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『あんじゅう―三島屋変調百物語事続』 宮部みゆき [読書]

『おそろし 三島屋変調百物語事始』の続編。
2009年元日から読売新聞朝刊に連載されていた小説が
一冊の本になりました。

おもしろかったです。
宮部みゆきの職人芸、どうぞお読みになってみてください。

前作『おそろし』はおちかの心模様そのままに
苦しくつらい場面が多かったけれど
続編は魅力的な登場人物が増え
雰囲気が明るくなったように感じます。

くろすけ…
もうこういうのを出されたらたまんない。
切ないけれど、悲しいだけではない
胸のなかにぬくもりが残るような気がします。
くろすけの歌声はきれいだったでしょうね。

人の内にあるものの醜さ、恐ろしさは
前作と同じように胸に突き刺さる。
それでも、愚か者ばかりが多い俗世から
離れて暮らすという考えは思い上がりだと言う
〈深考塾〉の骸骨先生の言葉は心に残ります。
「世間に交じり、良きにつけ悪しきにつけ
人の情に触れていなくては、何の学問ぞ、何の知識ぞ」

南伸坊さんのイラストがたくさん載っています。
これが素晴らしい!
「可愛くて、奇妙で、切なくて、ちょっと怖い4つのお話」
のエッセンスがみごとに表現されています。

あんじゅうスペシャルサイトでご覧になれます。
http://www.chuko.co.jp/special/anjyu/

「怖い話がお好きな方にはその怖さを、
苦手な方には、江戸の四季折々の行事や、
人と人との出会いの面白さを。
いろいろな楽しみ方ができる物語を
書いていこうと思います。
格好いい人や、あやかしなんかも出てくるかもしれませんよ」
(連載開始時の作者のコメント)
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090105bk04.htm

あやかしがかわいいです。
「格好いい人」、出てきましたね^^
おちかの心がゆっくりと快復していると
さり気ない描写から伝わってきます。

「いたずら坊主三人組、凄腕の若侍、巨漢の偽坊主…
おちかの助っ人、続々登場!」(帯から転載)

元気な子どもたちの登場でにぎやかになります。
おとうやおかあを手伝って、一生懸命働いている子どもたち。
ぼんやり町を歩いているわけじゃない。
焚きつけになりそうなものを拾ったり、
捨てられている古道具を漁ったり、
道中で、子供でもできる半端仕事を見つけて
手間賃を稼いだり、そりゃもうはしっこい。
家族みんなで必死になって
口を養い合っていかないとならないから。

同じ手習所に通っていてもそれぞれの身分や
生活環境は違う。
いつかは、きちんと弁えなきゃならないときが来るけれど
いまはまだそんなの関係ない。
遠慮するなと新太に教える番頭の八十助。
番頭さんは子どもたちに半端仕事をいいつけ駄賃を手渡す。
大人が子どもたちをきちんと見守っている様子が
とても好きです。

叔父・伊兵衛が江戸で営む袋物の大店(おおだな)
「三島屋」に身を寄せる17歳のおちかは、
伊兵衛の言いつけで、一度に一人の語り手を招き、
それぞれが語る怪奇な話を聞いていく。

おちかには実家である川崎宿の旅籠〈丸千〉を
離れずにはいられない事情があった。
[嫉妬と失意と傷心が引き起こした悲劇]
我と我が身を責めさいなんで
ぐるぐると己を責める堂々巡りのなかにいるおちか。

ある出来事から、世間というものに耳を傾けることが
おちかには必要なのではと考えた伊兵衛は
〈一話語りの百物語の聞き集め〉を始める。
聞き手はおちか。場所は黒白(こくびゃく)の間。

この不思議話の聞き集めのなかで
おちかも自分のことを語り
ひとつの区切りがつけることができました。
しかし〈変わり百物語〉はまだ続きます。

 

 

 

【逃げ水】
馬飼いの少年が山で出会った女の子は、
自分のことを神様だと言うが…

「お旱(ひでり)さん」がかわいい。
泣き虫で寂しい女の子。
かつては手厚く祀り上げられていたが
いつしか必要とされなくなり、
永いこと閉じこめられほったらかしにされ
呼び名も〈白子様〉がお旱(ひでり)さんに変わってしまう。
平太の手で祠から解放された神様は怒って水を飲み干す。
困り果てた人びと。
依り代の平太は村をおわれ、神様とともに江戸にやってくる。
お旱(ひでり)さん、江戸の水はお気に召しましたか?

春から三島屋に丁稚奉公に上がった新太
平太との別れはつらかったでしょう。
最後にお旱(ひでり)さんに会えてよかったね。

【藪から千本】
針問屋の一人娘には、恐ろしい呪いがかけられていた。
謎の女性が魔を祓う!

何というか…情けない大人たち…
渦中のお梅さんが素直なお嬢様でよかった。

いい顔を見せあうことにばかり腐心し
収拾がつかなくなった人々を救ったのは、
あばた面の神の使い、お勝だった。

疱瘡にかかってひどいあばたが残った人は
疱瘡の神様の力を、ほかの人たちより
たくさんその身に受けたひとだから、あばたと共に、
邪なモノや魔を祓い退ける強い力も得た。

「あばたは疱瘡の神様の御使いの印」
という江戸の人々の発想は
私には思いもよらないものでした。

お勝は自分を縁起物だと言う
「わたくしのような者に、魔をはらう力があると
信じてくださる皆さまがおられれば、
そこでは役目を果たすことがかないます。」
こんなふうに毅然と自分の役割を見据えるまでに
きっと言葉に尽くせぬ葛藤があったでしょうね。
凛々しいです。

お勝は三島屋の女中として奉公することになります。
おちかさんの応援団がまたひとり増えました。

【あんじゅう】
みんなが怖がって近寄らない幽霊屋敷に
ひとりぼっちで住む「くろすけ」とは?


「人を恋いながら人のそばでは生きることのできぬ」
くろすけが愛おしいです。
くろすけの命のためにつらい別れを決断する老夫婦
切ないです。

手習所(てならいどころ)に通う丁稚の新太が
ケガをして帰ってきた。
手を出した直太郎には気持ちが荒れる事情があった。
父が突然亡くなり母とも別れて暮らすことになったのだ。
しかも父は罪人だと決めつけられてしまう。

直太郎を教えていた若先生・青野利一郎は
彼の父の死には不審なところがあると感じている。
紫陽花屋敷の秘められた不思議な物語が
関わっているのかもしれない。
おちかの黒白の間で青野は語り始める。

加登新左衛門がくろすけを諭した言葉
「おまえは孤独だが、独りぼっちではない。
おまえがここにいることを、
おまえを想う者は知っている。」
それはそのまま直太郎への言葉になる。
直太郎は日一日と強くなります。

人は変われるのだとおちかも気づきます。

【吼える仏】
山間の貧しい村に広まった、
てきめんに御利益のある木仏の秘密!

閉ざされた場所はユートピアにもなるし
地獄絵図にもなる。
一気に反転する恐ろしさ。

偽坊主・行然坊がなんだか魅力的です。

【変調百物語事続】
不可解な動きをするわんぱく三人組。
番頭の八十助の様子もおかしい。
さらには伊兵衛も…
その理由とは何か。

ふぅ、大事にならなくてよかった。
御仏の業ではなく人の世の縁(えにし)の妙で
「三島屋の暈(かさ)」は晴れたようです。

「おちか殿、あなたのお心のなかにも暈がある。
容易に晴れず、またあなたも容易に晴らすことを
望んでおられぬ暈がな」

だから、ご用心くだされと行然坊はおちかに言う。

「心の暈は、闇から生まれ、闇を招く。」
おちかの百物語は続いていく。

―あの着物と袴は何とかしないと、やっぱりよれよれだわ。

青びょうたんの若先生の顔を見ながらこう思うおちか。
おちかさんの心に快復の兆しが見えたような気がします。

あんじゅう―三島屋変調百物語事続

あんじゅう―三島屋変調百物語事続

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/07
  • メディア: 単行本


 


 


タグ:宮部みゆき
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miyuco

ミナモちゃん、nice!ありがとう♪
by miyuco (2010-08-18 23:13) 

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