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『ブラック・リスト』 サラ・パレツキー [読書・海外]

アメリカのミステリー作家、サラ・パレツキーが
昨年9月、国際ペン東京大会のために来日。
「9・11後、自由が犠牲に」
という記事が朝日新聞に載りました。

「9・11以降、国家の安全という名のもとに
市民的自由が犠牲にされている」
と警告を発し、
新作『ミッドナイト・ララバイ』や
自伝的エッセー『沈黙の時代に書くということ』
(いずれも早川書房、山本やよい訳)でも
「社会的不正義には、沈黙ではなく発言を」
との思いを込めている。

V・I・ウォーショースキー(略してヴィク)シリーズを
始めて読みました。
1950年代前半の赤狩りをオーバーラップさせて
9.11テロ以後のアメリカの
不寛容な風潮を厳しく描いています。

たたみかけるような導入部はとてもおもしろい。
しかし、なかなか核心にたどりつかない。
中盤は読み進めるのがちょっと億劫でした。

2002年3月(9.11テロの翌年)のシカゴが舞台
アラブ系住民=テロリスト
という差別的な空気が広がり
イスラム教徒は冷たい視線にさらされる。
「愛国者法」の乱用がもたらす人権侵害の恐ろしさが
V・Iの身に起こったことを通して伝わってきます。

後味はよくないです。
少年はなぜあんな目に遭わなければならないのか。
考えの足りない夢見がちな金持ち少女にも腹が立つ。
魅力的な人物がもう少し出てきてくれたらよかったのに。
老いた貴婦人は物語の最後の方で好きになりました。
最初はなんて面倒な老婆だろうと思ってたけど。
91歳にして一矢報いたのだから
さぞやすっきりしたことでしょう。

旧家の大邸宅が並ぶ地区、ニュー・ソルウェイ
一年前から空き家になっているラーチモント館に
夜間、不審な人物が出入りしているので
調べてほしいという依頼をヴィクは引き受ける。
調査中の屋敷で少女に出会い、追いかけるうちに
ヴィクは体勢をくずして池に落ちる。
水草をつかんで身を支えようとしたが
あろうことか、それは人間の手だった…

池で死んでいた男は、マーカス・ウィットビー
若いアフリカ系アメリカ人ジャーナリスト。
1950年代の「赤狩り」のブラックリストに載っていた
黒人の美人ダンサーの記事を書いていた。

ヴィクが深夜のラーチモント館で出くわした少女は
ラーチモント館で何をしていたのか。
それが明らかになった時点で
この作品の主題がはっきりと姿をあらわす。

45年前の非米活動委員会の英雄の秘密と
ジャーナリストの殺人が
ひとつの糸によりあわされ真実にたどりつく
終盤の展開はとてもおもしろかった。

しかし真実が白日の下にさらされることはない。
苦い結末です。

以下、未読の方はご注意を

 

 

地位と名声、金と権力を持つ人間が
家族を守るための行為だと主張する。
保身のために撃ったという真実は信じてもらえない。
「イスラム教徒の血を流そうとする
政府の欲望の前では、手も足も出なかった。」p456

「あの子を銃弾の前に押しやったのはあんただぞ」
世間知らずのお嬢さんにはっきりこう言うルー神父が
この本の登場人物で一番好きです。

「ディーニー」
とても甘やかなひとことでした。

ラスト、恋人の消息を報せる連絡が届く。
よかったねV・I。少しは心が休まるかな。

ブラック・リスト (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ブラック・リスト (ハヤカワ・ノヴェルズ)

  • 作者: サラ・パレツキー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/09/23
  • メディア: 単行本


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コメント 2

miyuco

dendenmushiさん
あいか5drrさん
nice!ありがとうございます。
by miyuco (2011-02-02 16:17) 

miyuco

ミナモちゃん、nice!ありがとう!
by miyuco (2011-02-02 16:18) 

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