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『トオリヌケキンシ』 加納朋子 [読書]

「相貌失認(そうぼうしつにん)」
「顔を見てもその表情の識別が出来ず、
誰の顔か解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状」
                       ---wikipedia

そんなふうに他人からは理解されづらい困難を
抱えた人たちがでてきます。

「たとえ行き止まりの袋小路に見えたとしても、
根気よく探せば、どこかへ抜け道があったりする。」

助けるという意識などないのに人を救ったり、
偶然の出会いに救われたり、
人と人との不思議なつながりが出口に導いてくれます。

六つの短編すべてが好きですが
表題作の「トオリヌケキンシ」が特にお気に入り。
自覚ないままに世界を一変させる
小学生男子のむじゃきなパワーがまぶしいです。
あずさのおばあちゃんもきっと祈るような気持ちで
ふたりのことを見守っていたでしょうね。
「出口のない道を歩いていた」女の子は
高校生になって同じような境遇にいる男子のことを
放っておけるわけがない。
再会できて本当によかった。

「平穏で平凡で、幸運な人生」
幸運で幸福な話。
超能力(共感覚)を発揮して、危機を乗り越えました。
どうぞお幸せに。

「空蝉」
つらいつらい描写が続きます。
どれほど心細かったことか。
「やさしかったおかさんは、
おそろしいバケモノにたべられてしまった。」
ずっと側にいてくれた「タクヤ」
タクヤに救われていたけれど、
ある意味救った側でもあるのですね。

「フーアーユー?」
「相貌失認」と「醜形恐怖症」が織り込まれた
かわいらしいラブコメ。
マイナスがプラスに転じるところが楽しかった。
それまで周りに理解されずに苦しかったでしょうけれど。

「状況は何も変わらない。
だけどこうして今の僕の状態に名前がついたことで、
ずいぶん気は楽になった。
無理をして必死になってやってきた実りの薄い努力を、
もうできる範囲でいいやと思えるようになった。
できないものは、できない。
だったら周りの方に理解を求めていけばいいんだ。」

「座敷童と兎と亀と」
‘屈強な息子’がいてよかったね。

「この出口の無い、閉ざされた部屋で」
最後の願い・・・ せつない話です。

「かくも世界とは、不平等で不合理に満ちている。」

見届けた‘屈強な息子’は本当にいいヤツですね。

* * *

「場面緘黙症」の女の子が近所にいます。
長男と幼稚園から中学まで一緒だった。
中学生の頃、たまたま乗り合わせた電車で
妹と普通にしゃべっているのを見てびっくり。
はじめて声を聞いた。
中学まで持ち上がりの事情を知っているメンバーで
過ごしているうちは何とかなっていたようです。
今はどうしているのかな。

「醜形恐怖」
思春期の男女は気持ちがわかるのではないかな。
女子は前髪や姫カットで顔の一部を隠したり。

「相貌失認」
ちょっとその気があるダンナは洋画が苦手。
「ロードオブザリング」のアラゴルンとボロミアが
見分けられないタイプ。
吹き替えだと声音の違いでまだ区別がつくらしい。

この作品にはでてこないけれど
「難読症(ディスレクシア)」という障害があります。
「知的能力及び一般的な理解能力などに
特に異常がないにもかかわらず
文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害である」

43歳ではじめて障害であることを知った方の
ドキュメントをテレビで見ました。
読み書きができないのは努力が足りないのだという
世間の常識に責められ、自分を責め、
とてもつらかったそうです。
でも、それは自分ではどうすることもできない障がいだった。
自分は怠けていたわけでもバカだったのでもない。
初めて知った真実に、
“これまで自分を責め続けてきた時間を返してほしい"
と誰にもぶつけようのない怒りが込み上げたそうです。

知らない障がいがたくさんある。
本人の苦しみをどうにかすることはできないけれど、
せめて、周りの私たちが知識を増やして
無理解で苦しみを増幅させたりすることがないように
間接的だけどささやかな手助けができるといいなと思います。

トオリヌケ キンシ

トオリヌケ キンシ

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/14
  • メディア: 単行本
読めなくても、書けなくても、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き

読めなくても、書けなくても、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き

  • 作者: 井上 智
  • 出版社/メーカー: ぶどう社
  • 発売日: 2012/01
  • メディア: 単行本





 


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