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「星に住む人々」 樹村みのり [コミック]

「星に住む人々」
初出は1976年、別冊少女コミック11月号
大島弓子「ハイネよんで」名香智子「花の美女姫外伝」が
同時に掲載されている。
萩尾望都「続・11人いる!東の地平 西の永遠」(前編)が
翌12月号に載るというそんな時代。

「当時は思いどおりの絵が描ききれなかった」ため
ページ数を増やし全面的に書き直したリメイク作品が
「見送りの後で」という単行本に収録されています。

***

「菜の花畑」シリーズが大好きだった。
別コミ1975年1月号掲載の「菜の花」が一作目
ユーモアにあふれていて読みやすく
時折、生真面目で硬派な部分が顔をのぞかせる
独特な作風でした。

花びらは飛び散らないしひらひらふわふわもない
地味な絵柄で最初は馴染めなかったけれど
読んでみると悩める10代女子の琴線に触れてきて
力強い味方がそこにいるような気持ちになったものです。
今でも自分の心の奥底に彼女の作品から受けとったものが
根を張っているのを感じます。
中学・高校時代、何回も繰り返し読みました。

「星に住む人々」
「絵を描くことが好きで臆病で暴力が嫌い」
どこにでもいる平凡な女の子・郁子の
迷い悩む姿が丁寧に綴られていきます。
「自分のことを自分で決めるまでは
誰にも決められたくないって思ってるのね きっと」

岡林信康「わたしたちの望むものは」
の歌詞が引用されていて初めてこの曲を知りました。
キャロル・キング、ニール・ヤングの名前を知ったのも
樹村みのりのエッセイマンガだったな。

1969年1月東大安田講堂事件、学生運動はピークを迎える
「それにしてもヘルメットをかぶっている人たちが
クラスの中でも好きになれる人たちならいいのに」
と郁子は手紙に書きます。
村上春樹「ノルウェイの森」で
授業中乱入してアジ演説を始める学生を
シニカルに描写している場面で頭をかすめたのは
この郁子の手紙でした。


時代は1972年、3月に連合赤軍のリンチ事件が発覚
「なにかもうかばいきれない感じだわ こうなると」
同年代の学生たちの心情はこういう感じだったのかなと
少し下の世代の私は思ったりしました。


他にも印象に残っている作品があります。

 

 

 

「見えない秋」(別コミ1974年11月号掲載)
夏休み明けに同級生の男の子の事故死を知った
小学生の女の子が初めて直面した身近な「死」について
さまざまな思いをめぐらせます。
この難しいテーマを作者は真摯な姿勢で語っていきます。
「死ぬことは死にまかせなさい」
という言葉に心がすっと軽くなったような気がしました。
静まりかえった路地にふと迷い込むように
死とは日常と地続きなものなのだから
過剰に恐れたり意識することはないのだと語る
作者の視線がとても温かい。
当時中学生だった私は救われました。

「40-0(フォーティー・ラブ)」(1977年mimi3月号掲載)
も好きだった作品です。
テニスコーチを始めた大学生と
家庭に恵まれていない教え子の少女の物語。
「たとえ40-0(フォーティー・ラブ)からだってあきらめるな」
「なのに暴力は一瞬であの子をこわせる」
少女の身に起こった出来事を嘆き酔いつぶれるテニスコーチ
少女は同席していたドクターに顔を上げてこう言います。
「彼はいい人よ 彼はばかだわ 
私あんなことで負けたりしない」

こういう毅然とした人間になりたいと思いながら
悩み多き10代の私は
樹村みのりの作品を読んでいたのでした。
読み返すとあの頃のじたばたしていた自分を
どうしても思い出してしまいます。

樹村みのりは1949年生まれ
24年組のくくりに入っているとは最近まで
知りませんでした。
「24年組」というとBLの元祖的な匂いが
あるような気がするので(私には^^;)
そこに樹村みのりが入ると違和感が…

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見送りの後で (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)

見送りの後で (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)

  • 作者: 樹村 みのり
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2008/01/11
  • メディア: コミック

菜の花畑のむこうとこちら (ソノラマコミック文庫)

菜の花畑のむこうとこちら (ソノラマコミック文庫)

  • 作者: 樹村 みのり
  • 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
  • 発売日: 2006/04/19
  • メディア: 文庫


タグ:樹村みのり
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コメント 7

sknys

miyucoさん、こんばんは。
最初に読んだ樹村みのり作品は「おとうと」(COM 1969)だった。
次が「解放の最初の日」だったかな。

当時は「少女マンガ」未体験の穢れを知らない美少年だったので、
樹村みのり=少女マンガ(家)というイメージもなかった。
別コミを手にしたのは「菜の花畑シリーズ」が載っていたから。
「24年組」と呼ばれる少女マンガ家たちの作品に接するわけですが、
樹村みのりは「24年組」の中でも異質な存在だった。

「星に住む人びと」の岡崎郁子が病院の壁画を描いたように、
「水子の祭り」の野沢伸子も山岳病院に壁画(等身大自画像)を描く。
花びらはヒラヒラ飛ばないし、ゴージャスな薔薇も背負わない。

花瓶に生けた菊の花が事故死したクラスメート佐藤くんの「生」を
呼び起こす「見えない秋」。
少女・長谷川祐子の「生」の記憶と「死」の不条理が交錯する。

ジョニ・ミッチェルやジャクソン・ブラウン、ニール・ヤング
‥‥が実名で登場する「40−0」。
樹村みのりは特別で、稀有なマンガ家なのです。
by sknys (2008-12-22 21:20) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
別コミを手に取ったきっかけが「菜の花畑」だったとは
意外です。少女マンガどっぷりのなかで
樹村みのりに出会った私とは正反対ですね。
彼女の作品を「別コミ」に引っ張った編集者は
慧眼の持ち主ですし、それを受け入れた別コミ読者の
中高生女子たち(だけじゃないけど^^;)も
なかなか見る目があったのだなと思います。
(ちょっと自画自賛)

10代の頃、繰り返し読んでいたのは大島さんの作品
が一番多いのですが次に三原順、樹村みのりと続きます。
今の自分の考え方のどの部分が影響を受けているのか
もはや判別できないほど
私の構成分子の一部になっているような気がします。

by miyuco (2008-12-23 18:37) 

しーちゃん

樹村みのり! ファンでした。「見えない秋」は今も切り抜いて持っていますが、
「死」という難しいテーマに、きちんと向き合って描いていて心にズシンときました。
「見送りのあとで」は、その樹村みのりの18年ぶりの新刊?!
「星に住む人々」をリメイクした作品が収録されている?!!
‥‥思わずamazonで中古品をクリックしてしまいました。楽しみー!
「星に住む人々」ずいぶん長い作品のような印象があるのですが、35ページでしたものね。
この作品で「20歳を美しい年令だなどとだれにも言わせまい」というポール・ニザンを知って、読もうとしたのですが‥‥途中で挫折したことなどを思い出します。
by しーちゃん (2008-12-24 13:51) 

miyuco

>しーちゃんさん
樹村みのりの記事にコメントいただいてうれしいです!
「見えない秋」を読んだのは中2の時でした。
最初はこわい感じがしてちょっと読んだだけで
後回しにした記憶があります。
けれども読み終わるとなんだか救われたような気がしました。

「星に住む人々」ポール・ニザンは強く印象に残ってます。
その後何人かの作家さんのエッセイでこの言葉を
読んだことがありますので、この時代の若い人の
共通言語のようなところがあったのでしょうか。

樹村みのり作品をあんなに好きだったのに
手元に本がなくて残念でした。
こうやってまた出版されて本当に嬉しいです。
nice!とコメントありがとうございました。


by miyuco (2008-12-25 15:49) 

sknys

「星に住む人々」は完全なリメイク作品なんですね。
オリジナル(1976)と比較してみると、
コマ割りや構図は殆ど同じなのに「絵」だけが違う^^;

ページ数は6頁増えて内容は深まったけれど、
小綺麗になった分だけ逆に樹村さんの個性が失われたようで、
30年前の「絵」の方に愛着があります。

「FAVORITE-BOOKS 4」をアップするまでの間、
期間限定でリンクさせて下さい^^
by sknys (2009-04-30 20:51) 

miyuco

sknysさん、コメントありがとうございました。
TBをいただいている「しーちゃん」さんも
元の絵の方が好きだとおっしゃってました^^;
アップされていた画像を見たのですが
あのふわふわしてない硬質な絵が
インパクト大だったのを思い出しました。

ところで、「I NEED TO BE IN LOVE」に
コメントをいただいた方のリンク先を読むと
「やまだ紫」さんの連れ合いの方のブログに
たどり着きました。そして何日か前に急に倒れ
重篤な症状である事を知りびっくりした次第です。
『性悪猫』読んでました。
「COM」つながりなのでsknysさんも彼女の作品を
きっと読んでますよね。


by miyuco (2009-05-01 20:23) 

miyuco

くどい人さん、nice!ありがとうございます!
(私も相当くどい人だと自覚してます^^;)
by miyuco (2010-10-03 23:04) 

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