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『銀の実を食べた』 大島弓子 [大島弓子]

東京のイチョウも色づいてきましたね。

『銀の実を食べた』
1974年別冊少女コミック11月号掲載
大好きでした。

大島弓子さんのエッセンスがつまっています。
ふわっと回想にはいるところなど大好きです。
晴れやかで無邪気な笑顔のウエディングドレス姿の少女。
(「全て緑になる日まで」のトリステスみたいですね)
回想から願いのこもった未来のイメージまで
自由自在にかろやかに時空を超えていく。

「わたしこの人の作品が大好きなの」
と熱く語るクラスメイトを横目に
「わたしのほうがもっと好きだしもっとわかってる」
と心の中で猛烈に反発していた中学生のわたし。
・・・だめなヲタのはしりですわね・・・

当時は普通の女の子が普通に大島作品を読んでいて
ハイブロウだなんて思ってもいなかった。
ただただ好きだった。 

そんな風に感じていた女の子たちが大勢いて
そのなかのひとりであっただろう方から
『Liberte (リベルテ/自由 ) ローズティーセレモニー』
に嬉しいコメントをいただきました。
それに背中を押されるように
久しぶりに大好きな大島作品について書いてみました。

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高校一年の遠野秀野は
銀杏の木の下にいる女の子を
登校途中で見かける。

そうだ尾花沢笑だ
びっくりした
妖精か
動物のたぐいかと思った
黄色木立に
うずくまり一心に

銀杏集めて
遊んでるんだ

あんなににおう実の外側を
いかにも楽しげに
噴水の水で
洗っておとしては
ビニールの袋にしまい

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彼女は拾った銀杏を大通りで売っている。

尾花沢笑(おばなざわ・えみ)が授業中に倒れた。
気を失うように眠ってしまったため。

「ぼくは妙な不安感におそわれた
このまま逝ってしまうのではないだろうか
やみの中に
母のように」

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幼いころに病で母を亡くした秀野は
倒れた笑に早逝した母を重ね合わせ
心配のあまり、そっと家までついてゆく。

笑の母には見覚えがあった。
金貸しを生業とする秀野の父に
借金の取り立て期限を延ばしてもらえないかと
懇願していた女性だった。

「お願いです
没収はもう少し待ってください
わたしが働いてお返しできるまで---」

「父さんは表情をかえずとりあわなかった」

ここ二年ほど父は容赦なく
厳しい取り立てを続けている。
秀野はそんな父に激しく反発していた。

睡眠不足の原因は厳しい家計を助けるための夜間バイト

-笑は一種ほほえみに見えるように口を結び
リンリンと薄暗いビルの中で
モップをふるい始めるのだった

「ぼくになにができる」
秀野は一計を案じます。
笑が結婚の約束をかわした相手ならば
借用書は破棄してくれるのではないか。
秀野は偽りの理由で笑を自宅に招き、
父に紹介します。

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秀野のたくらみは失敗に終わり
事態は思いも寄らない方向に。

「わたし けして不幸じゃなくてよ」

笑は新しい生活を始めようとしています。
秀野は別れ際にとてもすてきな
プレゼントを受け取ります。

「わたし あなたが 家をとりたてる人の
子どもだって 知ってたの」
「だって昔から」
「だって わたし あなたが 
大好きだったんだもの!!」

「もしも あなたが わたしを 好きになって
お嫁にほしくなったら
あたし いつでもゆくわよ
あなたが どんな時だって」 

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余韻が残るラストシーン


前を向き、成すべきことを知っている女の子。
それでも・・・

今も 
わたしが
のぞむのは


読みたい本
知りたい歴史事
新しい単語
未知なる関数


休み時間
昼食
教室にひびく
ろーどくの声

あたりまえのように過ごしていた日々が
どれほど尊いものなのか、愛おしいものなのか。
ありきたりにみえる日々へのやさしいまなざしは
大島さんの作品にくりかえし出てきます。

当時中学生だった私には分かり難い感覚でしたが
後に読み返すと痛切に心に残ります。

1977年発行の小学館文庫『銀の実を食べた』に
萩尾望都さんが書いた「エミコ風」というあとがきが
とてもすてきです。
以下、一部抜粋。

「大島さんの画面は精神的な奥行きがあるのである。」

「くりかえしくりかえし遠い遠いところから、思い出はおしよせる。
そしてそれは、やさしいもの。
苦しみやにくしみに変わる思い出ではないのだ。
時がオブラートでつつむのだ。
思い出はあたたかく、思いだすつど悲しく、ゆらゆらと、のぼりたつ。」

「物語の中、思い出は常に明日へつながる。
それがかなえられるものであれ、そうできないものであれ、
人々はそれを噛んで生きている。
たとえばラストにいたって、一切の迷いからぬけ、
新しい人生の門出に立つような人ではなくて。
そんな人はいなくて。
「これからもこの人は生きていくんですよ」
「たくさんたくさんの思い出をだいて」
そうして、私にはその人たちのだいている思い出が悲しいのである。
日一日、日々は、その人の両肩につもってゆくのだ。
それが、大島さんの作品にはみえるので悲しいのである。」

「願いはいつもどこからかやってきて、
そのむねにいだかれる。」

同じ生業で同時代を生きてきた萩尾さんが
大島弓子さんについて語る言葉は
深くうなずけることばかりです。
萩尾さんは大島さんの最高の理解者であり
最強のファンですね。

そして萩尾さんのこの文章は
そのまま萩尾作品にもあてはまるように思います。

オマケ

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おおやちきのなつかしき手書き文字

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文月今日子さんもお手伝い
同時期の作品「トロイメライ」大好きでした。

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タグ:大島弓子
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コメント 2

sknys

miyucoさん、こんばんは。
門外漢の読み手としては正直分かり難いところもある少女マンガ。
「銀の実をたべた?」(1974)を再読したら、遠野秀野と尾花沢笑の未来を想像して、目頭が熱くなってしまった。
当時リアルタイムで読んでいた少女たちは大島作品の深度(萩尾望都は「精神的な奥行き」と書いている)をどこまで理解していたのかしら?

小学館文庫(1977)の解説「ユミコ風」はエッセイ集『一瞬と永遠と』(幻戯書房 2011)に収録されています。
福田里香のヲタク魂が爆発した『大島弓子にあこがれて』(ブックマン 2014)も必読にゃん^^;
by sknys (2015-11-25 23:32) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

『Don't think… feel』
当時の少女たちはそういう感じ?
(ブルース・リーとかヨーダの名言を引用^^)
うまく言語化できなくても感じとれている人が
大勢いたような気がします。

『大島弓子にあこがれて』の語り手たちには
共感するところが多くておもしろかった。
高校生の頃、友人と大島さんの作品について
あれこれしゃべっていたのを思いだします。


by miyuco (2015-11-28 21:37) 

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