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『わが心臓の痛み』 マイクル・コナリー [読書・海外]

おもしろかった。
事件の様相が途中から一変するという展開の見事なこと。
とてつもない邪悪さに慄然としました。
生きている限りそれと向き合わざるをえないなんて
痛ましいことです。

突然おとずれた若く美しい女性が調査を依頼する。
妹が殺害された事件を調べてほしい。
依頼されたのは元FBI捜査官・テリー・マッケイレブ
心臓移植を受け、今も体調が万全ではない。
しかし彼は調査を引き受けざるを得ない。
移植された心臓は殺害された女性のものだった。

「あなたはあの子の心臓を持っているんですから。
彼女が導いてくれるはずです。」

発生から二ヶ月以上たっている事件の調査記録を
外部の人間が手に入れるのは困難なこと。
しかし類似事件をピックアップしたところ
捜査している警察官は旧知の仲だったことがわかる。
すでに警察でもふたつの事件は関連づけられており
マッケイレブは両方の捜査資料を手に入れる。

「現場の捜査官としては、
マッケイレブは、せいぜいのところ並の腕だった。
だが、デスクワークの場合、
たいていの捜査官より優れていた。
送られてきた小包をひらき、
あらたな邪悪を追い求める狩りがはじまるたびに、
心の奥底でひそやかなスリルを覚えるのだった。
いま、事件の書類を読みはじめて
マッケイレブは、そのスリルを感じていた。」


FBIの麻薬関連発砲事件追跡プログラム(ドラッグファイア)
(指紋コンピュータ・サービスと同様の働きをする)
に照会することを提案した結果、
意外な犯罪に使用されたものと条痕データが一致。
事件は思わぬ方向に動いていく。

ライセンスを持たないマッケイレブの調査が
スムーズにいくはずがなく、
大きな事件とのつながりが見えた途端に
当局との軋轢も大きくなっていく。
追い打ちをかけるように周到な罠にはまり
抜き差しならない窮地に陥っていく。
しかし打った手がすべてムダだったわけではない。
真実はマッケイレブにも読者にもあらかじめ提示されていた。

矛盾した行動に気づき、犯人が特定された瞬間の
スリリングなこと!
読んでいる私もゾワッとする感覚を味わう。
ミステリーの醍醐味です。

犯人の「邪悪」さは予想を上回るものでした。
マッケイレブも読者も思いがけない展開に打ちのめされる。

以下、未読の方はご注意を

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タグ:コナリー
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『ロードサイド・クロス』 ジェフリー・ディーヴァー [読書・海外]

おもしろかった!
しかし…
テンポがあまりよろしくないように感じました。
捜査はなかなか進展せず
さらにキャサリン・ダンスの私生活が
たびたび挟み込まれるため
リズムにうまくのれなかった。

そうは言ってもダンスの家族とのやりとりや
ゲストを招いての食事の様子など
アメリカの家庭を描写した場面を読むのは
このシリーズの楽しみのひとつになっています。

どうしてもディーヴァーには期待しすぎてしまう…

dot_02.gif

嘘を見抜く達人キャサリン・ダンス。
「このミス」第5位に選ばれた『スリーピング・ドール』に続き、
彼女が予告殺人に挑む。
人を轢き殺したとして有名ブログで吊し上げられた少年を
バッシングした者が次々に命を狙われる。
ダンスは失踪した少年をリアル世界とネットの両面から追う! 

dot_02.gif

最初に狙われた17歳の少女は生還できた。
ダンスが尋問したところ何かを隠している様子。
押収したパソコンに手がかりがあるかもしれないのだが
水没してデータを確認できない。
そこでパソコンにくわしい人物に手助けを求める。
HDDの世界を探検するために登場したのが
ジョン・ボーリング教授。
キャサリン・ダンスのパートナー候補になりそうですね。

ダンスはインターネットに詳しくないので
教授がレクチャーしていきます。
読者である私にもアメリカの若者の
ネットとの関わり方がわかってきます。
わかったことは…
日本と状況は同じようなものだということ。

リートスピーク(leetspeak)
ここ何年かで十代の若者が作りあげた
新しい言語みたいなもの
キーボードで打った文章のなかでしか使われない。
アルファベットを数字や記号で置き換える。
「phr33k」→「freak」
「cool」→「kewl」
youtubeのコメント欄で見かけます。

どこの国の言語でも似たようなことやってるのね。
kwsk(詳しく)、「羨ましい」→「裏山」のような
インターネットスラングが該当するかな。


「個人情報をネットに公開しすぎなんですよ。
無防備すぎる。」
教授のこの言葉も共通することです。

しかしこの事件ではネットに公開した文章が
手がかりになりました。

ターゲットにされた少年はSNSには姿を見せない。
逆にそれが不気味な存在に見えたのかもしれない。

卑劣なる犯人。
動機もあきれるくらい利己的です。

以下、未読の方はご注意を



 

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『ブラック・リスト』 サラ・パレツキー [読書・海外]

アメリカのミステリー作家、サラ・パレツキーが
昨年9月、国際ペン東京大会のために来日。
「9・11後、自由が犠牲に」
という記事が朝日新聞に載りました。

「9・11以降、国家の安全という名のもとに
市民的自由が犠牲にされている」
と警告を発し、
新作『ミッドナイト・ララバイ』や
自伝的エッセー『沈黙の時代に書くということ』
(いずれも早川書房、山本やよい訳)でも
「社会的不正義には、沈黙ではなく発言を」
との思いを込めている。

V・I・ウォーショースキー(略してヴィク)シリーズを
始めて読みました。
1950年代前半の赤狩りをオーバーラップさせて
9.11テロ以後のアメリカの
不寛容な風潮を厳しく描いています。

たたみかけるような導入部はとてもおもしろい。
しかし、なかなか核心にたどりつかない。
中盤は読み進めるのがちょっと億劫でした。

2002年3月(9.11テロの翌年)のシカゴが舞台
アラブ系住民=テロリスト
という差別的な空気が広がり
イスラム教徒は冷たい視線にさらされる。
「愛国者法」の乱用がもたらす人権侵害の恐ろしさが
V・Iの身に起こったことを通して伝わってきます。

後味はよくないです。
少年はなぜあんな目に遭わなければならないのか。
考えの足りない夢見がちな金持ち少女にも腹が立つ。
魅力的な人物がもう少し出てきてくれたらよかったのに。
老いた貴婦人は物語の最後の方で好きになりました。
最初はなんて面倒な老婆だろうと思ってたけど。
91歳にして一矢報いたのだから
さぞやすっきりしたことでしょう。

旧家の大邸宅が並ぶ地区、ニュー・ソルウェイ
一年前から空き家になっているラーチモント館に
夜間、不審な人物が出入りしているので
調べてほしいという依頼をヴィクは引き受ける。
調査中の屋敷で少女に出会い、追いかけるうちに
ヴィクは体勢をくずして池に落ちる。
水草をつかんで身を支えようとしたが
あろうことか、それは人間の手だった…

池で死んでいた男は、マーカス・ウィットビー
若いアフリカ系アメリカ人ジャーナリスト。
1950年代の「赤狩り」のブラックリストに載っていた
黒人の美人ダンサーの記事を書いていた。

ヴィクが深夜のラーチモント館で出くわした少女は
ラーチモント館で何をしていたのか。
それが明らかになった時点で
この作品の主題がはっきりと姿をあらわす。

45年前の非米活動委員会の英雄の秘密と
ジャーナリストの殺人が
ひとつの糸によりあわされ真実にたどりつく
終盤の展開はとてもおもしろかった。

しかし真実が白日の下にさらされることはない。
苦い結末です。

以下、未読の方はご注意を

 

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『ザ・ポエット』 マイクル・コナリー [読書・海外]

『天使と罪の街』を読もうとしたら
先に二冊読んでからのほうがいいという情報あり。
『ザ・ポエット』『わが心臓の痛み』
ということでまず一冊読んでみました。

おもしろかった。
兄の死が自殺であることに疑問を感じる。
双子の片割れが感じる違和感は訴える力があります。
「われわれ兄弟がともに過ごしてきた時間が
その結果に到達させたのだ。」

謎の言葉が残された現場。
それが何かわかったときに物語は一気に動きはじめる。
スリリングでダイナミックな展開、わくわくします。

パートナーを組んでいた刑事の
相手に対する信頼の厚さにはグッときました。
彼らは相棒の自殺が偽装されたものだと見抜いていた。
幼なじみであり警察ではパートナーでもあった
“元気者”ジョンと“ラリー・レッグズ”
生涯の友であったふたりの絆が印象に残ります。

しかし、読み終わったときは不完全燃焼気味。
犯人の内面がよくわからないので唐突に感じた。
終盤のひねり方も少々強引なのでは…

デンヴァー市警察殺人課の刑事ショーン・マカヴォイが変死した。
自殺とされた兄の死に疑問を抱いた双子の弟で
新聞記者であるジャックは、最近全米各所で同様に
殺人課の刑事が変死していることをつきとめる。
FBIは謎の連続殺人犯を「詩人」(ザ・ポエット)と名付けた。
犯人は、現場にかならず文豪エドガー・アラン・ポオの
詩の一節を書き残していたからだ。
FBIに同行を許されたジャックは、
捜査官たちとともに正体不明の犯人を追う…。

「かつて兄が限界説のことを話してくれたことがある。
ショーンがいうには、殺人事件担当のあらゆる警官には
限界があるそうだ。だが、その限界は、
実際そこに達するまでわからない。」
「ショーンは、死体のことを話していた。
彼は、ひとりの警官が目にすることができる死体には
限りがある、と信じていた。
個々の人間ごとに、その数は異なっている。
早くに達する場合もある。
殺人課に二十年勤めていても、
けっして限界に達しない人間もいる。
だが、決まった数があるのだ。
そしてその数に達すると、それでおしまいだった。」

「もし、そうなったら、もし限界を超えてしまったら、
そう、トラブルに陥ってしまうのだ。
銃弾を飲みこむ結果になるかもしれない。
そうショーンはいった。」

4ページ目に出てくるこの文章は暗示的でした。

以下、未読の方はご注意を

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オリエント急行殺人事件 [読書・海外]

あまりにも有名なアガサ・クリスティの作品
先日、BSで映画を放送していました。
絢爛豪華な俳優陣。
ローレン・バコールが素晴らしかった!
ショーン・コネリーは007でした。まだ渋くない。
ジャクリーヌ・ビセット、きれい。
(今はジャクリー“ン”という表記で統一されてるの?
グーグル先生に指摘されちゃった)
1974年制作ですがその何年か後に
名画座で観た記憶があります。

原作を読んだとき、まだ中学生だったので
オリエント急行の雰囲気がいまひとつ掴めなかった。
想像力の及ばない部分を映画で補完できました。
車室はあんなにコンパクトなのね。
帽子箱の針金の山を重ねて黒焦げになった紙をはさみ、
アルコール・ランプの炎にかざすと文字が浮き上がる。
ああ、こういうことだったんだと納得。

でも、映画を観ていて疑問が…
登場人物たちがこんなにもペラペラと
例の“繋がり”をしゃべってたかな???

と思ったら原作を読みたくなった。
図書館に行く用事があったので借りてきました。
ううっ、おもしろい!
あの頃、クリスティに夢中になったのも当然です。

以下、未読の方はご注意を

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