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『バベル』 [外国映画]

もしこの映画が観る人を選ぶというならば
私は選ばれなかった人間だと思う。
賛否両論あるというならば、「否」に傾いてしまう。

旧約聖書「バベルの塔」
天まで届く塔をつくろうとする思い上がりが神の怒りに触れ
言語を遮断されバラバラになってしまった人々。
言語を等しくしていても映画の登場人物たちはわかりあえない。

この監督の作品を観るのははじめてです。
音楽がよかったな。緊張感のある楽器の音。
少しだけしか出てこないのに坂本龍一の音楽は
なぜこんなにもスクリーンに似合うんだろう。「美貌の青空」

モロッコで狙撃事件に遭遇した米国人夫婦、
彼らの留守を預かるメキシコ人家政婦、
図らずも銃を撃ったモロッコの少年、
東京に住む聾唖の少女。
舞台は三カ所、四つのストーリーが交錯する。

映画を見終わったとき、見えるはずの希望の光が
私には見えなかった。
かすかにしか感じない
思いっきりネガティブな感想でございます。
しかもネタばれ…

夫婦で話し合う機会を設けるため(二人きりになるため)
幼い子供二人をシッターに預けてモロッコを旅する米国人夫婦。
妻が狙撃され瀕死の重傷、なりふり構わず妻を救おうとする夫。
生と死のギリギリの狭間にたったときにやっと二人は和解する。

遠い異国の地に赴き、生と死をわかつ瀬戸際にならなければ
わかりあうことができないのか。暗澹とした気持ちになります。
しかも実は彼らの知らないところで子供たちは酷い目にあってる。
二人の溝は子供を突然に失ったことが原因なのに。
この夫婦、これからだいじょうぶなの?

メキシコ人家政婦は自分の息子の結婚式に出たいがために
幼い子供を連れてメキシコまで出かける。
結婚式が終わり夜遅く帰る途中国境を越えようとして
泥酔した甥がトラブルを起こす。
結果、家政婦はアメリカでの生活をすべて失うことに。
子供たちに危害を与えるつもりではなかったのに。
モロッコの山羊飼いの兄弟。
ライフルを親から渡されるも彼らにとってそれは
新しいおもちゃにすぎない。
兄弟の競争意識から的当てをはじめるが
その的はアメリカ人観光客の乗るバス。
負傷者が出て、ことは国際問題にまで発展。
両方のケース、軽い気持ちではじめたことが
取り返しのつかない結果を引き起こす。

モロッコの幼さの残る子供。
自分のやったことの意味がはじめてわかるのは
兄が狙撃されて動かなくなり、父親が慟哭したとき。
そこでやっと銃をたたき壊す。
兄から流れる血の赤をみて逆上し反撃に出たために
最悪の事態を招いてしまった。
せめて反撃しなければ…しかし時はもどらない。
世界のリアルを感じるのが遅すぎた。
自分のしでかしたこと、自分のいた世界がどんなに
価値のあるものだったのか、理解したのは
大きな代償を払った後でした。
やりきれない。

東京。
耳が聞こえず言葉を発せないチエコを演じる菊地凛子。
イライラととがったまなざしから孤絶感が圧倒的に伝わってくる。
刑事を呼んだのは自分の話を聞いてくれる人間を
他に思いつかなかったからなのかな。
言葉で表現できないもどかしさがあの体当たりのアピールに
なったのでしょうか。痛ましい。
声を振り絞る泣き声はあまりにも悲しかった。

ラストの父と子の抱擁。
それはこれからの和解への一歩にすぎないんじゃないのと
シニカルに観てしまった…
「父さんだって母さんがいなくなって寂しいんだよ」
映画前半で役所広司演じる父親のこのセリフが嫌い。
娘が欲しいのはそんな言葉じゃないでしょ。
これから不安定な娘を受け止めることができるのかな。

渋谷でのチエコさんの無軌道ぶり。挑発行為。
う~ん、あまりにもアメリカンな行為のような気が…
日本だけど日本ではない感じ。

ケイト・ブランシェットの表情だけの演技が素晴らしかった。
ブラッド・ピット、すてきでした。
老けたなアンジーと結婚したからかなと思ってたけど、
老けメイクだったの?
病院で子供と電話で話しているブラピの姿が
スクリーンに現れたときにはグッときてしまった。
時系列が歪んでいるのだとそこでわかりました。

ガエル・ガルシア・ベルナル、素敵すぎ
ニーっと笑った顔の口元が大好き。
彼が演じた甥っ子も実はいいヤツだった。
子供たちの面倒をみたり気配りしてたもの。
キレなきゃよかったのに…

刑事さん、二階堂智。
勝野洋?渡部篤朗?…でも違うみたい。
と悩みました^^;

観ている最中、
福島で母親を殺害し頭部切断した高校生の事件が
頭をよぎってしまって、やりきれなかった。
短絡的な犯行、それがどういう結果を引き起こすか
彼が理解するのはきっとずっと先になるでしょうけれど。

エンドクレジットに藤井隆の名前を見つけて笑ってしまった。
 


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コメント 4

真紅

miyucoさま、こんにちは。拙宅にコメントありがとうございました。
TBは届いていなかったのですが、こちらから送らせていただきました。
さて。「否」の感想だったのですね。
あのアメリカ人夫婦の傲慢さは、監督のアメリカそのものへの視線かもしれないですね。
私もあのヤスジローのセリフは嫌いでした。そんなこと言わなくてもわかってるよ、と。
藤井隆、クレジットされていたのですね。J-POPのスクリーンに映った映像、わざわざ映画のために撮影したのでしょうか?
『ロスト・イン・トランスレーション』といい、外国人から見ると彼って日本のエンタメの代表なのでしょうか。
by 真紅 (2007-05-18 03:57) 

miyuco

真紅さま、こんにちは。
ダラダラした文章を読んでいただいてありがとうございます。
TBうまくいきませんでした。申し訳ありません。
ソネブロとFC2はときどき相性が悪くなる見たいです(v_v。)
『バベル』
光が見えたでしょうと言われればそうかなと思ってしまいます。
チエコの手紙の内容がはっきりしなくても別にいいかな。
本当の気持ちを書いたのかもしれないしそうでないかもしれない。
どちらにしても痛ましい印象の手紙だったのでしょう。
アメリカ人観光客が全員無慈悲な人間のように描かれて
あれはちょっと一方的すぎかなと鼻白むところがありました。
(ひょっとして私ってひねくれてる?)
『ロスト・イン・トランスレーション』にも藤井隆出てるんですか。
なにげに国際スター(*≧v≦) 
真紅さんのところにまたおじゃまさせてくださいませ。
それでは。
PS…坂本龍一の曲はTVスポットに流れている曲です。
by miyuco (2007-05-18 18:17) 

ミック

私も否でした。
選ばれなかったとして、映画館を出た時はとっても悲しい気持ちでした。
どの話も中途半端で詰めが甘い気がしました。
それにどの話も当たり前の話で、特別な何かを感じなかったのです。
どうしても、3つの話が銃だけで、繋がっているのはなんとなく、
つじつま合わせの気がして、必然には思えませんでした。
>日本だけど日本ではない感じ。
私も激しく同意です。
だけど、
>声を振り絞る泣き声はあまりにも悲しかった。
これにも激しく同意なのです。
そして、
>ガエル・ガルシア・ベルナル、素敵すぎ
これには最も激しく激しく同意でした^^!
by ミック (2007-05-20 00:34) 

miyuco

ミックさん、こんにちは。
私も期待して観に行ったので残念でした。
信頼して拝見している映画ブログでの評価は
おおむね良いようなので、自分の感じたことはどうなんだろうと
自問自答したりして、これを書くのに時間がかかりました。
同意していただいて嬉しかったです。
役者さんたちは素晴らしかったと思います。
ガエルくん、本当に素敵すぎですよね[ラブラブハート]
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-05-20 18:08) 

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