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『父と暮せば』 [日本映画]

映画『夕凪の街桜の国』を観ました。
原作を読んでいるといろいろと気になって
一つの作品として観ることが難しくなってしまう。

こうの史代の原作があまりに素晴らしいから、なおさら。

室内になると映像のチープな感じが目立ってしまい残念でした。
麻生久美子と田中麗奈のふたりはよかったと思う。
横顔が少し似ているような気がしました。

原爆投下直後の広島で身を守るためにしたことが
いつまでもいつまでも皆実を責めさいなむ。
それをつかの間忘れて、忘れてしまったことにまた傷つく。
原作で強く印象に残ったこの部分を
映画はどうして描かなかったんだろう。

『父と暮せば』の主人公美津江も
生き残った者ゆえの苦しみを背負っている
皆実と同じように苦しんでいる。
その苦しみが映画全般を通して伝わってきます。
生きていくうえでそれをどんなふうに扱ったらいいのかわからない。
幽霊となって登場する父との会話が
うつむいて生きてきた美津江に前を向かせる。

映画『夕凪の街桜の国』に出ていた
顔の半分が焼けただれているお地蔵さんは
『父と暮せば』にも出ていました。

   

井上ひさしが二年以上も費やして
被爆者の手記や資料を読み込み、その上で書き上げた戯曲
それを黒木和男監督が映画化した『父と暮せば』
自らも生き残った側の人間である監督は
美津江にどうしても自分を投影してしまうそうです。
役者たちはそんな二人の真摯な姿勢に誠実に答える。
そういったものが全て集約している映画だと観ていてわかります。
心を強く動かされる、しかも品位のある作品でした。

ほとんど父と娘の二人だけの会話劇。
広島弁の日常会話が温かい。
原爆が落とされてから三年後の広島で
生き残ったことの負い目からひっそりと一人で暮らす美津江。
演じるのは宮沢りえ。
明るく振る舞っていてもふとした表情に深い陰影がよぎります。
透きとおるようにはかなげですが凛としている。

美津江の前に父の竹造が幽霊となって現れる。
どうして現れたのか。
それは美津江の胸がときめいたから。



美津江は図書館で受付をしている。
そこに原爆の資料集めに情熱を注ぐ青年がやってきた。
ときめいた自分の心を否定しようとするような
でも抑えようもなく輝いてしまう宮沢りえの表情がとても美しい。

わしがおまいんとこへ現れるようになったんは
先週の金曜日からじゃが、あの日、
図書館に入ってきんさった木下さんを一目見て、
珍しいことに、おまいの胸は一瞬、ときめいた。そうじゃったな。
そのときのときめきからわしのこの胴体が出来たんじゃ。
おまいはまた貸出台の方へ歩いてくる木下さんを見て
そっとひとつため息をもらした。そうじゃったな。
そのためいきからわしの手足が出来たんじゃ
更におまいは あの人うちの窓口に来てくれんかな
そがいにそっと願(ねご)うたろうが
その願いからわしの心臓が出来とるんじゃ

父の声はやさしい。
なんてきれいなセリフ、ここが大好きです。胸に沁みこみます。
生の輝きが美津江の胸に宿ったのがわかる。

恋の応援団長を名乗る父・竹造。
美津江は幸せになることはできないと言う。
「自分が生きているのが申し訳のうてならん」

美津江が友の最期の様子をひとりひとり語っていく
ほんとうにむごいことです。
原爆瓦、この映画を観るまで私は知りませんでした。

あの日、娘は父を見殺しにするような形で別れてしまった。
それが一番大きく影を落としている。
でもそれは娘に生きていて欲しいという父の願いを
かなえた結果でした。

父は娘に生きていて欲しい幸福になってほしいと願う。

人間のかなしいかったこと、たのしいかったこと、
それを伝えるんがおまいの仕事じゃろうが。

たぶん美津江はわかっていた。
被爆体験にとらわれているだけでは一歩も前に進めないことも
父の死に負い目を感じていることを当の父は望んでないことも
わかっていた。
でもどうしても動きだせない。
だから父が出てきたのでしょう。

再生の物語。
宮沢りえと原田芳雄、素晴らしかったです。

おとったん、ありがとありました。

昔々ATG映画に出ていた頃から原田芳雄の大ファンです。
破天荒でいてどこかユーモラスでした。
あの真っ直ぐで揺らがない視線が好きだった。

本読み初日、宮沢りえはセリフが全て入っていて
しかもすでに広島に行き現地で下調べをしていた。
当初「りえちゃん」と呼んでいた原田芳雄はショックを受け
翌日からは「宮沢さん」と呼んでいたそうです。
http://www.japanpen.or.jp/katsudou/eventreport/20060303/peace_04.html

撮影が終わったら「りえちゃん」に戻ったところがいいですね。

父と暮せば 通常版

父と暮せば 通常版

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2005/06/24
  • メディア: DVD


タグ:夕凪の街
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コメント 1

miyuco

☆たねさん、nice!ありがとうございました。

☆劇衆「漢組」さん、かっこいい名前ですね^^
nice!ありがとうございました。
by miyuco (2007-09-13 17:59) 

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