SSブログ

『子宝船』きたきた捕物帖(二) 宮部みゆき [読書]

「きたきた捕物帖シリーズ」二冊目の「子宝船」
楽しみにしていました。
前作では謎めいた存在だった「若」が
いよいよ登場します。
「ぼんくらシリーズ」の彼にも久々にお会いできます。
見守られる立場だった彼が
成長した姿で出てくるのは嬉しい限りです。

lbl レンガ.gif



『きたきた捕物帖』の主人公は、名探偵ではなく、
市中で起こる大小のトラブル、もめごとを
解決するトラブル・シューター、
つまり何でも屋なんです。
タイトルの「きたきた」とは、二人の「きたさん」の意味で、
最初の「きた」は主人公の「北一」のこと。
次の「きた」は、第三話で登場する、
もう一人の「きたさん」こと喜多次で、
ゆくゆく北一の相棒になっていきます。
『きたきた捕物帖』は、若い子が
一人前になっていく話にもしたかったので、
北一は十六歳、喜多次もそんなに違わない年にしました。




lbl レンガ.gif


どこの馬の骨かわからない迷子で、
おつむりが切れるわけでもなく、
身体も自慢できるほど頑強ではなく、
若いのに髪が薄い。
いいとこなしの北一だが、
口だけは堅いのなんの、
釘も閂も要らない石の口だ。
千吉親分に、きっちり躾けられたからである。



北一は千吉親分に「きっちり躾けられた」
という矜持を決して忘れない。
亡き親分のおかみさん・松葉をはじめとして
まわりの大人たちが北一を助けるのは
北一の根っこの部分が見えているからなのでしょう。



続きを読む


タグ:宮部みゆき

共通テーマ:

『二百十番館にようこそ』 加納朋子 [読書]

立ち止まっていたニートたちが、
おっかなびっくり歩き出す前の「人生の夏休み」が
青い空と海のもとで始まります!


おもしろかった!
二と十でニートということだそうです。
二百十番館すなわちニートの館。
亡くなった伯父が残してくれた遺産とは
孤島に建てられた館。
実は研修センターとして使われていた建物。
人口わずか17人の小さな離島。
親は自宅を売却して消息不明。
退路は断たれた。
しかし働くという選択肢はない。
金銭面をどうクリアするか。
自分と似た者同士のニートだったら
一緒に暮らせるかもしれないと考え
入居者募集をかける。
やってきたのは訳ありの人たち。



029 点線青.gif


加納朋子さんからのメッセージ
「読み終えた後、「ああ面白かったな」と
思ってもらいたいなと、
そして主人公たちが
「駄目なりにもよく頑張ったね」と
言ってもらえればと思いました。
現実はままならないことばかりですから、
せめて物語ぐらいはと、
全方向に大団円のめでたしめでたし、を目指しました。
 著者が語る より引用

029 点線青.gif


めでたしめでたしの話は大好きです。

ネトゲ廃人の自宅警備員、
要するに無職のニート
ハンドルネーム「刹那」は
親に捨てられた。


親としては捨てたというより
強制的に居場所を変えてあげたのかな。
現実ではこんなにうまくいかないと
わかっているからこそ
がんばって自分の世界を変えようとする人が
報われる物語が愛おしいです。


この本を読んだ知り合いは
ゲームに無縁の人なので
オンラインゲーム「ES」の説明で
挫折しそうだったと言ってました。

う~ん、理解するのはたいへんかもしれないけど
理解してもらうとこの物語のやさしさが
より一層胸にしみると思います。

七色の花弁を持つ魔法の花畑に佇む
<聖職者>のアバターがせつない。


二百十番館にようこそ

二百十番館にようこそ

  • 作者: 朋子, 加納
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: 単行本







我が家の次男が
コロナでの自粛期間を乗り越えられたのは
オンラインゲームのおかげです。
新幹線の距離に異動になった彼は
リアルの友人たちと会えなくなったけれど
ゲームを共に戦いながらのおしゃべりで
息詰まるような日々から救われたみたい。

幼稚園の長期休暇に外に出られない子どもたちが
「あつまれどうぶつの森」で待ち合わせして
一緒に遊んでいると聞いたことがあります。


ご近所の息子さんも学生時代には
それほどゲームに興味のないタイプだったのに
社会人になってからゲームで集まって
友人たちとわいわいやるのが楽しくなったそうです。


自粛生活にインターネットがあってよかったと
思った次第でございます。


わたしは「トロとパズル」をがんばってます。
ダンナさんはなぜか「ポケモンGO」を始めたみたい。
スマホをチラッと見ると
フィールドマップが表示されているか
あるいは捕獲中。

そしてこんな画像を送ってくる。
室内でわんこと共存するリザードン^^



image0 (1).jpeg


image1.jpeg


d0052997_14542443.gif

タグ:加納朋子

共通テーマ:

『きたきた捕物帖』宮部みゆき [読書]

宮部さんの新たなシリーズの幕開けです。
おもしろかった。

16歳男子が主人公なので
堅苦しい言葉遣いが少なく
現代風の言い回しも多く
読みやすいです。

「桜ほうさら」の物語と
地続きになっています。
富勘長屋の「笙さん」が住んでいた部屋に
北一は住むことになりました。

しょっぱなからフグ毒にあたって
あの世にいってしまった親分が
いい男で女たらしで弁が立つという
なんともかっこいい男だったそうで
折に触れ話の中にでてくる姿も魅力的です。
千吉親分の話、もっと読みたいです。

魅力的な親分の連れ合いが
いい女なのは当たり前。
盲目ながらも
それを逆手に取ったような勘の良さと
深い知性で北一を助けるおかみさん。
朱房の十手を手にできるのはおかみさんだけ。

「亡き千吉親分の名代である寡婦の松葉が、
親分の十手を掲げて聞き取った白状だ。」


北一は周りの人に恵まれていますね。

029 点線青.gif

まだ下っ端の見習い岡っ引きの北一(16歳)は、
亡くなった千吉親分の本業だった文庫売り
(本や小間物を入れる箱を売る商売)
で生計を立てている。
やがて自前の文庫をつくり、
売ることができる日を夢見て……。
北一が、相棒・喜多次と出逢い、
親分のおかみさんの協力を得て自立し、
事件や不思議な出来事を解き明かしていく、
優しさあふれる捕物帖。

029 点線青.gif

main.jpg


表紙の屋根に乗っている男性が
なかなか登場しなかったのですが
もうひとりの「きたさん」だったのですね。


喜多次の素性は謎めいています。
欅屋敷の主も訳ありな感じです。

続きが気になります。
楽しみが増えてうれしいです!

d0052997_14542443.gif


きたきた捕物帖

きたきた捕物帖

  • 作者: 宮部みゆき
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: 単行本

タグ:宮部みゆき

共通テーマ:

『さよならの儀式』 宮部みゆき [読書]

この短編集を読んであらためて
宮部さんはスティーブン・キングの大ファンであり
多大な影響を受けているということを
思い出しました。
近頃では社会派小説や時代小説作家として
名を馳せているのでモダンホラーの帝王との
関連性を忘れてました。

語り言葉も登場人物も優しい
「海神の裔」が好きです。
「さよならの儀式」も印象に残りました。

「母の法律」
高みから正義をふりかざす人たち。
SNS界隈でよく見かけます。
「聖痕」
勝手に望んだ物語を押し付け
願望をかなえるために生贄にする。
おぞましい話です。

以下、つらつらと感想など

続きを読む


タグ:宮部みゆき

共通テーマ:

『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』 宮部みゆき [読書]

三島屋変調百物語シリーズ六作目。

おちかはめでたく嫁にいきました。
ということで聞き手は
伊兵衛の次男・富次郎にバトンタッチ。

語り手の周旋を頼んでいるのは
灯庵という口入屋の老人。「蝦蟇仙人」

「あんたさんは面白がっとる」
「面白がってはいけませんか」
「他人の話を聞くことを軽く見とる」
「では、軽く見ないように用心しましょう」

蝦蟇仙人は不機嫌ですが
小旦那・富次郎は聞き手を引き継ぎます。
変わり百物語の評判はますます高まっている。
語り手は列を作って待っている。
おちかが聞き手ではなくなって寂しいけれど
話を聞いて胸を痛めることはもうないのだと思うと
よかったと安堵する気持ちになったりします。
若おかみのおちかは幸せそうですね。

怪異と不思議を語りにやってくる江戸の人々
「祟り」「呪い」「凶運がふりかかる」
駆け出しの聞き手・富次郎はうろたえ冷や汗をかく。
肝が据わっているとは言い難い動揺する姿が
なんだか新鮮です。

「ーーーまったく、おちかは大したものだった。」
「実にあの娘は立派だった。」
しかし、素手ではおちかにかなわぬ富次郎には、
絵を描くという技がある。

富次郎がんばれと応援したくなります。


029 点線青.gif


江戸で人気の袋物屋・三島屋の〈変わり百物語〉
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」をルールに
黒白の間と名付けられた座敷を訪れた客が、
聞き手だけに胸にしまってきた怖い話や
不思議な話を語っていく連作短編集。

029 点線青.gif


「泣きぼくろ」
再会した友が語り始める一家離散の恐ろしい運命
「姑の墓」
村の女たちが<絶景の丘>に登ってはならない理由
「同行二人」
妻子を失った走り飛脚が道中めぐりあう怪異
「黒武御神火御殿」
異形の屋敷に迷い込んだ者たちを待つ運命

「泣きぼくろ」と「姑の墓」は震えあがりました。
恐ろしい話。

「同行二人」
のっぺらぼうの寛吉はカオナシみたいですね。
救い救われた話。

image1.jpeg

「黒武御神火御殿」
屋敷の主の悪しき魂の器。
怨念のつくりあげた幻の屋敷に
囚われた罪深き六人。
脱出までの過酷な試練に読むのが辛くなります。

忌まわしきクローズドサークルを生き延びたのは
リーダーシップをとる気高き武士の金右衛門と
気丈で聡明なお秋の力のおかげです

「どこの誰とも知らないあさっての人に、
勝手に裁かれちゃたまりません」

残り人数のカウントダウンに追い詰められて
疑心暗鬼からの悲惨な成り行きになっても
おかしくなかったのに。
踏みとどまりました。



博打ぐるいの甚三郎の言い訳。
自分勝手な理論を微に入り細に入り語らせる。
宮部さんは道を外した者の胸の内を描くのが
本当にうまいです。

「俺があいつと同じだから、
あいつは俺の前に現れるんです」
己を神だと思うほどに、愚かで傲慢だから。

お秋と甚三郎は最後までお互いを思いやる。
「聞き捨て」にしてもらって
さぞや肩の荷が下りたことでしょう。


d0052997_14542443.gif


image0.jpeg


黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2019/12/07
  • メディア: 単行本

タグ:宮部みゆき

共通テーマ: