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『ツナグ 想い人の心得』 辻村深月 [読書]

「ツナグ」の続編。
一生に一度だけの死者との再会を叶える使者「ツナグ」。
長年に亘って務めを果たした最愛の祖母から
歩美は使者としての役目を引き継いだ。
7年経ち、会社員として働きながら依頼を受ける彼の元に、
亡き人との面会を望む人々が訪れる。


<プロポーズの心得>
前作ツナグのあの子はどうなってしまうんだろうと
ずっと心に残ってた。
彼女が背負っているものが
少しだけ軽くなったかなと思うと
この最初の短編を読んだだけで胸がいっぱい。

ツンデレ少女が出てきた時は
歩美くんはどうしちゃったのと心配しました。
TV好きの子生意気な杏奈ちゃんは
歩美のいい相棒(?)ですね。


親しい人の悩み苦しむ姿を前にして
歩美はツナグの力で死者と再会できたら
何らかの答えが出るのではないかと考える。
彼女の力になりたいと。
しかし彼女は悩み苦しみながらも
自分で進みべき道を模索する。

ツナグにたどり着かなくても
苦悩の果てに答えを出す人たちがいる。
改めてそれが描かれているところが
とても好きです。

表題作<想い人の心得>
お嬢さまの喜ぶ顔を見ることができてよかった。
華やかな景色がパッと広がって
この本の余韻をあざやかに彩ります。




ツナグ 想い人の心得

ツナグ 想い人の心得

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: 単行本


タグ:辻村深月

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「鹿の王 水底の橋」 上橋菜穂子  [読書]

「鹿の王」に登場した天才医術師・ホッサル。
ホッサルとその恋人・ミラルは
清心教医術の成立ちを知ることで
自らの進むべき道を明確に見据える。

そして人の命を道具にする政治的かけひきに翻弄される。

魂を救うことと命を救うこと。
どちらもおろそかにするべきではない。


もつれた糸をほどいたミラルのように
人に寄り添い誠実であれたらと願うばかりです。


ダ・ヴィンチニュースの上橋菜穂子さんのインタビュー
https://ddnavi.com/interview/529265/a/

これを読むことで物語をより深く理解できました。




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オタワル医術に携わるホッサルとミラルは、
対立する清心教医術の発祥地・安房那を訪れる。
出血病の治療法を探す中、
それぞれの医術の在り方が異なることを実感したホッサル。
やがてオタワル医術次期後継者として
王位継承争いに巻き込まれていき――。

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宗教と結びついた医療・清心教医術
「私共が救いたいと願っておりますのは、
魂でござりまする」
「穢れた身で長らえるより、
清らかな生を心安らかに全うできるよう、
私共祭司医は微力を尽くしているのでござりまする」
 (鹿の王上巻での王幡領祭司医長・呂那の言葉)

「病とは穢れ。穢れた身で長らえるより、
清らかな生を心安らかに全うできるよう、
神の教えに従って行われる清心教医術。
それは“病は人の手が届くところにある”と考え、
どんな術を使っても、治そう、
命を助けようとするオタワル医術とは考えを異にする。」

考えを異にするふたつの医術。
宗教と政治が絡み
オタワル医術は対立する勢力によって
異端と切り捨てられる恐れが拭いきれない。
生き残りをかけ、策士リミエッルは
今回も暗躍するわけであります。

対立の根本的解決はまだ難しいかもしれないけれど
ホッサルやミラル真那など
次世代を担う者の視野が広がったことで
少し風穴が開いたかもしれない。

希望の持てる終わり方でした。
まだまだ続編があるような気がします。

「身分違いの恋」
こちらは解決しそうですね。
よかった!
ホッサルとミラルにまたお会いしたいです。




鹿の王 水底の橋

鹿の王 水底の橋

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/03/27
  • メディア: 単行本

タグ:上橋菜穂子

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「本と鍵の季節」 米澤穂信 [読書]

宝探しの物語。

皮肉屋で大人びた松倉詩門と
頼まれごとの多い堀川次郎
開かずの金庫、テスト問題の窃盗、

亡くなった先輩が読んだ最後の本
ふたりは謎を解いていく

「その嘘の根底には
なにか真っ当なものがあると
信じている節がある」

松倉は堀川のことをこんな風にとらえています。

米澤穂信の作品に登場する斜に構えている人物は、
こんな風な考えを
自然に身にまとっているような気がします。
私が米澤作品を好きな理由はそこだと思っています。

どこか北村薫作品と相通じるような


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「松倉詩門は、ふだんは冷笑家然としている。
世の中を斜めに見ているというのではないけれど、
どこか、人の営みは誇り高くあり得るということを
信じていないようなところがある。」


「昔話を聞かせておくれよ」
松倉の宝探しを通して彼の内面を垣間見ることができます。
私も松倉にはただの図書委員でいて欲しいです。
堀川が望むように。

「僕は友を待っていた。」
友と言い切る堀川にグッときました。

詩門礼門兄弟の名前からの導きはお見事。




本と鍵の季節

本と鍵の季節

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 単行本

タグ:米澤穂信

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読書感想 [読書]

昨日がなければ明日もない

昨日がなければ明日もない

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: 単行本
昨日がなければ明日もない 宮部みゆき
大家さんの竹中夫人がいい味だしてます。
短編3作とも、物語が終わった後の先行きを想像すると
暗澹たる気持ちになります。
生涯復讐の手を止めることはないでしょう。
周りを巻き込んで目的を果たしても
何らかのしっぺ返しはあると思う。
そして表題作のかわいそうな女性はきっと逃れられない。
宮部さんは被害者面する人を描くのがうまいですね。


きのう何食べた?(15) (モーニング KC)

きのう何食べた?(15) (モーニング KC)

  • 作者: よしなが ふみ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/03/22
  • メディア: コミック
きのう何食べた?(15) よしながふみ
フツーのおかずを淡白なコメントを言いながらも
ぱくぱく食べちゃうジルベールが相変わらずかわいい。
シロさんのご両親とのエピソードはリアルですね。
親のプライドとか思考とかが
ちょっとめんどくさい所などよくわかります。


沈黙のパレード

沈黙のパレード

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/10/11
  • メディア: 単行本
沈黙のパレード 東野圭吾
おもしろかった!
湯川先生の洞察力が「献身」に違う結末をもたらしました。
先生が友人のために人の中に入っていくなんて、
丸くなりましたね。

愛なき世界 (単行本)

愛なき世界 (単行本)

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/09/07
  • メディア: 単行本
愛なき世界  三浦しをん
専門的な部分を読むのに難儀しました。
植物みたいに、脳も愛もない生き物になれれば、
一番面倒がなくて気楽なんだけど、と考える本村さん。
おおらかで優しい藤丸くん。
ふたりともまっすぐでとてもかわいいです。

下町ロケット ヤタガラス

下町ロケット ヤタガラス

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 単行本
下町ロケット ヤタガラス 池井戸潤
島津の能力を認めなかった奥沢への
痛烈なしっぺ返しが心地よいです。
誠実に戦う者を公平な目で評価する人は必ずいるのですね。

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 文庫
さよならの手口  若竹七海
不運な探偵はまたも満身創痍。
今回も胸くそ悪いです。
クールに対処できずに失態をしでかすが
それもまた葉村晶らしい振る舞いです。
長谷川探偵調査所が閉鎖されて残念。
でも白熊に期待。
うさぎの常夜灯まだ使ってるのね


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『かがみの孤城』 辻村深月 [読書]

2018年本屋大賞受賞作。
傑作との誉れ高い作品ですが
わたしは少し疑っていた。
「大人向け」にシフトチェンジして直木賞を獲った作家さんが
もう一度10代を描けるのか。

読み終えて杞憂だとわかりました。
パワーはそのままに
より優しくなって戻ってきたように感じます。
傑作です。

初期の頃の作品が大好きでした。
心揺れる10代の「少し不思議な物語」を
もう辻村さんは書いてくれないだろうと思っていた。
読むことはできないと思っていました。
再会できてほんとうに嬉しいです。



「何人もの読者の方に、この本は
『冷たい校舎の時は止まる』のアンサーだと思いました
と言われました」
・・・著者インタビューより

「大人の描き方が変わった」
「大人と子ども、両方に対してフェアであろうと思いました」


作者の誠実さは物語からきちんと伝わってきました。


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どこにも行けず部屋に閉じこもっていた“こころ”の目の前で、
ある日突然、鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先の世界には、
似た境遇の7人が集められていた。
9時から17時まで。
時間厳守のその城で、胸に秘めた願いを叶えるため、
7人は隠された鍵を探す―


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たとえば、夢見る時がある。
転入生がやってくる。
その子はなんでもできる、素敵な子。
クラスで一番、明るくて、優しくて、運動神経がよくて、
しかも、頭もよくて、みんなその子と友達になりたがる。

だけどその子は、たくさんいるクラスメートの中に
私がいることに気づいて、その顔にお日様みたいな眩しく、
優しい微笑みをふわーっと浮かべる。
私に近づき、「こころちゃん、ひさしぶり!」と挨拶をする。
周りの子がみんな息を呑む中、
「前から知ってるの。ね?」と私に目配せをする。
みんなの知らないところで、私たちは、もう、友達。
ーーー 中略 ---
だからもう、私は一人じゃない。

そんな奇跡が起きたらいいと、ずっと、願っている。

そんな奇跡が起きないことは、知っている。


冒頭の文章。
ここを読んだだけで胸がチクッとなる。
はるか昔10代だった頃の教室を思い出してしまう。
当時の私も願っていた。
そして奇跡が起きないこともこころと同じように知っていた。


しかし作者は奇跡を起こしてくれました。


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中学一年生の“安西こころ”は
4月だけしか学校に行っていない。

「教室で流れている時間から、こころは振り落とされたのだ。」

たちすくみ身動き取れないこころの前に
不思議な城とそこに集められた中学生たちが現れる。


中学生になったばかりのこころはまだ狭い世界にいる。
新しい出会いがあるはずだった学校という場所から
いきなり暴力的に遮断されてしまった。
作者はこころに鏡を通り抜けた先にある
城という場所を用意する。
城でのやりとりは現実世界のこころを後押しします。

終盤の怒涛の展開から
奇跡が起こるラストまで読む手が止まらなかった。


おだやかなエピローグ。
心のどこかに痕跡はかならず残っているはず。


誠実に寄り添ってくれる大人
同い年なのに別の視点を持っているクラスメイト
こころは出会えて幸運です。


どうか立ちすくんでいる子どもたちが
何らかの出会いで救われますようにと
祈らずにはいられません。


* * *


すべてが終わった後の思いがけない彼の言葉。
最後に救われたのはあの女の子だったのでしょう。

「善処する」



以下、つらつらと自分語りのようなことを

あの頃の私が感じていたことを
こんなに的確な言葉で、
何十年もたってから受け取ることができるなんて・・・




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