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『図書館の神様』 瀬尾まいこ [読書]

「おまえは気がつかなくとも、
この爽やかな風にはもくせいの香が匂っている、
心をしずめて息を吸えば、
おまえにもその花の香が匂うだろう。」

山本周五郎の作品『さぶ』から引用される
この言葉が心に残ります。
思いがけないところに、神様がいて、救ってくれる。
どの教室からも海がみえる高校。
そこの図書館にも神様がいました。

瀬尾まいこさんのストーリーは、
傷ついた心をことさらに強調することがありません。
さりげない文章の中に、ときおり顔を出す。
現実でもそうだと思う。
ずっと傷ついた顔をして生きているわけじゃない。
でもそれは、折に触れて立ち上ってくるやっかいな感情です。
そのすくい上げ方がとても上手だなといつも思います。


   

思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、
驚いたことに“私”は文芸部の顧問になった。…
「垣内君って、どうして文芸部なの?」
「文学が好きだからです」「まさか」!…
清く正しくまっすぐな青春を送ってきた“私”には、
思いがけないことばかり。
不思議な出会いから、
傷ついた心を回復していく再生の物語。
              (「BOOK」データベースより)

   

18歳までの清(きよ)は清く正しい人間だった。
それが、だんだんと、いい加減で
投げやりになったと清は言う。
22歳の今は不倫しているし、
バレーボール部の顧問になることが目的で講師になったので、
学校での仕事は苦痛でしかない。
ちっとも清く正しくない。

昔の私は「もっとちゃんと打ち込む人間だった」
でも今は違うと言う清に、
「きっと、今の先生にはその昔の性分が
いやってほど残ってますよ」
たったひとりの文芸部員、垣内くんはこう言います。

自分では気づいていないけれど、
垣内くんの言うとおりです。
生徒の顔をちゃんと見ている。
一方的に授業を進めたりしない。
「正しいことが全てじゃない」
弟の拓実がこう言ったことに憤慨していた、
あの頃の清ではない。

垣内くん、いいヤツですね。
なかなか頑固で正しい。
文芸部最後の日、グラウンドに飛び出して
顧問と部員がふたりで走る。

優しい弟くん、拓実。
姉ちゃんのために泣く。
自分のためには泣かないのに。

一年間、高校講師を務めた海辺の街から、故郷の街へ帰る。 
教師として戻っていく。
自分以外の世界に触れる方法を見つけたから。
最後の三通の手紙、泣けました。


 

図書館の神様

図書館の神様

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: マガジンハウス
  • 発売日: 2003/12/18
  • メディア: 単行本

 


タグ:瀬尾まいこ
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コメント 2

びっけ

ちょっと内容を忘れていたので、また図書館から借りて再読しました。
不倫相手の浅見さんより、彼女は垣内くんの方にずっと支えられて(精神的に助けられて)いたように感じます。そして弟の拓実くんにも。
結局、人間って年齢じゃないなぁ、年をとっていても人の心や痛みが分からない人もいるし、若くたって、人の心に寄り添って必要なことを言ってくれる人もいるし・・・。そんなことも思いました。
☆ 垣内君が文芸部ノートに書いた「雨って、昔自分が流した涙かもしれない。心が弱くなった時に、その流しておいた涙が、僕達を慰めるために、雨になって僕達を濡らしているんだよ」という言葉に「涙のふるさと」を連想しちゃいました。
by びっけ (2007-02-11 17:54) 

miyuco

>びっけさん
浅見さんってなんだか間の抜けた役割でしたね^^
あの時の清にとっては必要なひとだったのでしょうけれど。
瀬尾さんのエッセイ『見えない誰かと』によると
垣内くんは実在するそうですよ[!!]
図書館の順番待ちなのですが、読むのを楽しみにしています。

そうですね、「涙のふるさと」みたいですね[ラブラブハート]
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-02-11 21:34) 

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