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『アメリカン・パイ』 萩尾望都 [コミック]



萩尾望都 『アメリカン・パイ』
初出1976年プリンセス


 

生と死を問いかけてくるこの作品が大好きだった。
萩尾作品の中ではもっともストレートに
響いてきた物語だったかもしれない。
もちろん今でも大好き。

自分の命と向きあうリューの何ともいえない瞳。
萩尾さんの絵が素晴らしい。

オレンジの花さく
常夏の光の国
オレの生まれ育った
風と光のマイアミ

グラン・パはふとしたきっかけで、
みよりがないと思しき女の子リューと出会い
居候させることになる。
グラン・パはミュージシャンで世話好きでおひとよし。
自分の事を語ろうとしないリュー。
いつも口ずさんでいるのはドン・マクリーン「アメリカン・パイ」
なんか歌ってみなよリュー
と一緒にステージに出るグラン・パ
「なんでもいいんだよ 
だれだって考えてることってのがあるだろう?
ただ そいつをくちに出すだけさ」
リューからほとばしり出るのはぶどう畑の風景、
ボルドーの美しい四季を唄った即興の音楽。

リューは自分の余命が幾ばくもないことを知っていた。
ボルドーのぶどう畑や両親を愛している。
でもそこにいる事はどうしてもできなかった。
「わたし なにかになりたかったのかもしれない」
家を出て九ヶ月、たどりついたのはマイアミ。

「人が死ぬということは 
まったくいなくなってしまうということなのだ」
「呼んでも 呼んでも 答えが返ってこないことなのだ」
「いっさいが想い出となり
めぐる時にやがて忘れられてしまうことなのだ…」
グラン・パはこう思っていた。

「つるつるの壁にツメをたて 
死の底に落ちるまえに 
なにかにすがろうとしている」

そんなふうに日々を過ごし歌うリューを見ているうちに
グラン・パの考えは変わっていきます。

「グラン・パはわたしのこと忘れちゃうね…
わたしがいたこと 歌ったこと みんな消えてしまう」
グラン・パはこう言います。
何年も便りをよこさない友だちでもみんな覚えている。
忘れたりしない。
「だってこまるだろ 
友だちはまたいつか 
たずねてくるかもしれんだろ?」

「わたしが目のまえで死んでも
信じないでいてくれる?
どこかにいって
また会えるかもしれないってことにしていてくれる?」
「やあ!っていってくれる?
いつでも?そういってくれる?」

古い古い歌が 
だれがつくったのかわからないくらい古い歌が…
それをつくった人のことも歌った人のことも
すべて忘れさられ消えさっても
その歌は残ってるように…
幾世代過ぎても想いはともに時をこえ 
歌いつがれ歌いつがれて
そこに残っているように
そんなふうに 命の消えぬ限り時の消えぬ限り
いや もし なにもかもが失われ消えても
…果てぬ闇の底に 想いだけは残るのだ…

「想いだけは残る」
10代の頃に読んでいた70年代少女マンガから
様々なメッセージを受け取りました。
その中でも一番大きく心に残ったのがこういった考え方です。
私の精神の深い部分に沈み込み、
ふとした拍子に顔を出してくる。
そしてこれは萩尾望都さんの作品の多くに
通底するメッセージでもあるような気がします。

娘を取り戻そうとフランスから飛んできた
リューの両親にグラン・パがいうセリフ。

「あんたらは まな娘を失うが 
リューは自分自身を失うんです」
「愛の本にバイブルに 神さまにロックにダンス 
なにが魂を救えるかわからんです」

こんなふうに胸を突かれるセリフがとても多い。
大好きな作品です。

『American pie』という曲についても
書こうと思ったのに長くなってしまった…
つづきます


タグ:萩尾望都
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コメント 6

sknys

miyucoさん、こんばんは。
アメリカン・ポップスには〈花のサンフランシスコ〉
〈夢のカリフォルニア〉〈幸せの黄色いリボン〉
‥‥など、ドリーミングな曲の系譜がありますね。

「アメリカン・パイ」はクライマックスを冒頭に描く倒置法と、
リュシェンヌ・クレーの「死」を描かないエンディングに
作者・萩尾望都の非凡さを感じます。

人が死んでも、その人への「想い」は残る。
「想う」人が死んでも、その「歌」が残る。
グラン・パの「想い」を綴った「歌」が
「アメリカン・パイ」という作品ではないでしょうか?
‥‥Don Mcleanの「想い」が〈American Pie〉という
曲になったように。

〈American Pie〉からの引用が少ない(著作権の制限?)ので、
若い読者には何のことか分からないかもしれません。
グラン・パのキャラは情緒不安定の主人公をサポートする友人
〜兄〜父親役として、その後の作品に継承されて行く。

初期作品には岡田史子の影響があるのかな?
‥‥子供には難解で、分からないのかなと背伸びして
「COM」を読んでいましたが、今読んでも岡田史子は謎ですね。
by sknys (2007-04-04 02:11) 

miyuco

>sknysさん
グラン・パは『メッシュ』のミロンですよね。
『メッシュ』の頃の萩尾さんの絵はすさまじく綺麗でした。
その一歩手前の時期の『アメリカン・パイ』は
まだやわらかい雰囲気の絵柄で、
リューの瞳の深みを表現するのにちょうどいいかんじだったのかなと思ったりします。
〈American Pie〉の歌詞を理解して
この作品がもっともっと輝きを増したように感じます。
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-04 18:36) 

文庫になったのですね。
我が家では昔出版されたものが、書庫にいます。今でも大好きです。
センシティブな青春時代にこういう作品に出会えて、私も本当に良かったです。
原曲を知らないまま、若い頃の私は、リューになりかわって、歌うように歌詞をつぶやきながら読みました。
死と対峙する時見えてくるもの、そしてそれを見守る者。それぞれに切ないものがあって。
「やあ、って言ってくれる?」って台詞が好きでした。
そして、リューの死そのものが描かれなかったことで、「死の受容」の形が色々と膨らんで、奥が深いですよね。
by (2007-04-21 00:52) 

miyuco

☆宝塚で上演されたのでそれを機にタイトルに「アメリカン・パイ」を
持ってきて文庫にしたようです。
この表紙絵が大好きなので文庫化が嬉しかった。[ラブラブハート]
リューの表情がとてもいい。
昨今、愛するひとが死んでしまう物語が目に付きますけれど
「アメリカン・パイ」で萩尾さんが描いているような部分にまで
届いている作品はないと思います。
ミミ猫さんがおっしゃるように若い頃に読めてほんとに良かった。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-21 16:37) 

ユリ花

最近思い出すようになったので、検索してみたらここに来ました。
おじゃまします。

私が読んだときは高校生でした。
二日間くらいショック受けてたの思い出します。
本当にすごいセリフがいっぱい。
もーさまの作品で一番好きな作品です。

想いだけは残るんです…。

ありがとう。
by ユリ花 (2011-12-26 00:59) 

miyuco

ユリ花さん、こんにちは^^
萩尾さんの代表作としてあげられることは
あまりないかもしれませんが
宝物のような作品だと思っています。
本当に大好きです。
同じように感じていらっしゃる方に
コメントをいただいてとてもうれしいです!

漫画家の羽海野チカさんが萩尾さんの作品で
まっさきに「アメリカン・パイ」をあげてらして
うわ~ってなりました^^
by miyuco (2011-12-29 21:00) 

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