SSブログ

『聖なる黒夜』 柴田よしき [読書]

文庫本上下巻ともに約600ページ
分厚い本二冊を3日で読んでしまった。
もつれあう濃密な人間関係に圧倒され
運命の歯車に翻弄される登場人物たちがたどり着く先に
見えてくるものは何なのか知りたいと思いながら
時間の許す限り読み続ける。

「聖なる黒夜」、その夜に何が起きたのか
その夜の出来事が長い年月を経て何を引き起こしたのか
どんなふうに人の運命を変えていったのか。
繰り広げられる物語を息が詰まるような思いで読みました。

「いい作品は【いい】の一言なんだよ。
それ以上は野暮だ。以上!」

文庫本解説の三浦しをんの言葉に同感です。
(実際にはこれ一言だけではなく素晴らしい解説が載っています)

春日組大幹部の韮崎誠一が殺害された。
麻生係長を中心とした警察の捜査が
この物語の大きな柱となっている。
それと平行して容疑者のひとり山内練のストーリーが
過去にさかのぼって語られていく。
麻生と山内練は過去に接点があり
韮崎の事件で10年ぶりに再会する。
エリート学生だった山内の人生を
決定的に変えてしまった要因のひとつは麻生だった。

韮崎の事件の犯人を捕らえようとする警察の
地道な捜査と意外な展開がとてもおもしろかった。
でも、「RIKOシリーズ」や「花咲慎一郎シリーズ」に登場する
破滅志向のインテリやくざ・山内練に魅了され
過去を示唆する破片だけしか見せてもらえないことに
はがゆい思いをしていた私のような読者は
何よりも彼の過去の物語に興味を惹かれてしまうのでした。

生きている韮崎が登場する場面はわずかなのに
物語を支配しているのは間違いなく韮崎誠一。
おそるべき存在感です。

山内練の過去は韮崎の事件にも絡んでいて
柴田よしきさんの手綱さばきがお見事です。

人が人を裁くことの難しさが読後に強く残ります。
麻生がそれを痛感したとき、麻生の運命も変わっていく。
後の物語「RIKOシリーズ」を読むとわかります。
『聖なる黒夜』は終わっても
麻生と山内練の関係は刻々と変わっていき
まだ終わってはいない。
それは他のシリーズで折に触れ語られていきます。

というわけで私のなかでも山内練は生き続ける^^

蛇足ですが『聖なる黒夜』にはハードな描写が存在します。
要するに「18禁」的なものがあります。

以下、未読の方はご注意を…
(長くなりそうだわ【T__T】)

*
*
*

1989年2月15日未明
山内練は韮崎誠一に拾われる。
同じ頃、熱を出した幼子を抱えて病院へ走る母親が
車にはねられ子どもだけが死んでしまう。
この件が韮崎が命を落とす遠因となるわけです。
死を望んでいた山内練は死なず、幼子は命を奪われる。

1995年10月
韮崎誠一が殺害される。
事件を担当する麻生が山内練の前に現れる。
死んだ韮崎と入れ替わるように。

10年前の1985年7月
逮捕状を持って練の住むアパートにやってきた麻生。
その時からずっと死んだように生きてきた練を
韮崎は生き返らせようとした。
その韮崎が死んだ途端に麻生が現れる。
何という皮肉な展開なんだろう。

韮崎が死んだあとも練が生きているのは
麻生の存在があるからなのでしょう。
麻生が誤認逮捕を認めたことで何かが決定的に変わった。

1996年5月初版の
「聖母(マドンナ)の深き淵」(RIKOシリーズ)で
山内練は初めて読者の前に登場します。
「春日の組員になるつもりはない」(聖なる黒夜)と
言っていたけれどすでに春日組若頭という立場でした。
流れに逆らうことはできなかったのね。
麻生が登場し、事件に密接に関わってきます。
(すでに警察を辞めて探偵事務所を開いている)

1998年1月初版
「月神(ダイアナ)の浅き夢」(RIKOシリーズ)
今回は麻生よりも山内練が密接に事件に絡みます。

1998年4月初版
「フォー・ディア・ライフ」(花咲慎一郎シリーズ)
山内練の登場シーンは印象的です。
私が初めて山内練を知ったのはこの本でした。
「聖母~」「月神~」は読んでなかったので。
女郎蜘蛛のように足が長く腰の細い男。

花咲慎一郎は刑事だったときに
韮崎誠一を心から憎んでいた。
しかし刑事をやめ保育園の園長になると
韮崎の愛人だった女医・野添奈美
同じく愛人だった山内練と深く関わるようになる。
このふたりが出てくると必然的に韮崎の影が現れる。
相変わらずあなどれないヤツ。

「花咲慎一郎」シリーズをすべて読み
満を持して「聖なる黒夜」を手に取りました。
麻生の妻・玲子の回想シーン
「玲子は手を伸ばして、眠っている男の
柔らかな髪に触れた」
これだけでこの男が山内練だと確信したのは
いかにどっぷりとハマって読んできたかという証なのかな。
(自画自賛^^;)

文庫本にだけ収録されているサイド・ストーリー「歩道」
う~ん、韮崎が麻生に嫉妬していたのは
やっぱり筋違いではなかったのね。
これは必読です。

韮崎の通夜の帰り、ずっと口ずさんでいたのは
Patti Smith "Because the Night"
もうね、何て選曲するのよ山内練
というか柴田よしきさん。
切なすぎます!
思わず自己流で訳して次のエントリーに上げてしまいましたわ。


練が登場する時系列は以下の通りだそうです。
(某巨大掲示板801板参照^^;)

「フォー・ディア・ライフ」と「フォー・ユア・プレジャー」が
どこに入るのかよくわからなかったのですが
これを見て納得しました。
(有志による推定時系列だそうです)

聖なる黒夜
聖母の深き淵 (RIKOシリーズ)
フォー・ディア・ライフ (花咲慎一郎シリーズ)
フォー・ユア・プレジャー (花咲慎一郎シリーズ)
月神の浅き夢 (RIKOシリーズ)
シーセッド・ヒーセッド (花咲慎一郎シリーズ)
ア・ソング・フォー・ユー (花咲慎一郎シリーズ)

d0052997_14542443.gif

聖なる黒夜

聖なる黒夜

  • 作者: 柴田 よしき
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2002/10
  • メディア: 単行本


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 1

miyuco

薔薇少女さん、こちらにもnice!ありがとうございました。
by miyuco (2008-08-31 17:14) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0