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『ロング・グッドバイ』 [読書・海外]

レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
タイトルだけはよく知っていたけれど読む機会がなかった。
村上春樹による新訳を読んでみました。

おもしろかった!
おいしいものをとっておいてよかったと思ってしまった。

私立探偵フィリップ・マーロウが
酔っぱらいのテリー・レノックスと出会う。
そこから物語は始まります。
白髪(銀髪?)で顔に傷跡がある妙に礼儀正しい
酔っぱらいテリー・レノックス。
マーロウは彼に好感を抱く。

ラスト近くに出てくる有名なセリフ。
「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」
「I suppose it's a bit too early for a gimlet. 」
(清水俊二・「長いお別れ」では「ギムレットにはまだ早すぎるね」)
これが、この場面で出てくるとは…
ガツンときます。
なんてかっこよくて陰影に富んだセリフなんだろう。

チャンドラーの人物描写はとても丁寧なんですね。
どの登場人物もくっきりと浮かび上がる。
ヴェリンジャーのコロニーにいる
クレイジーなアールがお気に入り。


しなやかな身体、繊細で完璧な顔立ち。
「その格好たるやまさに見ものだった。」
不気味できれいで暴力的。印象に残ります。

Vで始まる名前の医師を
訪ねていくエピソードがおもしろかった。
(本筋とは関係ないけど)
骨董品なみに古くて汚いビルで開業しているヤク中の医者。
もう一人はお上品な仮面をかぶっている医者。
マーロウにその仮面を引き剥がされる。

苦い後味の物語。
戦争の傷跡が物語を動かします。

マーロウは美女とねんごろな関係にならないで
終わるのかと思ったら
そうではありませんでした。

「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」
「To say Good bye, I die a little. 」
(清水訳では「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」)

*****

「心理描写を省き、
会話と行動の描写でつないでいく。
簡潔な文体」

それがハードボイルドの特徴であるならば、
会話が魅力的でなくてはならない。
村上訳は会話文が堅苦しいように感じた。
それは村上春樹が書く作品の特徴でしょうけれど
訳文にはどうかな。
原作の雰囲気にそぐわないと
原文を読めないわたしが判断することはできないけれど。

最初は文章にのれなかった。
「ロールズロイス」
…「ズ」にするこだわりが村上春樹らしいのでしょうけど
ひっかかってしまう。

「<ダンサーズ>は、いくら金を積んだところで
人品骨柄だけはなんともならないということを人に教え、
幻滅を与えるために、この手の連中を雇い入れているのだ。」

「人品骨柄」「じんぴんこつがら」
人としての品格、品性という意味。(調べました^^;)
お堅い言葉がリズムを乱す。

「<ダンサーズ>では、金にものをいわせようとしても
当てがはずれることがあるのだ。」(清水訳)

「はんちく」
戦争中にテリーと関わりがあったやくざの親玉メネンデスが
マーロウを罵倒するのにつかう言葉。
「はんちくの安売り野郎」

…うっすらとどこかで聞いたことがあるけれど
私には馴染みのない言葉。
元は東京弁で「中途半端なこと」という意味のようです。
村上さん、「ケチな野郎だ」とか「チンピラ」とかじゃダメだったの?

実はあんまりひっかかるもので
清水俊二訳の『長いお別れ』も読んでみた。
わたしにはこちらの訳の方がしっくりいく。

仕方ないです。
だって清水俊二の訳した本を若い頃から読んでいて
この文体に馴染んでしまっているんだから。
個人的な感覚です。

でも、村上春樹が訳さなければ
この本を読むこともなかったわけで
そういった意味では、500頁以上ある長い物語を
精魂込めて翻訳してくださった村上春樹氏に感謝です。

ロング・グッドバイ

ロング・グッドバイ

  • 作者: レイモンド・チャンドラー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2007/03/08
  • メディア: 単行本
長いお別れ

長いお別れ

  • 作者: レイモンド・チャンドラー, 清水 俊二
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/04
  • メディア: 文庫

タグ:村上春樹
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コメント 2

真紅

miyucoさま、こんにちは~。遅ればせながら私もようやく読了しました。
TBさせて下さい。
「はんちく」私もすごく引っかかりました。今日び使いませんよね~。
(東京では使うのでしょうか?)
マーロウに江戸っ子のイメージは無いのですが・・。
清水訳も読まれたのですね。私は『ギャツビー』も野崎訳が気になって購入したのですが、まだ読んでないんです(恥)。
細かいところは置いておいて、とにかく面白かったですね!
村上春樹が楽しんで訳しているのが伝わってきて、読んでいてうれしかったです。
ではでは~。
by 真紅 (2007-06-30 00:31) 

miyuco

真紅さま、こんにちは。
『ギャツビー』はまだ積ん読状態でございます^^;
村上氏、楽しそうな感じでしたよね。
最初は訳文に馴染めなかったのですが
徐々に引きこまれていって気にならなくなりました。
物語の力に惹きつけられたというか。
読んでよかったなと思いました。
村上春樹の新作もそろそろ読んでみたいですよね。
コメントとTBありがとうございました♪
by miyuco (2007-06-30 11:20) 

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