SSブログ

『アルバトロスは羽ばたかない』 七河 迦南 [読書]

とてもインパクトのある展開が待っていました。
「そっ、そうだったのっ?!」という感じ。
鮮やかなテクニックを見せつけられるのは嬉しい。
ミステリーの醍醐味です。

二冊しか出版してないのに
二冊ともおもしろいってどういうこと?
こうなると「新刊はよ」と言わざるを得ない。
(↑若者の言い方をマネしてみました)

「カルメン・マキ&OZ 崩壊の前日」
という曲名におもわずときめいてしまった。
今でもカバーされてるのかしら。
当時は「閉ざされた町」のほうが演奏されてたかな。
・・・思いっきり余談でした・・・

前作『七つの海を照らす星』での北沢春菜は
児童養護施設・七海学園の新米保育士でしたが
今作では勤め始めて三年目になっていました。
学園の生徒が通う高校の文化祭の日に起きた
屋上からの転落事件は「不慮の事故」なのかどうか
真相を明らかにする過程をメインに、
春から秋にかけての四つの事件をはさみこむ
連作短編集の形式になっています。

「ハナミズキの咲く頃」
母が何を望んでいたのか
希望へと導く物語を伝えることができてよかった。
しかし、そうできるケースばかりではないと
海王さんは言います。

「どんな経験も善意と愛で強引に説明しようとするなら
それは危険です。まぎれもなく親のエゴや怒りから
行われたとしかいいようのない行為までも、
皆親が自分を愛するが故にしたことだったのだ、
自分は傷ついてなどいない、
と思い込めばどこかに無理が生じ、
ひいてはパーソナリティーの歪みを生むことになります」

「事実を否定し見ないふりをすることはできない。
でもそんな中でも、どこかに何かしら希望につながるものを
彼らと一緒に探していくのがわたしたちの仕事かもしれません」

「アルバトロスは羽ばたかない」の主題はまさにこれでした。
親の呪縛から逃れることができないという絶望に
心を引き裂かれ、身をほろぼすほどに苦しむ子ども。
何度も拒絶されながら手を差し伸べることをやめない春菜。
それがどれほど困難なことであるのか・・・

子どもを蹂躙する親や大人の罪は大きい。

「夏の少年たち」
重苦しい雰囲気の話が続くなかで
少し色合いが違うこの短編が清々しいです。
みんなでがんばりましたね。
どうか事態が好転しますように。

「初秋の章」
集団による卑劣ないじめ。
湊かなえの「告白」にも出てきました。
うすうす気づいていながら持て余している子どもの
心の内を思うとせつないです。

「晩秋の章」
はらはらしながら読み進めたけれど・・・
ほっとしたというかなんというか。
あの人があんなタンカをきるとは^^;

以下、未読の方は絶対に読まないように
切にお願い申し上げます。
(なら書くなというツッコミはご勘弁を)

*
*
*

春菜の声を伝え、意図したことに手を貸して
彼女はやっと泣くことができたのかもしれない。
失いかけているものはあまりにも大きい。
どうか助かってほしいと読者である私も願っています。

 ちょくちょく違和感があったけれど
読んでいる最中はそれが何なのか
どうもはっきりしなかった。

一番はっきりと感じたのは
「野中先生さっきのところもう一回だけ教えてよ」p60
佳音ちゃんがいるならば必ずあるはずの
春菜とのやりとりが一切でてこないという不自然さ。
そして香澄美へのひとこと。
「わかるのよ」
前作を読んでいればわかる痛ましい言葉。

読み返してみれば警察署についたときの描写から
整合性を意識して書いてあるとわかる。
うまいです。

新作が楽しみな作家さんに出会えてうれしいです。

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

  • 作者: 七河 迦南
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/07/27
  • メディア: 単行本

「卑怯だよな~〇〇が△△だったなんてさ」
と読み終わってから言ったダンナさん。
たまたま聞いていた息子と顔を合わせて
ハァ(o´д`o)=3
あんたはもうミステリーを読まなくていいから。
そんなこと言ったらアレもコレも
ミステリーランキングに入んないってば。
(`^´)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0