SSブログ

ラスト、コーション/色・戒 [外国映画]

すべてが終わったあと、一人で人力車に乗り、
車夫と会話をかわし市井の人々の声を聞くうちに
チアチーの表情が穏やかになっていくのが悲しい。
自分を偽ることから開放されたとき、
待っているのは「死」だけなのに。

学生演劇の舞台に佇んでいる自分が
仲間に呼ばれる場面の記憶が頭をよぎる。
彼らの呼びかけに応え振り向いた時から歯車は動き出した。
そして今、世界があの時以前のものに戻っている感覚なのかもしれない。

すべてを壊すことになるとわかっていても
偽りのない感情がすべてに勝り
その一言を発した結果チアチーに戻ることができたようです。
自分を生きたと実感できたから
最期の表情は凛としていたのでしょうか。
毒物入りカプセルを使わなかったのは
もう誰の命令にも従いたくないという
気持ちがあったからなのかな。

チアチーは孤独であるゆえにイーの心の漆黒の闇に共鳴し
惹かれたのではないかと私は思う。

この映画はセリフがとても少ない
表情だけで目線だけで語らせる場面が多いのでアップが多い
それがまた緊張感を高めていて気が抜けないです。
極限状態に置かれている戦時下の上海
そこで駆け引きし、さぐりあう男女の間にやりとりされるものが
スクリーンから伝わってきます。
作品の評価はうまくできないけれど、堪能させていただきました。

時代背景から日本軍に支配されている悲惨な状況や
抗日運動の理念とかが強烈に描かれているのかと思っていたら
そのあたりは声高に描写されていませんでした。
もちろん画面から伝わってきますけれど。

トニー・レオン演じるイーは厳めしい顔ばかりなので
「鳩の卵」の指輪を差し出す柔らかい表情がとても印象に残ります。
あの顔を見たら、チアチーはああ言わざるを得ないでしょう。
タン・ウェイはすらりとした長身で美しい、そして身体が柔らかい^^;

レジスタンスを画策する青臭い男たちの計画はあまりに稚拙
あれだけ間近にターゲットを引き寄せたのに
あたふたするばかりの腑抜けっぷり。
チアチーひとりが危険な綱渡りを強いられている。
あとの仲間たちは革命ごっこをしているだけのようです。

ハニートラップを仕掛けようとしているのに、
それが実現しそうになった時点で
「マイ夫人」に性体験がないのは不自然だと気づく。
ばかばかしいほどまぬけだ。
「もう新学期が始まってしまう」と誰かが言っていたけれど
ひと夏のアバンチュール気分でしかないのね。
見ていて腹がたってしまった。

 



計画はイーが香港を急に発つことになり頓挫する。
しかし彼らはレジスタンスごっこの
代償を払わなければならなかった。
アバンチュールは抗日運動の本家本元の組織に監視されていた。
突発的な殺人の尻拭いをしてもらったら
もう組織から離れることはできない。
「大人」の組織が「扱いやすい手駒」を手放すはずがない
「復学も許されなかった」
とクァン・ユイミンはチアチーと再会したときに言っていた。

三年後、クァンがチアチーを探し当て訪ねてくる。
もう一度マイ夫人としてイーに近づいて欲しい
組織があの計画を実行するように求めている
クァンの言葉にチアチーは協力せざるを得ない
大きな流れに絡め取られた仲間たちと同様に。
抗日運動の大儀などチアチーには備わっていない。

友人につきあうような形で
(誘いに来た学生もちょっとかっこいいし)
学生演劇に足を踏み入れたチアチーは
女優としての才能を開花させ喝采を浴びるようになる
「マイ夫人」になりすます計画もこの実績があるゆえのこと
「マイ夫人」としてイー夫人を接待するチアチーは
与えられた舞台で完璧に役をこなしている。
その演技力が彼女の運命を変えてしまうとは

かつての仲間たちとイーは全く違う
自分の業を引き受ける覚悟ができている
チアチーがイーに惹かれるのもわかるような気がする。

 
日本軍占領下の1942年の上海。
傀儡政府の特務機関トップであるイー(トニー・レオン)の暗殺計画。
抗日運動に身を投じるワン・チアチー(タン・ウェイ)は
マイ夫人と名乗りイーに近づき、彼の愛人になることで
暗殺の手引きをする役割を担う。

やがてチアチーはその魅力で彼を墜とすことに成功する。
人目をはばかり危険で激しい逢瀬を重ねるふたり。
ふたりの間の感情は少しづつ変化していく。
イー暗殺計画を実行する運命の時は刻々と迫っていた。


チアチーが裏切らなくても、
イーが暗殺されることはなかったのでしょう。
すでに包囲網は狭まっていて
「マイ夫人」の正体も知られていたようです。
イーだけが知らされていなかった。
何故か。
それはマイ夫人の正体をわかっている上で
通じている疑いがあったから。
イーは抗日運動に寝返っている可能性を疑われていた。
日本軍はイーを試すためにも
チアチーたちを泳がせていたのかもしれない。

死を賭して自分を救おうとした女に涙するイー
トラップを仕掛けたのは他でもないチアチーだけれど
とっさに逃がそうとしたのは純粋な気持ちからだと
イーにはわかっている。

過激だと言われている性描写。
う~ん、そうかな…エロティックじゃなかったな。
ぼかしは過激だったけど^^;
身体が柔らかくなければあれはムリだわね。
最初の手荒い情事はチアチーが武器を携行しているのかどうか
確認しているようにも見えた。
(過去に何度か危ない目に遭っているようだし)
きれいなチャイナドレスをずたずたにして
帰りはどうするのかと思ってたら
そうだ雨具を着ていたんだ。
「君のコートはここだ」
と言い置いてベッドに女を残し去っていくイーは
何て冷酷な男なんだと思ったら
残されたチアチーは微笑を浮かべていた。
やっとここまできたと思ったのかどうか。

〈余談〉
過激なシーンを期待する不埒な男性を警戒して
映画館に行くのをためらっていた(考えすぎ^^;)
100席程度の小さなホールでしたがほぼ満席でした。
レディースデイだということもあってか、女性が多く
みなさん身じろぎもせず画面に見入っていました。
ラストでトニー・レオンとともに涙する方も多く
この場面で泣けるお客さんと一緒に
この映画を観ることができてよかった
いままでここで観た作品と映画に反応するお客さんを思い返すと
この映画館は客筋がいいのだと改めて感じます。
ラッキーだわ。

d0052997_14542443.gif

 


 


nice!(2)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 2

コメント 5

真紅

miyucoさま、こんにちは。拙記事にコメントありがとうございました。
いろんな方の感想を読ませていただきましたが、皆さん様々に解釈されていて、本当に深い映画だなと感じます。
「敵の手に堕ちるな」と言われて持たされた薬。
あの一言を発したあとでは、もう何の意味もなかったのかもしれないですね。
マイ夫人は、あの時死んだのですから。「消えた」と言ったほうがいいかな?

性愛シーンは、私もエロスは感じませんでした。
殿方はどう感じるのかわかりませんが・・・。アクロバティックでしたよね。
トニーの演技力と、アン・リーの演出力を改めて感じた作品でした。
私もURLを貼らせていただきますね。ではでは!

http://thinkingdays.blog42.fc2.com/blog-entry-404.html
by 真紅 (2008-02-22 13:51) 

miyuco

真紅さま、コメントありがとうございます。
そして先ほどは細かい質問に答えていただいて
ありがとうございました。
(真紅さんなら絶対にわかっているはずと思ってました)
映画が映像で語るのは当たり前なのですが
アン・リー監督の作品は特にイマジネーションを喚起させられるような
気がします。逆に言うと気が抜けない[汗汗]
だからこそ見入ってしまうのですが。
トニー・レオンに魅力が少しだけわかったような気がします[ニコニコ]
by miyuco (2008-02-22 18:47) 

クリス

こんばんは。
miyucoさんの記事を読んでいたら、鑑賞時の情感が鮮明に戻ってきました。やっぱりこの映画、ただのR指定映画じゃないですよね。
そして、些細な視線の動きがこれ程雄弁とは思いませんでした。
トラバさせて頂きますね。
by クリス (2008-04-07 22:04) 

miyuco

クリスさん、はじめまして。
映像から匂い立つものが とても豊かですよね。
アン・リー監督の素晴らしさが堪能できました。
nice!とコメントありがとうございます♪
(TBはとどいてないようですが…)
by miyuco (2008-04-08 18:08) 

miyuco

あおさん、nice!ありがとうございます!
by miyuco (2009-03-19 11:53) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0