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『金髪の草原』 大島弓子 [大島弓子]

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 だれか
 もつれた糸をヒュッと引き
 奇妙でかみあわない
 人物たちを
 すべらかで
 自然な位置に
 たたせては
 くれぬものだろうか


 
Could somebody please
pull away with a whiz
all the tangled strings
to make these strange
incongruous figures
stand peacefully
in their respective
natural positions

    英訳・管 啓次郎 (カバー折り返しと表紙に載っています)

「大島弓子セレクション セブンストーリーズ」に収録されているのは
映画『グーグーだって猫である』の劇中に登場する七つの作品。
「ダイエット」「綿の国星」「四月怪談」「バナナブレッドのプディング」
「金髪の草原」「夢虫・未草(ひつじぐさ)」「8月に生まれる子ども」
『バナナブレッドのプディング』の一ページが表紙になっています。

「綿の国星」「四月怪談」「バナナブレッドのプディング」は
10代の頃にリアルタイムで読んだのですが
そのほかの作品は単行本になってから読みましたので
思い入れの度合いに差があります(かなり大きく)

「ダイエット」と「8月に生まれる子ども」は
明確なコンセプトに沿って粛々と物語が進んでいくようで
ちょっと窮屈でした。様々な人物が賑やかに登場して
物語の閉塞感を和らげていたそれまでの大島作品とは
変わってきているなと思いました。
「ダイエット」が保健室に置いてあってそこで初めて
大島さんの作品を読んだという話を読んだことがあります。
これを保健室に置いた先生は素敵です。

「金髪の草原」は好きです。

日暮里歩の家に“なりす”がやってきた。
日暮里氏は仰天する。
みんなのあこがれのマドンナだった彼女がなぜ我が家に?
一夜にして窓の外にはビルヂングが現れ
家のなかには見慣れぬ物があり庭のバラもなくなっている。
奇妙なことばかり。

風変わりな厨房
現れたビルヂング
バラとすりかえられた盆栽

このへんてこな 事態は

この奇妙で へんてこで
素晴らしい 事態は

夢…?

80歳を過ぎた日暮里氏は
今の自分を大学生だと思っている。
大学生の自分が見ている夢だと思っている。
(ゆえに若者の姿で描かれています)

“なりす”は家政婦として働きにきた女の子だった。
夢を見ている彼に現実を教え込むのはどうかと思うと
医者は言う。

日暮里氏は生き生きとしている。
大学の寮の前を通るマドンナに寮生たちは憧れていた。
名前も住んでいる所もわからないマドンナは
ある日突然コースを変えて前を通らなくなってしまった。
みんなはそれをどれほど残念がったことか。
二度と会えないと思っていたマドンナに会えた。
「たとえこれが夢でも」

“なりす”は日暮里氏の「記憶年表」を見つけ
「動いている心臓をたしかめながらたしかめながら生きてた」
不運な人生だったことを知る。
大学を中退するまでの一番幸福だったひとときに
彼は戻っているつもりなのだ。

しかし夢は覚める。

「ぼくの夢ではいつもこういうよい気分のとき
窓辺で念じると黄金色の原っぱに汽船が到着するんです」
「ぼくはよくそれにのって夢で外国をめぐったりしました」
日暮里氏の「待てどこない汽船を待つ生活」
それもいいなと“なりす”は思った。

「結婚してほしいです」と日暮里氏はプロポーズし
“なりす”はオーケーする。

「最高の夢だ」

しかし“なりす”の無謀な決断を止めようとする
友人たちとの会話を聞きとがめた日暮里氏は
「現実」という言葉に反応し
これが夢だったら上昇するはずと高所から飛び降りる。

上昇せず
これは 
現実だ

全部 
思い出した

そして 
なりすに会えた


マドンナのなりすでなく
現実のなりすに

会えてよかった

現実に戻れて 
よかった

ああ 
ほんとうに
戻ってこられて
よかった

すばらしい

「あの
年表の現実でも
それでも?」

うん

日暮里氏の少しも迷いのない
「うん」
胸が詰まります。

「最高の夢」よりも不運な人生だった「現実」を選ぶ。
“なりす”に会えてよかった。
プロポーズを受けてくれたのは現実だった。
「最高の現実」だった。

“なりす”も自分の気持ちを見据えながら
現実に一歩踏み出しはじめる。
日暮里氏の「年表」の最後に
「すばらしいね」
を付け加えようと考えながら。

犬童一心監督が映画化した「金髪の草原」は
観ていません。どんなふうに描いているのか
興味はありますがちょっと怖いです^^;

犬童監督のインタビュー記事を読んでいたら
大島さんの作品の素晴らしさをアピールし
最終的には絶版になっている全集を再版するまでが
自分の使命だと思っているというような事が書いてありました。

これだけ大島弓子の名前が全面に出ているのだから
監督の目論見は成功したといえるでしょうね。
微力ながら監督に賛同の意を表させていただき
これからも大島さんの作品について
いろいろと書いていきたいと思います。
私の過疎ブログではあまり影響力がなくて
お役に立てるかどうか、はなはだ疑問なのですが…


タグ:大島弓子
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コメント 4

びっけ

こんにちは。
映画『グーグーだって猫である』を観る前に書店に寄ったのですが、この本『大島弓子セレクション セブンストーリーズ』を買おうかどうしようか、しばらく迷いました。
実は、『ダイエット』と『8月に生まれる子ども』は未読なのです。
でも、(本が軽すぎるな・・・)と思って買うのをやめました。
一体、何を基準に判断しているやら・・・自分。(笑)

『金髪の草原』、この作品、好きです。
もし女の子が生まれたら、「なりす」という名前もいいなぁと考えていたくらいです。
(^^;
あの記憶年表を見た時は、(あぁ~~)と胸が痛くなりました。
もうすっかり、なりすの気持ちで読んでました。
あのエンディングは素晴らしいです。
やっぱり最後は、「現実」なんだ、「現実の世界」で噛みしめてこその幸せであり不幸せなのだ、と強く思った作品です。

毎回、miyuco さんの大島作品レビューを読ませていただいては、その読みの深さや感性の鋭さに感心しております。
私も微力ながら、大島作品の素晴らしさを、いまだ大島作品を読んだことがない人にも伝えていけたらいいなぁと思います。
これからも、どうぞ、よろしくです。(^^)v
by びっけ (2008-09-19 20:31) 

miyuco

びっけさん、こんばんは。
そう、軽いです^^
一部印刷がきれいではなかったりします(v_v。)

全く躊躇わずに答える「うん」のところで
胸がいっぱいになります。
つらい「年表」に「すばらしい」を付け加えようと思う
なりすは日暮里氏をきちんと受け止めているんですよね。
「神々しいバラぬす人のねすがた」
日暮里氏がとても魅力的でした!

過分すぎるお褒めの言葉、もったいのうございます^^;
びっけさんのコメントのほうが短いのに
核心をついていて素晴らしいです。
私の文章はだらだらと長くていけない。
ソネブロ大島弓子ファンクラブ(勝手に結成)としての活動
まだまだ続けたいと私も思っています。
こちらこそよろしくお願いいたします(@^^@)/


by miyuco (2008-09-19 22:13) 

真紅

miyucoさん、こんにちは。
大島さん関連の記事をアップしたら、コチラにご挨拶せずにはいられません!
『金髪の草原』、映画化されてることを知ってずっと観てみたかったんです。
私は『グーグー』よりずっと好きでした・・・。
原作のファンの方、思い入れがある方の評価はわからないですが、個人的には原作の世界観を大切に映像化されていると思いました。
もし機会があれば(私は深夜放映を録画できました)、是非ご覧になってみて下さいませ♪
ではでは、また来ますね~。
by 真紅 (2009-03-04 13:52) 

miyuco

真紅さま、こんにちは。
この映画まだ観てないのです【T__T】
うわ~ん、見逃したぁぁぁぁ~
と思ったら東京では放映しなかったようです^^;
近くのレンタルビデオ屋さんには置いてないので
TVで放送されるのを待っているのですが…
いつか必ず観たいと思っています!
「金髪の草原」の検索でいらした方が多いのは
そういう理由だったのですね^^
コメントありがとうございました♪

by miyuco (2009-03-04 16:15) 

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