『ヒア・カムズ・ザ・サン』 有川浩

収録されているのはふたつの作品
「ヒア・カムズ・ザ・サン」「ヒア・カムズ・ザ・サン　Parallel」

後半の「Parallel」が圧倒的によかった。
この本の来歴をよくわかってなかったので
舞台を書いた方の作品かと思ってました。
（スイマセン。作者名は「有川浩」単独名義でした）
心の揺れ方が前半とは比べものにならないほど
濃密に描かれていて素晴らしいです。

演劇集団「キャラメルボックス」の新作演劇の
七行のあらすじから有川浩が書き下ろした
「ヒア・カムズ・ザ・サン」

もうひとつの「ヒア・カムズ・ザ・サン　Parallel」を
書いたのも有川浩。
キャラメルボックスの舞台（脚本・演出家成井豊）
を見たあとで演じられた物語に着想を得て
人名・物語の大枠はそのままに新たに執筆された作品。
舞台のパラレルであり、
舞台ができあがる前に書いた小説「ヒア・カムズ・ザ・サン」の
パラレルでもある。

「編集者の古川真也は、幼い頃から
触れたものに残る記憶が見えた。
ある日、同僚のカオルの父親が、20年ぶりに帰国する。
彼はハリウッドで映画の仕事をしているはずだったが、
真也に見えたものは――」

一作目、作者の器用さが前面に出すぎていてちょっと・・・
失言の多い男性編集者。
物語を動かすためだけに登場させられた人物に
がっかりしてしまう。なんだかなー

「Parallel」の白石晴男はいいところが何もない。
夢を追いかけるなんてかっこいいことを言って
妻子を置いてアメリカへ行ってしまった。

「見果てぬ夢を追いかける芸術家系？
ただし自尊心に才能が追い着いてない系」

辛辣な口調で父を語るカオル。
その父が20年ぶりに日本に帰ってくる。
妻と娘に会うために。

父への感情を持て余すカオルと
娘の心をくみとれない不器用な父親。
古川真也は「もの」に残された「思い」を
読み取ることができる。
父の隠された思いにふれた真也は
婚約者・カオルとその父・晴男を会わせるために
奔走する。

「Parallel」に登場する人物はみな分別がある。
晴男以外は。
娘のカオルは分別に流されないように
精一杯がんばって踏みとどまっているように見える。
心の中にいる傷ついた小さなカオルを
裏切りたくないのかもしれない。

もつれた糸に読んでいるこちらがつらくなる。
どうにかならないの？

「プチモンカード」を一枚も持っていなかったら、
カードを持っているという嘘は吐けない。
この人はそういう人なのだ。

真也は自分の能力で得た情報を切り札にしなかった。
いいヤツだわね。
晴男を励まそうと懸命に嘘を吐く妹の気持ちに
気づいてほしいと、晴男が気づける人でありますようにと
祈るように真也がふたりを見守る場面が好きです。

晴男は変わらない。
しかし真也の晴男を見る視点が変わっていく。
そこからゆっくりと糸がほどけていきます。

物語の運び方がとてもよかった。
ムリなく穏やかでやさしい。
有川浩にこれを書かせた「キャラメルボックス」の舞台は、
そして成井豊の脚本は、どんなものだったんだろう。
興味がわきました。

ヒア・カムズ・ザ・サン

• 作者: 有川 浩
• 出版社/メーカー: 新潮社
• 発売日: 2011/11
• メディア: 単行本

「俺を哀れむな。」
インパクトのある言葉を選ぶのが相変わらず巧いです。
しかし・・・
効果を狙っているのがわかりすぎて興醒めすると言ったら
有川浩の持ち味を消すことになるのかな。
してやったり感（ドヤ顔・・・）が透けて見えるような
ライトな感覚に抵抗があって
読むのをためらう人がいるとしたら、もったいない。
「ヒア・カムズ・ザ・サン　Parallel」は素晴らしいです。

タグ：有川浩

コメント 1

ずずみんさん、こちらにもnice!ありがとうございます♪
by miyuco (2012-06-16 17:19)