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『無菌病棟より愛をこめて』 加納朋子 [読書]

2010年6月、私は急性白血病だと告知された。
愛してくれる人たちがいるから、
なるべく死なないように頑張ろう。
たくさんの愛と勇気、
あたたかな涙と笑いに満ちた壮絶な闘病記。
(帯より)

加納朋子さんの新刊のタイトルを見て
今度は病院を舞台にした作品なのかなと思っていた。
ご本人の闘病記だなんて・・・

ある日突然、「あなたは白血病です」と
告知されてしまった方々や、その家族、ご親戚、ご友人に
あとがきだけでも読んでいただきたいと
加納さんは書いています。
「決して絶望しないで下さい」

悲壮感あふれる重たい空気にならないように
カラッとしたタッチで綴られています。
「読者」を想定し、自分を律しながら、読みやすいように。
作者の伝えたいという意思が強く感じられます。

「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」

あるとき加納さんの頭にうかんだこの有名なキャッチコピー。
それはこの本にもふさわしい。


日本では毎年6000人が白血病にかかっているそうです。
でも、まさか自分がなるはずないと誰もが思っているはず。
作者も同じ気持ちでした。

「ーーー レアだよね」
夫の言葉に、私もうなずく。
「ていうかむしろベタだよね。山口百恵の赤い疑惑かって感じ」
歳がバレるような作品セレクトである。
今なら韓流ドラマかセカチューかってなものだろう。

まだぴんとこないまま
「当事者にのみ許される軽口」を叩く。
「生真面目に、懸命に。」

「五年後生存率・35パーセント」
少し古いデータとはいえ厳しい数字です。
作者の場合はさらに悪いことに
化学療法後に遺伝子異常が見つかり
(発生率は患者全体の1パーセント)
レア中のレアな事態になったため
骨髄移植を決断せざるを得ない。
幸運なことに弟さんとHLA検査がフルマッチ。
(血液型も同じ)
これにより骨髄移植に向かって一本道となる。

「これほど好条件な移植はない」
と医者から太鼓判をおされて臨み、
結果から見れば経過は順調。
しかし、なんて壮絶な戦いなんだろう。
これほどまでに苦しんでいるのに「順調」なのだ。

「異常で珍しい体験をしたら、
記録せずにはいられないのは物書きのサガである。」

記録はしているが
感情のすべてが書かれているわけではない。
中学に入学したばかりの子どものことを考えると
胸が張り裂けそうだったと思う。
不安にさいなまれてどうしようもないときがあったと思う。
しかしとりたてて言葉にして書かれているわけではない。
意図せずとも行間からにじみ出ているけれど。

「がんばること」「良かった探し」
ができなくなったときもあったようです。
でも、基本的にこれは身についていることみたいですね。やることが当たり前
それにしてもあの状態でなんで「ももあげ百回」やっちゃうの?

「食べられる物探し」
放射線や抗癌剤の影響で起きる味覚異常、
吐き気と食欲不振にもめげずに
手を変え品を変え食べられるものを
自分の体を使って試してみる。
主婦としての知恵を総動員して闘う。
毎日少しでも食べ物を摂取することが、
消化器官からの感染を防ぐ上でとても大切だから。
(絶食が続くと胃腸の粘膜が委縮し、
細菌による感染の危険が増大する)
失敗して苦しむこともあるのに負けない
すばらしい不屈のファイターです。

「ハーゲンダッツのアイス」は強い味方。
アイスクリームはNG食品だがハーゲンダッツだけはOK。
蓋を取った後、さらに密閉包装がされているから。
この情報を知ったのは入院してから二か月後。
「もっと早く知らせて欲しかった」
化学療法が始まってすぐに知っていれば
負担が少し軽くなっていたかもしれないのにと
読んでいて私も思いました。

「岩手ホスピスの会のタオル帽子」
忘れないでおきます。必要な時のために。
入院した時の履物はクロックスがお勧めだそうです。
そういえば病院でお医者さんが履いてるのを
見かけたことがあります。

加納朋子さんが深夜アニメを山ほど録画しマンガを愛する
「逃げも隠れもしないオタク主婦」だとは知らなかった^^
「・・・・・死んでたまるか戦線ですよ」
とつぶやきつつパソコンで検索を続ける。
「よく知りもしない相手とは闘えないのだから。」

「白血病なんて、隕石に当たったようなアンラッキーだよ。
原因とか、くよくよ考えるな」
作者を楽にさせてくれたという弟さんの言葉。
すてきです。
自分がドナーになる可能性を考えて
姉の病名を知ったときから即、禁酒。
プルーン、レバー、ほうれん草を食べまくって
上質な骨髄液をたっぷりあげようとするところも。

家族や友人、身近な人の援護射撃が
どれほど力になることか。

「ありがとう」
という言葉がたくさんでてきます。
加納さんのお人柄がよくわかります。
どうかお幸せに。

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息子の同級生がひとり
同級生の妹がひとり
いずれも中学生のときに発症した白血病と闘っていました。
ふたりとも現在は元気に過ごしています。
小児急性白血病の治癒率は高いようですが
治療の過酷さは変わらない。

高校の制服を着て友だちと歩いている姿をみたときは
グッときました。がんばったね。

「臍帯血」
私が出産したときに提供できたらよかったのに。
20年前にはまだ臍帯血バンクはなかった。
今の元気な息子たちを見ていると
きっとお役に立てただろうと僭越ながら思う。残念です。


無菌病棟より愛をこめて

無菌病棟より愛をこめて

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/03
  • メディア: 単行本



タグ:加納朋子
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miyuco

綺華さん、nice!ありがとうございます^^

by miyuco (2012-05-22 12:51) 

藍色

著者さんの闘病記と知って愕然としました。治ってよかったです。
気力とか前向きさとか人の良さが良く伝わってくる一冊でした。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
by 藍色 (2017-06-27 08:15) 

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