SSブログ

『逆ソクラテス』伊坂幸太郎 [読書]

気持ちよく読めました
伊坂幸太郎ワールド全開な短編集


どうしたら自分だからこそ書ける、少年たちの小説になるのか。
自分の中にいる夢想家とリアリスト、
そのどちらもがっかりしない物語を、ああだこうだと悩みながら考えた結果、
この五つの短編ができあがりました。
(あとがきより抜粋)


子どもたちは一生懸命に考える
しかし子どもゆえに、なかなか思い通りにはいかない。
まわりの大人に左右されがちだからこそ
そばにいる真っ当な大人の存在がうれしいです。

『逆ソクラテス』
「ソクラテスさんは、自分が完全じゃないと知ってたんだから。
久留米先生は、その反対だよ。逆」
何でも自分が正しいと思い込んで
駄目な子だといったん決めつけたら
省みることをしない担任の教師はやっかいです。
「僕はそうは思わない」
長い時間の後でその決めつけが間違っていたことが
明らかになり、読んでいてうれしくなります。
まっ、こういう人は反省なんかしないと私は思うけど。

「伊坂幸太郎さんの中にいる夢想家とリアリスト」が
ひしめきあって出来上がった作品だという事が
よくわかります。

テレビの向こうとこちら側。 
こちら側の人間は胸の奥の記憶にアクセスする。
向こう側の人間は変わらずそこに居つづける。
ゆるやかなつながりが、心にあかりを灯す
短編集の始まりと終わりの場面が重なり合うような感じで
伊坂幸太郎の本によく仕掛けられているこういう感覚
好きだなと改めて思いました。

『逆ワシントン』
「地味でもいいじゃないの。
やっぱり最終的には、真面目で約束を守る人間が勝つんだよ」

そうあってほしい

『アンスポーツマンライク』
「自分で望んだわけでもないのに、迷路にはまりこんで、
息苦しさと不安でそこから逃げ出したかったのかもしれない」
ラストでリスタートの権利を与えられた男が
真面目を認められて仕事で成果を出す(『逆ワシントン』)
という「夢想家」が書いた物語がわたしは好きです。

久しぶりに伊坂幸太郎を読んだのは
隣家の20代女子が絶賛していたから。
『スロウではない』がおすすめだそうです。
いじめっ子といじめられっ子
やり直そうとしたけれどうまくいったのだろうか?
一枚の写真で結果は明らかでした。
「ドン・コルレオーネ、いじめっ子は許されるんでしょうか」
「敵を憎むな。判断が鈍る」

『非オプティマス』
読んでいるわたしも服装と家庭環境の情報から
福生のことをかわいそうな子と決めつけていた。
ラストで鮮やかにひっくり返されて気持ちよかったです。



d0052997_14542443.gif


逆ソクラテス (集英社文庫)

逆ソクラテス (集英社文庫)

  • 作者: 伊坂幸太郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/06/20
  • メディア: Kindle版

余談

冒頭でテレビの野球中継を見ていた人物
私は安斎だと思っています。
(作者の思惑ははっきりしないけど)
しかし諸説あることを後から知ってびっくり

久留米先生はないんじゃないかな
あのタイプの教師はお気に入りではない生徒には
まったく興味ないし細かいやりとりなんか覚えてないと思う

タグ:伊坂幸太郎

共通テーマ: