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『天国と地獄』 リメイクドラマと映画 [日本映画]

『天国と地獄』をリメイクしたドラマを観た。
舞台を小樽に移し、時代設定を現代にしたために
若干の変更はあるがほぼ脚本は同じ。
セリフも映画とほとんど同じだったようです。

三船敏郎が演じた権藤を佐藤浩市がつとめる。
ふてぶてしい面構えで強気に攻めながら生きてきた男が
追いつめられていく。
圧倒的な演技の佐藤浩市に惹きつけられました。

でも、申し訳ないけど、ドラマを観た感想は
同じ脚本なら黒澤明監督の映画を観ればいいんじゃないの
と思っただけでございます。
あの映画の演出は唯一無二の宝物ですから。
(私ごときがこんなこと言うまでもないけど^^;)

権藤邸のシーン、テレビだと冗長に感じたのは何故だろう
と考えたらわかった、鈴木京香のアップが多かったからだ^^;
妻夫木くん、「砦なき者」の冷酷な顔はとてもよかったのに…

ピンクの煙が上がり燃やしていたと思われる場所に駆けつける。
海岸で船を燃やしている男は、例の鞄を持ってきた人物が
病院に勤める人間だとどうしてわかったんだろう。
(以前から顔見知りなのか?)

笑っちゃったのが伊武雅刀が白いスーツにスキンヘッドで
尾行するところ。目立ちすぎだってば。
麻薬中毒の共犯者の中途半端な描写は必要ないのでは。

見終わったあと、映画を観たいなとつぶやいたら
ダンナさんが持ってたことが判明。(隠してたのか?)
というわけで25年ぶりに観てしまいました。

昔、名画座で見た『天国と地獄』は音声が悪かった。
DVDだとクリアに人の声が聞こえる。
ドラマのセリフは本当に原作通りなのね。

権藤邸に犯人から電話がかかってきて狼狽しているところに
誘拐されたはずの息子がひょいと現れる絶妙のタイミング。
硬直した状況になり、どうなるんだろうと観客が息を詰めた瞬間に
事態は思いもかけない方向から動き出す。
見ている人間の呼吸がわかっているとしか思えない演出。

映画を観ていただかないととても説明できない呼吸です。
どうぞご覧になってください。
黒澤明が映画を知り尽くした監督だと素人の私でもよくわかります。

身代金を入れる鞄に細工するシーン
ここで権藤が見習い職人からの叩き上げだとわかる。
単なる強欲な金持ちではなく苦労の末に今の地位を手に入れたのだと
ここではっきりわかる。そしてそれを全て失うのだと。
部屋にいる大勢の刑事たちが全員思わず立ち上がり敬意を表す。
ここがとても好きです。

権藤が犯人との会話で機転を効かせ、子供の姿を見せるようにと
絶対条件を出す。権藤のしたたかさをきちんと見せてくれます。

身代金受け渡しの列車内のシークエンスの緊迫感。
すべてが終わり誘拐された子供に駆け寄り抱きしめる権藤を
遠くから見守り鼻をすする刑事。そこにかぶさるトランペットの音楽。
刑事たちは権藤のためにも背水の陣で犯人を捕まえてやると
奮い立つ。それが強く伝わってくる。

伊武雅刀の白いスーツとスキンヘッドは部長刑事ボースンを
模したものだったのね。
おっかない顔に似合わず情に厚いボースン(石山健二郎)に
叩き上げの刑事というリアリティを感じます。

ここから犯人を追いつめるための警察の戦いになっていく。
が、夜の街を徘徊する容疑者とそれを追う刑事たちの姿を
まったく覚えてなかった。ダメダメなわたしorz

刑事たちは暑いなか、足を棒にして手がかりを探す。
権藤邸を見ながら通話できる公衆電話をあたっている刑事の
「ホシの言い草じゃないが こっから見上げると
あの屋敷は ちょっと腹が立つな
全くお高く構えてやがるって気がするぜ」
というセリフのあと目の前の運河に対岸の道を歩く人影が映る。
ここで始めて犯人の姿がスクリーンに映し出される。

山崎努が麻薬受け渡しをするいかがわしくも混沌としたお店は
実在した「根岸屋」というお店をセットで再現したそうです。
無国籍風の猥雑な雰囲気が魅力的です。
http://www.koganecho.com/2006/07/15/art/

麻薬中毒者が集まるスラムのような場所も
当時、実際にあったそうです。昭和38年が舞台
ノスタルジーをかきたてる「三丁目の夕日」の時代
でも今では考えられない深い闇も存在していたことを思い知らされる。

狭く暑苦しい部屋に刑事たちが集まり捜査会議をひらく。
「あいにく花を買うような面は一人もいません」
そういう刑事たちの顔がいいです。

街中で権藤を見つけ近づく容疑者。タバコの火を貸してもらう。
権藤はそのときショーウインドウのなかの靴を見つめていた。
失意の権藤とそれをあざ笑う犯人の異常性が際だつ。

ラストでは事件から何年かたち死刑が確定した犯人と権藤が
刑務所の面会室でガラス越しに対峙する。
シャッターが落ちる有名なラストシーン。
犯人のギラギラしたまなざしの強烈さは
モノクロ映画だからこそ際だっているのかもしれない。
山崎努の演技が凄すぎる。

犯人の動機は本人の口から語られる。
でもそれだけではなく自らを過信しそれを認めない世間を恨み
自分の力を世にアピールしたいという歪んだ選民意識があるように思う。

紛れもない傑作です。
(全世界的にみんな知ってますよね

織田裕二主演で『椿三十郎』をリメイクするそうです。
その勇気は讃えられてしかるべきだとは思うけど…
森田芳光監督は苦手です。

甘い甘い考えの若侍たちが罠にかかり窮地に陥るのを救うため
たったひとりで立ち向かう三十郎。
鬼神のように凄まじい剣さばき、圧倒的な迫力
あれが再現できるわけがない。

天国と地獄

天国と地獄

  • 出版社/メーカー: 東宝ビデオ
  • 発売日: 2003/02/21
  • メディア: DVD


タグ:黒澤映画
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コメント 5

You

こんばんわ。
私は映画は観ていませんが、今回のドラマは見ました。でも、佐藤浩市の演技を見る以外は面白くなく、とっても残念でした。

捜査過程が全くなかったのが、大きな理由です。幾らドラマでもありえないと思いました。映画ではどうだったのでしょうか。それと、犯罪者側の背景が雰囲気でしか説明されていない、それに医者なら金持側だろうと思うし、麻薬中毒という理由も現実感がなく無理があったように感じました。時代設定もよくわかりませんでした。

犯人が病院の人と証言したのは、その後のセリフ、病院の方へ歩いていった。という言葉で説明しているつもりだったのではないでしょうか。確かにちょっとタイミングがおかしかったですね。
by You (2007-09-11 23:15) 

miyuco

tamaiichiさん、はじめまして。
ドラマは私も残念でした。
時代を現代に変えたのにセリフや設定が原作のままというのではやっぱりムリが出てしまう。
犯人の動機が納得できないのも当然です。
昭和38年当時はインターンの地位がとても低く
安い賃金でこき使われていたという背景があるようです。
今はたぶんそうではないですよね。
映画では横浜が舞台ですが麻薬中毒者が集う場所が出てきます。これも実在していたそうです。

映画の刑事たちは「犬になって」ホシを追いかけてました。暑さ厳しい夏に足を棒にして手がかりを探します。
子供の絵をもとに場所を特定する過程も丁寧に描かれてとてもおもしろかったです。

機会がありましたらぜひ映画をご覧になってくださいませ。
絶対にソンはしないと思います^^
コメントありがとうございました。
by miyuco (2007-09-12 11:48) 

miyuco

劇衆「漢組」さん、読んでいただいて
ありがとうございました。
by miyuco (2007-09-13 18:00) 

風来鶏

お怒りはごもっともと同感ますが、映画とテレビドラマは別物と考えれば、特に腹が立ちません。映画より凄いものを作ったら黒澤監督に失礼です[!?]黒澤監督がご健在で、セルフ・リメイクするのなら話は別です。日本映画を衰退に追いやったテレビが、今は映画を作って観客動員数の記録を更新しています。ハリウッドだけが映画ではありません。日本映画の益々の発展を願うためにも、今回のドラマを観て黒澤映画に興味を持ってくれた人たちがDVDで他の黒澤映画を観て、更には他の日本映画も観ようと映画館に足を運んでくれればと願う日本映画ファンの一人です[ニコニコ]
by 風来鶏 (2007-09-16 19:37) 

miyuco

風来鶏さん、はじめまして。
ドラマを見るとついつい揚げ足とりをしてしまう性格の悪い人間なのであまり見ないようにしているのですが
今回は見てしまったので目についたところを書いてしまいました[汗汗]
このドラマで映画を観ようと思った方は多かったのではないでしょうか。ぜひ観ていただきたいですよね[映画]
コメントありがとうございました。
by miyuco (2007-09-17 20:15) 

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