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文藝別冊 萩尾望都 [コミック]

文藝別冊 萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母

文藝別冊 萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2010/05/14
  • メディア: ムック
濃密な内容でした。
編集者の愛情が感じられる出来映えです。
萩尾ファンの方には力を込めてお薦めできます^^

 
・萩尾望都 2万字ロングインタビュー 「わたしのマンガ人生」
漫画家という面だけでなく、
「萩尾望都」の人間としての魅力にも
スポットを当てたインタビューにしたかったそうです。
萩尾さんは、生い立ちから親子の葛藤など
プライベートなことまで語っています。

 
・萩尾望都の解説付き 仕事場&愛猫紹介
あの当時、とても不便な場所だったH市に
なぜ住むようになったのか不思議でした。
光化学スモッグで体調を崩して静かなところに
引っこんだわけですね。

 
・漫画家からの特別寄稿
永井豪が初めて会ったときの印象をこう書いている。
「なにやらオットリしていて、クール。
現実ばなれしたふわフワ感があった。」
「多分、半分くらい異次元の世界に住んでいるのであろう…」
これは萩尾さんが話しているところを見たときに
私が感じた印象と同じです^^

 
山岸凉子さんの文章
「あのサロンには、今思うと才能のかたまりの面々が
ひしめいていたのですが、その中でも、
ひとり自分のカプセルにほっこり入っているかのような
フシギな彼女が印象に残りました」
「その後、何度かお訪ねしましたが(今度は萩尾さんに会いに)
彼女の不思議度は増すばかり!
当然ですよね、だって彼女は
私が初めて出会った天才だったのですから。」


・作家対談 萩尾望都×長嶋有
私はこの対談がとてもおもしろかった。

「言いたいひとこと」を「必ずクライマックスに」
入れているそうです。
「計算して一番印象付けるように」
萩尾さんの作品が端正にまとまっているような
印象があるのはこうした意図が表れているからかな。
そこがちょっと引っかかったときがありました。
(引っかかりすぎて竹宮惠子さんは苦手^^;)
大島弓子さんのフワッと広々とした場所に
誘われるような感覚が好きだったので。


1982年の暮れ、旅行先のモスクワ郊外で
交通事故にあったということは知っていた。
しかしこれほど重篤な症状だったとは…

「モスクワで2週間入院して帰ってきたんですけど、
その後、日本でレントゲンを撮ったら、
頭蓋骨骨折をやっていて、脳外科のお医者さんが
「へんだな、普通ここを割るとね、
脳みそがグチャグチャになっちゃうんだよ」
って言って、本当に九死に一生を
取り留めたことがありました。」

ううっ、萩尾さん、ご無事でよかった。本当に…
(あまりにもいまさらですが)

それから楽観的になったそうです。
「人間って簡単に死ねるんだなって思ったら、
全てのことに対して「まっ、いいか」と
思うようになりました。」

親との確執はかなり深刻な問題で
萩尾さんの作品に深く関わっているようです。
「漫画はくだらない仕事だからやめなさい」
「メッシュ(1980年)」の前ごろに大ゲンカになったそうです。
この時点で萩尾さんに漫画家をやめろと言う人がいるなんて
考えられないことですが親子だとあり得るんですね。

大正・昭和一桁生まれの親とその子どもとは
考え方があまりに違いすぎて葛藤を生みやすいと思う。
自分がそうだったから。
それにしても萩尾さんのご両親は強力です。
がんばって歩み寄ろうとした萩尾さんの努力は
誰にでもできることではないと思う。
よくやったと思う。

・【萩尾望都と私とシンクロニシティ】マット・ソーン
アメリカのマンガ情報・批評誌「The Comics Journal 」のために
2004年12月6日に萩尾氏の自宅で行われた
4時間にもわたるロングインタビュー
そこからの抜粋が載っています。
(まだ日本語では発売されていない)
何よりもおもしろかったのがこれでした。
日本でも全文を紹介していただきたいです!

以下、長文です(_ _。)
 

〈親子の葛藤について〉
マット「『トーマの心臓』にしても『残酷な神』にしても、
性的虐待の話が多いのは、自分の経験に基づいて
描かれているんですか?
萩尾「うーん…いやそれはないんだけど、
なんか人格崩壊の憂き目に遭うような、
精神的虐待?
…というのがすごくよくわかる。」

私の父と母は、理想的な良い家族を創ろうとして、
子供たちにいろいろな躾をしていた。
それは、ありのままの子供を受け入れることではなくて、
親の望む通りに子供を矯正すること。

家庭内の緊張状態が辛く、そこから逃れるために
SFとファンタジー、物語の世界に走ったと語っています。

『トーマの心臓』について
マット「僕が初めて読んだのは22歳の時だったが、
ユーリが翼を、羽根をなくした理由を
話しているところを読んで、僕は当然
「これは性的暴行を受けたんだ」と捉えたんです。」
「どうですか、その解釈は?」
萩尾「いや、当たってると思います。うん。
マット「『残酷な神が支配する』が出たときは
“これは『トーマの心臓』の大人版だ”と思いました。」
萩尾「はい。コンセプトの段階でキャラクターが重なるもので
すごく困りました。」

ワタクシゴトですが…
10年ほど前、わが家にもとうとうインターネットが
やってきました。
そこには膨大な情報の海が広がっていて
毎日毎日、楽しくその海に溺れていたのですが
ふと某巨大掲示板の萩尾望都スレを覗いてみました。
そこには、「翼を引きちぎられた」行為とは
性的暴行の可能性もあるのではないかという文章が。
びっくりしました。それまで考えた事もなかった。
何しろ初めて読んだのは13歳のときだったので
そこまで思い至らなかった。

しかし、それから25年たった年齢で考えてみれば
十分あり得ることだと納得できます。
「残酷な神」は神学校に行かなかったユーリの話だと
萩尾さんが語っていたということを知り、
やっぱりそうなのかと確信に至りました。
ああ、私はユーリの絶望の深さを読み違えていた
本当にはわかっていなかったのかもしれないと
ショックを受けた次第でございます。

今回の記事の萩尾さんの発言からそれがはっきりとして
なんだかスッキリしたような気がします。

マット・ソーン氏の文章に共感する部分がありました。
「長年読者の研究をしてきた私は、
作品自体には絶対的な意味や「良さ」はなく、
作品と作品を読むその時点の読者との間に
響き合いが生まれるかどうかは
読者が生きてきたライフストーリーに大きく左右される、
という結論を出したが、萩尾先生と長時間
腹を割って話し合って改めて思った。」
「作者が作品を作るとき、同じことが言える。
響き合いが生まれた瞬間、
一度も顔を合わせることのない読者と作者は共鳴し、
シンクロニシティが生まれる、と。」

13歳のときに「トーマの心臓」を読んだから
萩尾さんいわく「理由なく死んでもいいさ」ということが
私にはすんなり受け入れられたのだと思う。
今となっては親の嘆きやあれやこれや、いろいろと
思いめぐらしてしまうけど当時はそんなこと考えなかった。

「いつ人は愛を知るのか、愛にめざめるのか」
トーマの心臓のテーマを作者はこう語っています。
私は子どもだったけれど、
これが大事な部分だと気づいていたと思う。
それは私だけではなく、いくつになっても「トーマの心臓」の
作品世界を忘れずに大切な作品だと語る人たちは皆、
子どもながらもテーマに気づいていたのだと思う。
理詰めに考えると難解な物語なのに。
そこに発生した「シンクロニシティ」を共有していた人たちが大勢いた。
何十年もたってからネットを介してそれを知ることができて
とても幸福な気分でした。

「トーマの心臓」についてよしながふみが
こんなふうに語っているのですが、とてもよくわかる!
(対談集「あのひととここだけのおしゃべり」より)

「『トーマの心臓』も最後まで読んでいくと、
どうしてトーマがああいうことををしたのか、
「わかった!」と思う瞬間があるんですよ。
ユーリがいろいろなことに気づいていく過程で、
自分も何かがなんとなくわかった気がする。
でもラストシーンを見て本を閉じると、
もう一回読まねば、と思うんですね。」

心の底から共感いたします。
わかった気がする。
けれどしばらくすると「んっ???」と考えこむ。
本当にわかったの?
そのくり返しです。。。

まだまだ感想は書けないです。


タグ:萩尾望都
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gavo-22

はじめまして
gavo-22と申します。

ロムだけさせていただいておりましたが

萩尾先生他
山岸先生 永井先生の名前を久しぶりに見て
早速 車で1時間ほどの大型本屋に ご
[__セダン]

しようかと思いましたが
給料日前だったし
まだ これを書いている時点で8時前だし
っつか 9月まで本を買う余裕すらなかったんじゃね?と気づき=遅い

[__!]こちらに ご挨拶だけして
読んだつもりになることにいたしました。←重要なのはここだけでございますのであとは飛ばし読みして下すってかまいませんです はい

ええ

いまだに どこかの部屋にメッシュだの
うちゅうのう だの あると思います
竹宮恵子さんの豪華本もございます

ちなみに 昨日チップチョップ買ってきて大事に食べてます

あの当時一番好きだったのは山上たつひこさんだった気もしないではないが。。。

なんの 疑いもなく 漫画を読んでおりました
で 気づいたら すべてなくしていたのでございます←ほんの一部を抜かして全部古本屋に売った=当時のあほくさい恋愛のために毛糸を買ったのでございました けして 着てもらえるはずもない鎧のような重いセーターアラン編みでございました


では では お邪魔いたしました
by gavo-22 (2010-05-29 07:51) 

miyuco

gavo-22さん、はじめまして。
私にとっても1200円は痛い出費でございました。
でも今回は買わずにはいられなかったです。
本屋さんで手にとって
パラパラと読んでみるだけでもいかがですか^^
(なにげに立ち読み推奨^^;)
by miyuco (2010-05-29 19:33) 

sknys

miyucoさん、こんばんは。
『トーマの心臓』もリアルタイムで読んでいないので、「性的暴行」があったと理解出来ました。
重要なのは、ユーリが暗い夜道を歩いていて通り魔にレイプされたわけじゃないということ。
品行方正な優等生としての白ユーリと堕天使・黒ユーリに分裂していること。
この天使と悪魔の2面性が衝撃的だった。
18年後の『残酷な神が支配する』は『トーマの心臓』の変奏曲だと思います。

石森章太郎の「きりとばらとほしと」(1962)を読みました。
過去・現在・未来‥‥女吸血鬼となったリリが若い容姿のまま100年以上生き続ける設定は、『ポーの一族』に良く似ています^^
「不老不死」というテーマも、30年後の『バルバラ異界』に継承されている。

「特別寄稿」マンガの中で一番笑ったのが、清水玲子。
羽海野チカの手描き「年賀状」が可愛い^^
御両親は萩尾望都の作品の凄さが全然分かっていない。
残念なことに‥‥。
客観的な描写や客観的な作品というものは存在しない。
読者の読むという行為の中に、1人1人の読者との関係性の中に「作品」があるのではないでしょうか。
by sknys (2010-05-30 00:08) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。
萩尾さんに単刀直入に切り込んだインタビューは
ぜひ全文読んでみたいです。
え~と、実は『残酷な神が支配する』を
読んでないんです^^;
手元にあるのですが、向きあう気力が…
これを読まなければ萩尾ファンとは言えない
と思っているのでちょっと居心地悪いです(;_;)

羽海野チカさんのイラスト、可愛かったですね♪
コメントありがとうございました!
by miyuco (2010-05-31 19:58) 

おきざりスゥ。

miyucoサン800エントリ目はモー様でしたネ^^おめでとうございまスゥ。

情報ながしといてスゥ。まだ買ってないの^^;

いまゲゲゲのフミエサンが他人に思えないくらいな経済状態で(v_v。)。

でも明日おっきい本屋サンへ行こうかナ^^
by おきざりスゥ。 (2010-06-05 01:33) 

miyuco

スゥ。さん 、nice!とコメントありがとうございます♪
情報いただいて感謝です!
たぶんこういう本が発売されたことに
気がつかなかったと思います。
だって、いく先々の本屋でみたことないもの。

1200円はたしかに痛かったです(;_;)
by miyuco (2010-06-05 21:18) 

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