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『オリンピックの身代金』 奥田英朗 [読書]

期待が大きかったのでちょっと残念。
前半はおもしろかった。
警察の地道な捜査から犯人像が絞られ
包囲網が狭まっていくのをわくわくしながら読みました。
後半、間一髪のところで容疑者を取り逃がす失態が続き、
展開が弛んでしまったような気がする。

「主役は時代そのもの」と作者は語っています。
その言葉どおり「昭和39年」が丁寧に再現されている。
空気感まで伝わってくるようです。
テレビ局勤務のケーハクな業界人・須賀田忠が
都会の浮かれた雰囲気をみせてくれます。
彼の間抜けっぷりがなかなか楽しい。


プロレタリア革命が起きたとき
プロレタリアートの側でいたいと思っている
と崇高な理想を唱えていた知識人・島崎国男が
醜悪な現実に絡み獲られテロリストに堕ちていく。
キミはもっと違う方法でプロレタリアートに寄り添うことが
できたんじゃないの?
東大生という自分の立場を有効利用すべきでしょう。
特権階級にいる自分に無自覚で無邪気に過ごしてきた男が
虚無に引きずりこまれた果ての八つ当たりの対象が
「オリンピック」だったってことなのか。
犯人の東大生・島崎国男の描き方がよくわからない。

昭和39年夏、
オリンピック開催に沸きかえる東京で
警察を狙った爆破事件が発生。
同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が
当局に届く。
警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、
1人の東大生が捜査線上に浮かぶ。

「東京オリンピック」は国家の威信を賭けた
一大イベントだったことはわかっているつもりだった。
でもこの華やかなイベントが
敗戦後たった19年しかたっていない時期に
開催されたことの意味を考えたことはなかった。
この本は「昭和39年」の空気を伝えてくれる。
「世界に日本をお披露目する」
オリンピックは人々の夢であり希望であり
誰もが熱狂的に支持しているようです。

しかしその熱狂に背を向ける者がいた。
警察に「草加次郎」の名で脅迫状が届く
「小生、オリンピックのカイサイをボウガイします」

早い段階で犯人は特定される。
警察の動きと東大生・島崎国男の動きが
交互に語られるが時系列にはズレがある。




 

島崎のパートは出稼ぎ先で急死した兄の遺体を確認し
荼毘に付す場面から始まる。
葬儀のために生まれ故郷の秋田の村へ帰ると
改めてその貧しさを思い知り
オリンピックに沸く東京との落差に愕然とする。

逃げるようにして故郷の村をあとにする国男を
バス停まで母が見送りに来る。
「こっちのごどは心配しなくぐでいいから」

国男はその悲しい笑い顔を見て、
たまらない疚しさを覚えた。
それは、学業に長けているおかげで、
自分だけが郷里の貧しさから逃げられるという現実の残酷さと、
それを受け容れることへの罪悪感だった。

東京に戻った国男は兄の働いていた建設現場で
兄と同じように働き始める。
プロレタリア革命が起きたとき
プロレタリアートの側でいたいと思っているから。

しかし現実は厳しい。
国男はもともと虚無を抱えているように感じました。
だからこそ厳しい現実に直面したときに
虚無に呑みこまれ自暴自棄になり
ヒロポンに手を出したことでさらに暴走してしまった。
最後は追いつめられてジタバタしているただのヤク中です。

「キャラクターには頼らないで、
ストーリーで読者にページをめくらせるサスペンスを書きたかった」

でも奥田英朗さん、島崎国男の描き方はあまりに不憫です。

オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/11/28
  • メディア: 単行本



 


タグ:奥田英朗
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BlogPetのジャック

きのう、リフェールで捜査へ利用しなかった。

by BlogPetのジャック (2009-06-04 17:26) 

miyuco

toriさん、nice!ありがとうございます^^
by miyuco (2009-06-22 17:29) 

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