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『名前探しの放課後』 辻村深月 [読書]

『ぼくのメジャースプーン』を先に読まないと
『名前探しの放課後』を読んでも意味がわからない。
ゆえに読む順番を間違えるべからず。
・・・これを書く時点でネタバレ気味なのがなんとも不本意。
どうにも釈然としない。

それでも、いい本だったなという読後感が残る。
友人が不幸にならないようにと一生懸命になる
登場人物たちが好きです。
特に「いつか」くん、君はなんていいヤツなんだ。

20代の辻村深月が書いたヘビー級の作品を
立て続けに読んできたけれど
今回はパワーダウンしているような気がする。
きっとここで一区切りだったのでしょうね。

「もしも今後、私の話たちに「第一期」という時期が
名づけられるとしたら、その総決算がこの話だと思います。」
 
            講談社BOOK倶楽部 より引用

「第一期」の作品群はずっしりと重くて、
それなのに清々しくて、若々しい筆致が大好きです。
粗削りだけれど作者の真摯な姿勢が感じられ、
とても好感が持てました。

私が辻村深月に興味を持ったのは
『ツナグ』の「親友の心得」を読んだとき。
10代女子の心の揺れを描く視点の鋭さに
圧倒される思いでした。
続けて読んだ初期の作品で
そのときの感覚を再確認できてとても楽しかった。
デビュー作・『冷たい校舎の時は止まる』が未読なので
読んでから『ロード・ムービー』にいきましょう。

dot blue.gif

依田いつかが最初に感じた違和感は
撤去されたはずの看板だった。
「俺、もしかして過去に戻された?」
動揺する中で浮かぶ一つの記憶。
いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに
相談を持ちかける。
「今から俺たちの同級生が自殺する。
でもそれが誰なのか思い出せないんだ」
二人はその「誰か」を探し始める。

dot blue.gif

いつかはタイムスリップで三カ月前に戻されてしまった。
今ならあの自殺を止めることができるかもしれない。
親友の秀人、その彼女の椿、優等生の天木、
そしてあすなとともに、知恵をしぼり力を尽くす。

最初は軽薄な感じの依田いつかが
中盤からかっこよくなってきます。
しかし実は最初からかっこよかったわけですね。

「元気で溌剌とした子と友だち」
そうであればおじいちゃんが喜ぶとわかっているけれど
坂崎あすなは期待に応えることができない。
そしてそれを心苦しく思っている。

ああよくわかる。
私は直接母親に責められて悲惨でした。
でも、ムリなものはムリ。

あすなはやさしいから
祖父の口には出さない期待を感じとることができ、
やさしいから応えられなくて苦しい。
いつかの身に起こったトラブルのおかげで
思いがけずおじいちゃんを喜ばせることができました。

「石のスープ」
これを引き合いにだす、
あすなの祖父はすてきです。

「グリル・さか咲」のお料理はどれもおいしそう。

読んでいる途中に、モノローグの一部が
意図的にはぶかれているとわかってくる。
違和感のあるセリフ、不自然な行動、
それが終盤で劇的な形で明らかになります。

彼らの努力は最後に実を結びます。
ああよかった。

・・・何を書いてもネタバレになってしまう・・・

以下、未読の方はご注意を

*

*

*

*

重たいものをかかえた心をさりげなくサポートする。
困難が予想されるけれどやりとげると決めている。
いつかくんはかっこいいです。

「この土地で育ったなら」
という一文がプロローグにありました。
だとしたら河野基は当てはまらない。

いつかが常に一緒にいようとしたのは誰なのか。
それを考えれば該当するのはひとりだけ。

自殺を阻止してハッピーエンドとなったあとで
秀人のモノローグというサプライズが待ってました。

『ぼくのメジャースプーン』に出てきた
あの「力」が発動していたとは。

「たとえばさ。今から三ヵ月後、
自分が本当に気になってる女の子が死ぬって
仮定してみてよ。
そうしたら、自然と誰か思い当たらない?
そういうのがないなら、
いつかくんの人生はすごく寂しいよ。」

ジャスコの屋上、いつかへ投げかけた言葉。
思いがけずそこでゲームが始まってしまった。

“本当に気になってる女の子”

「本人は無自覚だけど、
この声を受けたいつかは答えを迷わなかった。
それが誰であるのかを一瞬で問われ、
一瞬のうちに迷いなく結論を出した。」

読んでいて最後まで残っていた違和感。
あすなが自殺するとは思えないということ。
なぜそういう流れになってしまったのか、
ここで解き明かされます。

ある意味、「いつかの妄想」というのもハズレでは
なかったわけですね。

「ぼくのメジャースプーン」ではわかりづらかった
「力」(呪い?)をかけられた側の思考が理解できて
おもしろかった。
心の奥に潜んでいるありとあらゆるものを
表に引っぱり出して、自分で自分を納得させてしまう
といった感じかな。

今回の「力」は恋愛の成就という
ハッピーエンドを招いたので良き使い方でした。
(結果オーライ)

生来の真っ直ぐな気性がはっきりとあらわれて、
いつかは、ずいぶんラクになったのではないでしょうか。

『凍りのくじら』の松永郁也も登場してた。
「どこでもドアがあったらいいのにね」
あの段階ではいろいろな意味にとれるけど、
実はあすなに向けた言葉だったのですね。

多恵さんも登場してうれしかった。

秀人と椿は実は・・・
というのは事前に知っていたけれど
高校生になったふたりのやりとりを読むと
小さい頃から知っていた子どもの成長を
垣間見ることができたような気持ちになる。

「私も秀人も、人や物事のいいところばっかり見ようとする。
きれいなところで、いい空気を吸ってるふりを、ずっとしてたい。」

「歪みを繰り返しながら、正方形の形に落ち着いた」

むきだしの悪意に直接触れてしまったふたりは
傷を負いながらも、強く優しくなっているようです。

ペンケースにつけてあるメジャースプーン、
秀人は椿のピアノの発表会に昔から行っている、
うさぎのシール、
秀人がいつかに出会ったのは通っていた病院、
ちりばめられたカケラは彼らが誰であるかを
ほのめかしていた。

名前探しの放課後(上)

名前探しの放課後(上)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

名前探しの放課後(下)

名前探しの放課後(下)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
いとこ同士のふたりは演技賞ものですね。
基(はじめ)くんはいい味出してました。


タグ:辻村深月
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コメント 4

おさかな♪

[ニコニコ][ぴかぴか]
by おさかな♪ (2012-12-18 18:07) 

miyuco

おさかなさ♪さん、nice!ありがとうございます。
by miyuco (2012-12-29 20:58) 

ゆき

はじめまして。ゆきともうします。

つい昨日、この話を上下巻一気読みしまして
感激し、色んな人の感想を見て回っています。

私はエピローグを読むまで、気付きませんでした…

椿の名前に仰天しました。
うわぁああっ!

ペンケースにつけてあるメジャースプーンや
うさぎのシールには全く気付きませんでした。

そうかあの時秀人と一緒にいた人は秋先生だったのですね…?

自分の見抜けなさにガッカリすると同時に
やられた~というスッキリ感に浸っています。

近いウチにまた読み返したいと思います。

サクラ咲くのマチとあすなは
中学時代繋がっているんじゃないかな~と思います。
by ゆき (2013-09-23 08:26) 

miyuco

ゆきさん、はじめまして。
エピローグにはやられたって感じですよね^^
辻村深月の本には魅力的な男子が
よく出てきますが、いつかくんはそのなかでも
特にお気に入りです。いいヤツです。

「サクラ咲く」これから読むのが楽しみです!
コメントありがとうございます。
by miyuco (2013-09-24 19:03) 

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