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『ほうせんか・ぱん』 [大島弓子]

『さよなら妖精』にマーヤという女の子が出てきました。

もうひとり、マーヤと呼ばれる女の子を知っています。
こちらのマーヤも凛々しいです。

大島弓子『ほうせんか・ぱん』
1974年別冊少女コミック8月号に掲載
「モモのカンヅメ」のエピソードが大好きです。

大人びたマーヤと子供っぽいみどり。
小学校の頃から、本物の姉妹のように
ひっついてきた親友同士。
美人で人気者のマーヤを心から慕い
信頼してきたみどりは、密かに思いを寄せる秋生が
マーヤに恋をしても、不思議と納得できた。
しかし、夏休みを間近に突然マーヤが豹変してしまう。
ショックを受けるみどりだが…
(白泉社文庫「ほうせんか・ぱん」裏表紙より)

ほうせんか
つりふねそう科一年草
その昔のマニュキュア
夏から秋に花開き
形はふうがわりでステキ
タネをはじくとおとがする ぱん
“ふれないで”は花ことば
いつかこの花一面の
花畑がもらえる

夏休みをどう過ごすかでにぎやかな朝の教室
「わたし?どこへもゆかずにアルバイトよ これを見て」
マーヤの耳たぶにはイヤリングを通す穴があいている
ダイヤのイヤリングのためにアルバイトをすると言う。
そして持ち物をオークションで売り払いはじめる。

みどりの家では父の知り合いの息子・秋生を預かっている。
遠い長野から15のとき、医者になるためにやってきた。
秋生とマーヤはすぐに恋に落ちる。お似合いのふたり。

秋生の部屋に手紙のたばが置いてある。
マーヤへ出したラブレター。封筒には値札。
「彼女が売りにきた 気持ちがかわった証拠さ」

マーヤは変わってしまった。
ダイヤのために?

「みどり 見てよ」
「不思議な色をしたタネよ 見てよ」
「宝石みたい 
これ もしかしたら 見つけたのは 
世界であたしたちだけかもしれない
ふたりでわけて持っていましょうよ」

「あのときマーヤがくれた
うす茶色のほうせんかのタネこそが
宝石だったのだ ほんとの」

この作品でもっとも心に残ったのが
「モモのカンヅメ」のエピソード
失意のうちにマーヤを傷つけ、自分も苦しみ
熱を出したみどりに秋生はこう言う。
「一番好きな食べものをいってごらん」
「おいい 買ってきてやるよ
メロンでもドロップでも一番きくくすりになるんだから」
「みどり ぼくのクスリはカンヅメだったよ」

「昔ぼくのぐあいが悪くなると
父さんは山をおりて
遠い町の雑貨屋にすっとんで
大好きなモモのカンヅメを買ってくるんだ
それをつめたいわき水でひやして
白い甘い香りのくだものの半かけを
ぼくに食べさすんだ」

「冬でも嵐でも
父さんは走ってゆき
ぼくはおいしくそれを飲みこんでねむるんだ
注射もクスリも飲まずにね
ただそれだけで 次の朝
病気はなおっちまっているんだ」

「原始的治療法だろ
父さんは医者のくせに」

「秋生ちゃん マーヤを許す?」
「初めからにくんでやしない」
「まだマーヤを好き?」
「うん みどり」

秋生はみどりにモモのカンヅメを買ってくる

「モモは ひんやりにがっぽかった」

素行不良で学校から退学を言い渡されたマーヤ
みどりは追いかける。
「自主でも強制でもおなじことなんだ
高校をやめることはね」
泣き虫なみどりに黙って行こうとしたけれど失敗。
9月になったら父とともにインドへ行く。
インドの奥地にダイヤモンドがでるかもしれない。

「インドへゆく夢は秋生ちゃんへの愛をもさめさせたの?」
さめてやしないわとマーヤは答える。じゃあなぜ?
「へんりんを見たからね」
「あんたの姿をよ 彼の目の中に」

ダイヤが見つかったらすごいわよ
「見つかったらあんたに
一面のほうせんかの野原をプレゼントするわ」
「そして再会を祝って
一日中タネをはじいてあそびましょう」

「夢みたい」

マーヤはいつの間にか日本を旅立っていた。

しかし、一年後のマーヤは…
「へんりん」を見たのが
姿を消した理由のすべてだったのでしょうね。
みどりと秋生、ふたりとも大好きだったから。

*
*
*
*
*

秋生が語る熱を出したときの父の様子
言葉の選び方、リズム、温かさが伝わってきます。
書きうつしていて、改めてうまいなと思いました。
大好きです。

初期といっていいほどの作品なので
「モモのカンヅメ」が心に残っている人は
それほどいないだろうと思っていました。
とんでもない。
名フレーズとしてよく挙がっていました。

大島作品へのオマージュが多いと言われている(らしい)
岡崎京子さんも作品中に何度かモモのカンヅメを
登場させているそうです。

*
*
*

ほうせんか、ここ何年も「ぱん」してません。
小学生のころは道ばたや庭先に生えているのを
ふつうに見かけたのに
今住んでいるところではあまり見ないのです。
タネをさわってぱんっと勢いよくはじけると
スッとしますよね。
逆にまだ若く、ギュッとにぎってもはじけないと
とっても残念な気持ちになります[バッド(下向き矢印)]

「桃の缶詰」
私は4人きょうだいの長女です。
いただきものの缶詰を、きこきこ開けて
4等分にするのは私の仕事。
のぞきこむ妹と弟たちの目の前で
慎重にわけていきます。
あま~いシロップも同じ分量にしなければなりません。
なにしろめったに食べられなかったから^^;

ほうせんか・ぱん (白泉社文庫)

ほうせんか・ぱん (白泉社文庫)

  • 作者: 大島 弓子
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2001/12
  • メディア: 文庫

収録されているのは大好きな作品ばかり

・海にいるのは
・ほうせんか・ぱん
・ほたるの泉
・銀の実を食べた
・わがソドムへどうぞ
・まだ宵のくち

twitterで「大島弓子bot」見つけてしまった…
http://twitter.com/ooshima_yumiko

「少女漫画家 • 大島弓子さんの
作品中の台詞やフレーズをランダムでつぶやく、
一ファンによる非公式自動botです。
大島弓子さんご本人とは、残念ながら関係ございません。
このbotによって、少しでも大島弓子さんの作品世界に
触れる人が増える事を願って…」

たくさんつぶやいてます^^
 


タグ:大島弓子
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コメント 2

びっけ

私も「モモの缶詰」のエピソードが強く印象に残っています。
愛しい子どものため、大切な恋人のため、モモの缶詰を求めて走り、与える姿は何と麗しいことでしょう!

そのほかの話のディティールは
「インドにダイヤモンド探し?」
「服や手紙を叩き売り(オークション)?」
「知り合いの息子を預かっていて、その息子がハンサムで賢い!」
と、あまりにも私の知っている現実世界とかけ離れていて、(いかにも少女マンガだわ)と思って読んでいましたが、モモの缶詰のくだりは、ものすごーく共感しました。

私も長女なので(弟二人)、姉に期待される仕事?のこと、よーくわかります。
男はつらいよ・・・ならぬ、長女はつらいよ・・・ということもありました。(^^;
兄や姉がいないと、学校生活でもなんでも、パイオニアですからねぇ・・・。

※ トラバさせてくださいまし。
by びっけ (2010-08-20 22:16) 

miyuco

>びっけさん
大島さんの作品は話の本筋を彩るエピソードに
不意打ちのように心をつかまれてしまう事が多いです。
それは「桃の缶詰」のようにいつまでも
心に残っていて折に触れよみがえってきます。

ふふふっ、長女は確かにパイオニアでした。
今振り返るとムリして長女をがんばってたなぁと思います。
報われることはあまりなかったのに^^;
(私の場合)
結婚して家を離れてからのほうが気楽だったりします。

TBありがとうございます^^
こちらからもぜひっ!

nice!とコメントありがとうございます♪
by miyuco (2010-08-21 19:12) 

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