語ってくれた物語」は
フィクションっぽいですね。
「人が物語っていると物語る」ことで、リアリティを保証するわけですが。

「ハナレイ・ベイ」は、サーフィン中に鮫に右脚を喰いちぎられて
溺死した息子の鎮魂に、ピアニストの母親が毎年ハワイヘ訪れる話。
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」は、
高層マンションの階段〜踊り場で忽然と消えた夫を探査する
「私立探偵」が登場します。

「日々移動する腎臓のかたちをした石」は、純文学系の作家が
「綱渡りパフォーマー」の恋人に執筆中の短篇のストーリを話して聞かせる。
「品川猿」は、自分の名前を忘れてしまう症状に悩む女性が
区の主催するカウンセリングを受けます。

偶然の一致や幽霊、突発的な記憶喪失、「移動する腎臓」など、
少し奇妙なところがあるものの、
レアリスムの領域に収る「純文学」だと安心して読み進む。
ところが、名札を盗んで捕まった「猿」が喋り出した瞬間、
今まで現実だと思っていた世界が、ガラガラと音を立てて崩れ去る。

『新・猿の惑星』のスーパー・モンキー?
‥‥人間の言葉を話す猫が『海辺のカフカ』にも出て来ましたよね。
この「猿」の存在が『東京奇譚集』の最大の謎ではないでしょうか。
by sknys (2007-01-13 23:56) 

miyuco

sknysさん、今年もよろしくお願いいたします。
猿が喋りだした途端に、ムラカミハルキの本を読んでいることを強く意識しました。
ヒトではないものが突然しゃべり出す、過去の作品に何度も出てくるシチュエーションですよね。
すでに謎とも思わなくなってしまってます[汗汗]

わたしは「日々移動する腎臓のかたちをした石」が一番好き。
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-01-14 11:08) 

miyuco

ao-yuさん、nice!ありがとうございました^^

by miyuco (2009-04-25 20:12) 

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