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『風味絶佳』 山田詠美 [読書]

風味絶佳

風味絶佳

  • 作者: 山田 詠美
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/05/15
  • メディア: 単行本

素敵な装幀です。題名もいいですね。
私は図書館で借りたので、
すでにキャラメルのパッケージが外された状態でした。
残念

日頃から、肉体の技術をなりわいにする人々に敬意を払って来た。
いつか私自身にも技術と呼べるものが身に付いたら、
その人たちを描いてみたいと思っていた。
今なら、大丈夫かもしれない、と感じて書き始めたのが、この小説集だ。
                        ― あとがきより

山田詠美の本は、過去、何度も挫折していたので、
最後まで読み通したのは初めてです。
うまいです。
短い文章が感情を情景を小気味よく切り取っていく。
昔は、ひとりよがりの感情の発露(私にはそう思えた)が
うっとうしかったけれど、
この作品では、それはあまり感じません。

恋愛至上主義とは縁のない、
というか、そこまでの気力がない私には
山田詠美の登場人物にはついていけない
と思っていたので手に取ることもなかったのですが
映画(シュガー&スパイス)の予告で
夏木マリ演じるグランマを観て、
読んでみる気になりました。

読んでみると今までの思いこみを心地よく裏切られました。
嬉しいです。

 

六つの物語。短編集です。
表題作の「風味絶佳」が一番好き。

孫にグランマと呼ぶことを強要する祖母・不二子は
真っ赤なカマロの助手席にはボーイフレンドを、
バッグには森永ミルクキャラメルを携え、
70歳の今も現役ぶりを発揮する――。

キャラメルを私の恋人と呼び、
恋人とは必需品にきまってるじゃないの
と言うグランマ、不二子。
ちなみに寝た男だけにボーイフレンドという
称号をあたえるもんだそうです。
彼女は福生の横田基地の側で
小さなカウンター・バー「Fuji」を営んでいる。
グランマ、いいですね
ただし、身内にいるとちょっとやっかいかも。

なんと素足にミュールを履いている。
つっかけではないところが、祖母らしく不気味だ。

「不気味だ」という表現が、
微妙な身内の感情を捉えていて見事だと思う。

良いじゃないか、アメリカかぶれ。
それは、祖母に染み込んだ結果だ。
自分に彼女が染み込んだように。
自分は、言ってみれば、グランマかぶれだ、と志郎は思う。

志郎は、グランマを侮辱して、彼女の必需品に殴られる。
オレの女に手を出すなとばかりに。
こんな男が側にいるなんて、かっこいいよ、グランマ。

彼女は、自分の内にのみ存在する
ネバーランドを大事に保っているだけなのだ。
そこには、かつて、好いて、好かれた人たちが住んでいる。
少しづつ修繕されながら、ちゃんと生きている。
だから彼女は、若い必需品を助手席に乗せ、
孫の女友達とガールズトークに興じることが出来る。

そんなグランマに匹敵するくらい好きだったのが
「春眠」の梅太郎。
章造の大学の同級生だった弥生は、
あろう事か、父の梅太郎と結婚してしまった。
「ずっと、ひとり身だったおとうちゃんと、
末長くぬくぬくして行こうと思っています」
思いを打ち明けることはなかったけれど、
章造は弥生のことが好きだった。
そんな章造の未練たらたらのストーリー。

父の梅太郎は火葬場で働く。
この短編集のなかで最も敬意を払われているのが、
この梅太郎だと思う。
「お互いのほにょう拾い合いていけど、
そげんこたあ、かなわん夢じゃけいのう」
いままで子どもたちが聞いたことのない郷里の言葉でこう言う。
すてきです。

「海の庭」
30年ぶりに再会して初恋をやり直す。
母と作並くんの二人に漂うものの正体を、知りたい気持ちを、
[私]は抑えることが出来ない。
娘の日向子の視点で描かれる物語。
直接的な言葉は何もないけれど、
日向子の作並さんへのせつない恋物語だと思う。
文章からその思いが匂い立つようです。

「夕餉」料理の上手い女って羨ましい。
「間食」主人公の鳶職仲間、得体の知れない寺内が印象に残る。
「アトリエ」不気味です。
これを純文学と評する方がいらっしゃるようですが
純文学は、私にはムリ。

私の父親はブルーカラー、
小さな町工場で旋盤を廻していた。
油の匂いがする作業着は身近なものでした。
オットも出会った頃は作業着と工具の「管財」部門の人だった。
似合っていたのに、何故か、今では経理の人…


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コメント 10

真紅

miyucoさん、こんにちは。
私も昔は山田詠美さん好きだったのですけど、『アニマルロジック』以来しばらくご無沙汰で、あまりに評判が良いので久々に読んだのが『風味絶佳』でした。
とても面白く読みました。なんか、毒気が抜けた感じ?で。
映画、夏木マリさんの「ババァ三部作」の完結編だそうですよ(夏木マリさん曰く)。
ではでは。。また来ますね。
by 真紅 (2006-09-05 19:59) 

miyuco

真紅さん、こんにちは。
たしかに毒気が抜けたように感じますよね。でも、山田詠美のことだから
このまま終わるわけないなんて思ってしまう(*≧v≦) 
「ババァ三部作」…考えちゃった^^;
まず『ピンポン』ですよね。あと一つ何だろうと悩んでしまった。
湯婆婆を思いつかなかった…
夏木マリはババァではない役柄でもスクリーンに登場してほしいです。
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-09-06 13:02) 

この作品、発表された当時から気になっていたのですが、私も山田詠美では挫折が多かったので、躊躇してました。
映画化されると聞いて、挑戦しようかな、と思っていたところです。
miyuco様の記事を読んで、読むことにしました。味わいがありそうです。
by (2006-09-08 09:13) 

miyuco

>灰色猫のミミさん
山田詠美の文章がこういった感じだとは全然知りませんでした。
うまいです。
でも、他の作品を読んでみるのはちょっと躊躇してしまう。
過去の挫折の苦さが染みついてしまって^^;
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-09-08 16:18) 

KANAchanMaMa

劇場予告編で 夏木マリさんを見て 興味を惹かれ、映画コラム等で
なんとなく内容を知っていた 『風味絶佳』の原作は、山田詠美さんの作品
だったんだ!それも短編の内の一作だったんですね。…と言いつつ、
詠美さんの作品は 読んだことがないのですが、彼女も 年齢を重ねて、
良い意味で 丸くなった…と いうことでしょうか。貴女の感想を 拝読するに…。
by KANAchanMaMa (2006-09-12 00:28) 

おきざりスゥ。

彼女との出会いはコミックス『シュガーバー』か、『ドール』という連載だったか、或いは『マンガ奇想天外』掲載の短編『キリオンスレイ』だったか?
まだ山田双葉の本名で漫画家でした。
その頃から(真紅サン同様)『アニマルロジック』あたりまでは熱心な読者でしたが…面白そうですね『風味絶佳』

同年齢の価値観しか知らず成長期を過ごすのは不幸な事。
やはり映画化された(映画は未見)『僕は勉強ができない』もそうですが、青年前期の主人公の傍にいる年長者が魅力的に描かれているのはステキ。
不二子もそうなのでしょうが、演じる夏木マリ、彼女らのような先達のあることは、後からゆく者にとって大いなる励みです…たとえ、あまりにも彼我の差は大きいとしても。
       毎晩2時間かけて体のメンテナンスなんて、とてもトテモ(ノ_-。) 
by おきざりスゥ。 (2006-09-12 10:20) 

miyuco

>KANAchanMaMaさん
予告での夏木マリが若い主人公達より印象に残ってしまいました。
沢尻エリカちゃんはかわいくて好きなんですが^^
by miyuco (2006-09-12 10:53) 

miyuco

>おきざりスゥ。さん
彼女がどんな漫画を書いていたのかちょっと気になります。
いままで彼女の小説を全く受け付けなかったので
今回読んでみて、自分の受け止め方も変わってきたのかなと
思ったりしました。彼女が丸くなっただけではなく。
夏木マリはかっこいいですよね☆
by miyuco (2006-09-12 10:59) 

おきざりスゥ。

ネットカフェからコメントです[送信]
夕べ名古屋では[テレビ]で映像化された作品を放映していました[映画]
柳楽優弥CM以外で初めて見ましたが…イイ[ラブハート]
最年少レッドカーペットは伊達ではない[!]
切ない[傷心ハート]を自然体で演じていて魅力的でした[ラブラブハート]
by おきざりスゥ。 (2008-02-10 18:41) 

miyuco

>おきざりスゥ。さん
…見るの忘れたorz
柳楽優弥くん、魅力的でしたか。
それではぜひ見なくては[映画]
by miyuco (2008-02-11 18:37) 

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