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『太宰治の辞書』 北村薫 [読書]

「円紫さんと私シリーズ」
大好きでした。
久しぶりの再会が嬉しいです。

「北村薫のデビュー作品集『空飛ぶ馬』から始まる
『夜の蝉』『秋の花』『六の宮の姫君』『朝霧』の五冊が
「私」を主人公とするシリーズとして刊行されています。
『太宰治の辞書』は17年ぶりの最新作です。」

時を重ねて変わらぬ本への想い……
《私》は作家の創作の謎を探り行く――。

今回は「日常の謎」ではなく「本の内容に関する謎」
『六の宮の姫君』のような文学推理ものです。
読んだことのある作品が題材だったのでおもしろかった。

「ピエール・ロチから始まり、芥川の『舞踏会』、
そして三島、さらに太宰の『女生徒』へと進んだ、
書物探索の旅」

三篇からなる短編集。

『花火』
芥川龍之介「舞踏会」
読んだことがある。わりと最近。
でも芥川の本を手に取った覚えはない。
「?」
ちょっとした個人的な謎。
そうだ、息子たちの国語の教科書だわ。
・・・すぐに解ける謎でした・・・

「我々の生(ヴィ)のような花火の事を」

強く印象に残っている文章です。

当時、読み終えてちょっとびっくりした。
だってこれは私が10代の頃に読んでいた「LaLa」に
流麗なタッチで描かれた短編として掲載されても
おかしくない雰囲気。
(たとえば森川久美とか)

「芥川は本質的に≪抒情家≫」という江藤淳の
指摘がこの本に取り上げられていましたが、
≪抒情≫という言葉が
読後に感じた印象そのものでした。

「芥川の本質は理知ではなく抒情であり、
体験の率直な告白によっては
真実を語り得ない作家だった」

こう書いた江藤淳が最も愛する芥川の作品がとして
あげていたのが「舞踏会」だそうです。

ラスト、老婦人の言葉によって
「生(ヴィ)のような花火」がきらめく。
鮮やかな幕切れです。

「女生徒」
太宰治の「女生徒」
こちらも読んだことがあります。
リズミカルで小気味よい文章に
陰鬱な太宰のイメージ(私が勝手に抱いていた)が
覆されてびっくりでした。
10代女子の気持ちがなんでわかるの?
作家ってすごいと思った記憶がある。

しかしそれが「未知の女性の読者から送られてきた
日記に基づいて執筆したものである」とは・・・
おもしろいですね。

『太宰は女生徒の仮面を借りることによって、
何の遠慮もなく、じたばたしている』

「太宰治の辞書」
ここでやっと円紫さんが出てきます。
お元気そうでよかった。
太宰の女生徒における「ロココ」の定義の
出所について本の旅は続きます。

主人公の「私」は結婚し、中学生の一人息子がいる。
好きな仕事を続け
地に足の着いた生活を送っていると、
挟み込まれる日常の描写から
うかがい知ることができる。

女学生の頃から知っているお嬢さんが
きちんと暮らしていることがわかったようで
なんだかとても嬉しいです。




太宰治の辞書

太宰治の辞書

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/31
  • メディア: 単行本



タグ:北村薫
コメント(1) 

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miyuco

うわぁ~松matsu先生、お久しぶりです!

by miyuco (2015-10-22 21:12)