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『七つの海を照らす星』 七河 迦南 [読書]

これがデビュー作とは思えないほどうまいです。
とてもよかった。
七作からなる連作短編集。「日常の謎」系列。
それぞれの物語に織り込まれた謎が
思いがけない形で姿をあらわす最後の一篇に
意表をつかれます。


【第18回鮎川哲也賞受賞作】
様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが
生活する児童養護施設「七海学園」。
ここでは「学園七不思議」と称される怪異が
生徒たちの間で言い伝えられ、
今でも学園で起きる新たな事件に
不可思議な謎を投げかけていた。。

「養護施設で暮らす子供たちには
現代社会のひずみが「影」を落としていることが多い。
しかしこの物語からは「光」のほうが印象に残る。
闘ってきた子どもたちは
過去に絡み取られてはいないから。

「ただ打たれっぱなしってわけじゃない。」
「皆何かの希望を掴もうとしているんだ。」
希望を掴もうとしている子どもたちの姿が
あたたかいまなざしで描かれていて好感が持てます。

養護施設に勤めて二年目の北沢春菜の視点で
物語は綴られていきます。
「不思議」の謎を解くのは海王(かいおう)さん。
児童相談所の児童福祉士。
子どもたちに寄り添いながらていねいに話をきき
気づいたことをより合せ、結果的に謎を解いてしまう。
「いやあ、あの子は本当にいい子ですねえ。」

「人は皆、首尾一貫した自分の物語を必要としている。
一見美しくても嘘や欺瞞で固められた物語はいずれ破綻する。
でも、事実でさえあればそれでいい、ということじゃない。
無限にある『事実』の中から自分にとって意味あるものを選び、
つなぎ合わせ、解釈して
自分を主人公にした納得のいく物語を作っていく。
必要なら何度でも書き換える、
真実というのはそういうものじゃないかって。
昔の人が夜空にただ散らばっているだけの星の間に
線を引っ張って星座を作ったように」

海王さんの言葉に深くうなづきました。
私も物語をつくりかえている自覚があるから。


「子どもたちを苦しめる大人を
「声高」に非難する口調がこの本にはない。
そんなふうな描き方があるから、
前に向かおうとする色合いが濃いのかな。

「滅びの指輪」が印象に残ります。
神様に復讐する(人生を取り戻す)つもりの彼女は
この物語のなかでただひとり
過去にとらわれているように思える。
本当にだいじょうぶなの?

七つの海を照らす星

七つの海を照らす星

  • 作者: 七河 迦南
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 単行本

読み終わってから表紙の著者名の
アルファベット表記に気づく。
ううっ、やられた・・・


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