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『オリュンポス』ダン・シモンズ(感想その3) [読書・海外]

『オリュンポス』感想その1

『オリュンポス』感想その2

オリュンポス下巻が半分ほど終わったところで
突如として「潜水艦」〈アッラーの剣〉が出現する。
「喪われた時代」末期、「ルビコン禍」と最初のP.Hが創られるまでの
「狂気の時代」につくられたものだと推測される。
こんな危急を要するものがここまできて出てこようとは…

768個のブラックホールを内蔵する弾頭の
目標にセットされていたのは当時の世界に残っていた768の都市。
ミニブラックホールが合体することで巨大化したブラックホールは
地球の内部を貫通して、反対側に飛びだしたのち、
また地球の重力に引きもどされて内部を通り抜け…
軌道リングまで到達し、地球の貫通を100回ほどくりかえす。

マーンムートは首をひねる。
「こんなにも美しい母星に生まれた知的生物が、
どうしてあんな潜水艦のような兵器を持ち、
―あの潜水艦にかぎらず、常軌を逸した攻撃兵器を持ち―
全面的破壊などという凶行に走るのだろう。
地球そのものの破壊はいうにおよばず、何100万人もの
人命を奪うに足ると考える精神宇宙とは、
いったいどのようなものだろう。」

モラヴェックと初めて出会う人類はハーマン。水底で。
瀕死の状態で意識朦朧としているハーマンの前に現れたのは
「プラスティックと金属製の、赤と黒の服を着た男の子」
氷壁を通り抜けて現れたのは「巨大なロボット蟹」
マーンムートとイオのオルフ。
「だいじょうぶ?手を貸そうか?」
ああ、なんて紳士的なマーンムート

セテボスの卵から孵った幼生をアーダがぶちのめす。
お腹の子供に接触しようとしたから。
母であるアーダの気持ちよくわかります。
待ちかまえていたヴォイニックスの大襲撃が始まるけれど
モラヴェックたちがやって来てくれれば
人類の行方もきっとだいじょうぶ。

そしてグランドフィナーレ。
このあたりまでくると長い物語を読んできてよかったと
しみじみと嬉しい。
イリアムの都全体が現在の地球へ移動してきた。墜ちた。
ディーマンたちはエルサレムの青い光に閉じこめられたユダヤ人を解放する。
デルフォイの青い光、イリアムの地球の600万人も解放しようとしている。
生き残った古典的人類も含めて地球上の人々は
バリエーションに富んだ構成になりました。
〈ハーマンの地球〉と〈イリアムの地球〉に
別々に生きていた人間たちが同じ地球のうえで
暮らすことになったわけです。
(ポスト・ヒューマン一人とモラヴェックもいる^^)

ラスボスのセテボスは〈静寂〉が地球に向かっていると知り
とっととどこかへ逃げてしまいましたとさ。
モラヴェックと対決するのかと期待してたのに。
イオのオルフの提案。
「まず、この脳形生物に核攻撃を加え、放射能の膿に変えてしまう」
〈静寂〉もなんだかわからなかったしこのへんが不満。

火星での量子エネルギーの濫用は治まったの?
神々が自重してくれるのか?
シコラックスはオデュッセウスにつれなくされたから
やさぐれてハチャメチャな行動をとっていたわけ?

キャリバンと戦う機会をひそかに心待ちにする自分に気づき
にやりと笑うディーマン。
次の作品の主役はディーマンかな^^

イオのオルフが子供たちを背中にのせてゆっくりと移動する。
そして背中から降りた子供たちに語り始める。
心を奪われる子供たち。
またひとつ平行宇宙が誕生するのでしょうか。
オルフの想像力の産物。

巻末にある訳者による「『オリュンポス』注解」がおもしろい。
「説教者(プレディケーター)」が何だったのかやっとわかった。
「プロスペローは彼らに託したようね―あなたの命と、
おそらくはあなたの同胞全体の未来とを」
モイラはハーマンにこう言っていました。
〈ロゴスフィア〉のプレディケーターとはモラヴェックのことだったのね。

「美味しいところを攫っていくモラヴェック。
なぜなら彼らは〈機械仕掛けの解決者(デウス・エクス・マキーナ)〉
なのだから」と解説にありました。

「デウス・エクス・マキーナ」
物語の終わりの方に登場して、特別な力を発揮して問題を解決し、
ストーリーを終結に導く登場人物もしくはモノのこと。
(例・水戸黄門の印篭)
う~ん、またひとつ新しい言葉を覚えたぞ^^;
でもご都合主義と感じさせない力があるなら
カタルシスを感じるわけであり、
そのあとのエンディングが余韻を残すものであれば
それは評価できるものなのではないでしょうか。
「オリュンポス」はそういう終わりかただったと思う。

マーンムートとイオのオルフはこのまま地球に留まるのかな。
恋いこがれていた地球と人類ですものね。
マーンムート、ダークレディと別れなくてはならなくて残念でした。
一世紀以上をともに過ごしてきたのに。
長い間、木星の衛星エウロパの氷でおおわれた海に
潜っていたマーンムートが今では地球の明るい日差しの下で
ストラトフォード・オン・エイボンの発掘プロジェクトをすすめている。

衛星イオ周辺の、放射線と硫黄だらけの宇宙空間で
長い間作業してきたイオのオルフが今では
地球の穏やかな空気の中で子供たちに物語を聞かせている。

こういう着地点だなんて、『イリアム』を読み始めたときには
まったく想像できなかった。おそれいりましたシモンズ先生。
マーンムートとオルフにとっては過酷な任務だったけれど
ある意味では夢が叶ったのかもしれないですね。
波乱含みではあるけれど、とりあえずハッピーエンドでよかったです。

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