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『プリンセス・トヨトミ』 万城目学 [読書]

ふふふっと笑みがこぼれてしまう。
おもしろかった!
構成の妙もお見事でした。
それにしても登場人物全員が揃いも揃って
なんでこんなにユニークで愛すべき人たちなんだろう^^
血の通った物語、大好きです。
今年読んだ本の中でナンバーワンのおもしろさ。

『鴨川ホルモー』は京都
『鹿男あをによし』は奈良
そして『プリンセス・トヨトミ』は大阪が舞台。
東京(の辺境^^;)でしか暮らしたことがない私には
関西圏はすでに異世界なので(笑)
そこに展開される摩訶不思議な出来事は
二重の意味でファンタジー
わくわく感が倍増なのでございます。

しかしこれは諸刃の剣でもあります。
うまくストーリーに入りこめないと簡単にドロップアウトしてしまう。
今回の万城目ワールドは私には解りやすかった。
外部からやってきた人間のパートでは
大阪の歴史やシンボル的なものが語られ
もう一方では空堀商店街を主な舞台に
そこで生きる人々の日々の暮らしが活き活きと語られる。
物語的な土台がしっかりしているので
奇想天外なプロジェクトが現れても拒絶反応は生まれない。


前二作と同様に過去から連綿と受け継がれている
密やかなプロジェクトが発動
知らず知らずのうちに選ばれていた人たちが
それぞれの役割を果たすという物語。
「鹿男~」の1800年もの壮大なスケール
「鴨川ホルモー」の1000年続いた歴史には及ばないが
今回は「国家」まで出てきて別の意味で大がかりになってます。
関わる人数は200万人と破格だし^^;

プリンセス・トヨトミ

このことは誰も知らない。
五月末日の木曜日、午後四時のことである。
大阪が全停止した。
長く閉ざされた扉を開ける“鍵”となったのは、
東京から来た会計検査院の三人の調査官と、
大阪の商店街に生まれ育った二人の少年少女だった―。


「この三人を一字で表現するならば「山」という文字が似合うだろう。」
「鳥居の画(え)だけやや太めといったところか。」

会計検査院の三人
副長・松平元、「鬼の松平」と異名をとる
頑固で実直な切れ者。一日にアイス五個を嗜む。
内閣法制局にも出向していた優秀な女性、旭・ゲーンズブール
フランスと日本のハーフ、完全外人顔の長身美女
「ミラクル鳥居」無意識すぎるミラクルに笑っちゃう
三人が検査のために大阪にやってくる。

一方、大阪の“坂道を抱いた”商店街の一角では
セーラー服を着た少年が
自らのアイデンティティを賭けた戦いに挑もうとしている。
真田大輔に寄り添うのは幼なじみ橋場茶子。

「社団法人 OJO」の検査をきっかけに
平行したストーリーが交錯する。

歴史は苦手は私でも「橋場」「真田」「松平」
という名字にはピンとくるものがある。
「旭」もきっと何かあると思ってもわからない
調べてみると秀吉の妹「朝日姫」のようです。
プリンセスはふたり登場していたのですね。

真田大輔は突破口を拓こうとしてもがく。
しかし「ずっと正直な自分であること」は難しい。
しっぺ返しは大きかったけれどその勇気は讃えられるべきもの。
その気概は一触即発の事態を救った。
やっぱり君は男前だったね。

大阪の人間は本人たちは意識せずとも
会話のいちいちが漫才みたいに出来上がっている。
あれが目に見えない伝統というやつなのでしょうか
と言う鳥居に松平はこう答えます。

「それはそうだろう。
あれだけとんでもない秘密を、心の奥底に隠し持っているんだ。
妙な具合にもなるだろう」 P469

妙な具合…
とんでもない秘密はロマンチックな秘密でもありました。
当初の目的はそのままに、
市井の人々はそこに自分たちの目的も見出し、
それを原動力にしているようです。
おもしろかったです!

以下、未読の方はご注意を
(蛇足です^^;)

 

 

 

「鬼の松平」と「大阪国総理大臣・真田幸一」の対決
すなわちエリートとお好み焼き屋のおっちゃんの対決は
スリリングでした。敬意と節度を持って対峙するふたり。
松平がああいう結論を出したのは
自分の中にある大阪国の血筋を自覚したからかな。
政府の干渉をはねのける、会計検査院の誇りをかけた
決断でもありました。

鳥居が「橋場茶子」と書かれたメモを片手に
彼女に会いに行こうとしている場面では
思わず今回の黒幕は鳥居なのかと思ってしまった。
ゆるいふりして腹黒いヤツなのかと。
…全然ちがった…

「やっぱり大阪だし、食べておかないとね。」
鳥居が旭を連れて入った店が偶然にも幸一の店「太閤」。
この偶然がなければ「OJO」との連絡はつかず
松平の大阪城での実地検査までたどり着けなかった。
中学生と間違われる体型さえもミラクル。
何よりも一連の出来事にまったく気づかずに
大阪出張を終えて平常業務に戻るところがすごいです。

旭の鳥居を救い出すための迫真の演技も名シーン。
笑った^^

「自分の店も守れんで、いったい何を守るっていうの」
大がかりなシステムをつくり形式重視の男たちにくらべて
女たちは生活レベルでプロジェクトを支えている。
「男たちが何かやってることに気づいても、
見て見ぬふりしてあげなさい。」
いいですね。

これを女同士の話として大輔に語る旭はかっこいいです。

大輔が女の子になりたいと願うのは
橋場と真田が結ばれるのを防ぐための
大きな意思が動いたからなのかなと思うのは
考えすぎでしょうか。
真田はあくまで橋場を近くで守らなければならない。
大阪の人々のバックアップの下、大輔はきっとやり遂げるでしょう。
…っていうか橋場茶子、強すぎ。

父が息子へ伝え続けた「大阪国」
35年ぶりのこの大騒動はその実体を表に出し
結果的に「国」の結束を強めることとなった。
東から来た松平・旭・鳥居が発端となったこの顛末は
何か不思議な力が作用して起こるべくして起こったのですね。
「鹿男あをによし」のように「鴨川ホルモー」のように。

特別出演、大阪女学館の南場先生も役割を果たしました。
おおがかりな合図はおもしろかった!

書きたいことは尽きないのです。
きりがないので、このへんでやめときます^^;


タグ:万城目学
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コメント 4

おきざりスゥ。

未読なのでササッとスクロールしてコメント欄まで降りて来ましたが…
空堀商店街!大好きでスゥ。
あの手の昭和な感じの商店街はウチノヒトの大好物で連れて行って貰った事が2度あります。古い民家を改造したオサレなアート小物の店と昔ながらの元気な商店街の共存した素敵な場所。
また行きたくなっちゃったナー♪
by おきざりスゥ。 (2009-04-30 15:27) 

miyuco

>スゥ。さん
空堀商店街は有名な場所なんですか^^;
関西在住の方がこの本を読んだら
また違った雰囲気を味わえるのでしょうね。
きっとご主人は私なんかよりずっとこの物語を
楽しめると思います!
「ひょうたん」が大阪にとって大きな意味があるなんて
全然知らなかった^^
やっぱり関西圏は異世界だ~
(単に無知なだけ?)
nice!とコメントありがとうございました!



by miyuco (2009-04-30 20:38) 

モモ犬

はじめましてmiyucoさん。
私もこの作品映画で見ました。本は半分読んで積読中です(笑)
映画のキャストは旭と鳥居の性別が違っていてまた違うたのしみがありますよ。

by モモ犬 (2012-08-12 11:35) 

miyuco

モモ犬さん、はじめまして^^
この原作を映画で消化するのは難しいと
思ってましたがおもしろかったですね。
綾瀬はるかの鳥居がかわいかった。
nice!とコメントありがとうございます!
by miyuco (2012-08-17 11:14) 

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