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『海の底』 有川浩 [読書]

「それにしても何で毎回怪獣にベタな青春だの
恋愛だの混ぜんのよ、と思われる向きもあるかと思いますが
私にこれ書くなってのは息するなってのと
一緒なのですいません。」 …あとがきより

ということで、そういうお話です。
有川浩の芸風作風にはだいぶ慣れた。
とにかく一気に読む。
おもしろいです。

横須賀に巨大甲殻類来襲。海の底から来た『奴ら』
ザリガニをそのままメートル級に
引き延ばしたような赤い甲虫の大群。
市民の救助に奔走し、横須賀を守ろうとする機動隊の動きと
潜水艦『きりしお』に逃げ込んだ少年少女+彼らを保護する
自衛官ふたりの物語が交互に語られる。

今回怪獣(?)と戦うのは警察。
機動隊で想定されている警備対象は人間と災害だけ。
未知の巨大生物などは想定外。
警察の対処能力を超えている。
それでも手をこまねいているわけにはいかない。

「ウルトラ警備隊ですね、我々は」
全体警備を把握しているのは、
県警の問題児筆頭の明石警部。
そこに派遣されたのは、
烏丸俊哉警視正を団長とする派遣幕僚団。
明石と烏丸、問題児が揃ったわけです。

そして巨大エビに閉じこめられている潜水艦にも
不良実習幹部、問題児の二人がいる。
夏木大和(なつきやまと)三尉と冬原春臣三尉。
優男風の外見で愛想のいい冬原と、
基本的に顔立ちが無愛想に見える夏木。
『図書館戦争』の堂上と小牧のようなペア。

13人の子供たち。
一番年上なのは森生望(モリオノゾミ)高校三年生女子。
後の12人は小1から中3までの男子。
子供たちは町内会のイベントで米軍の桜祭りにやってきたところ、
この事態に遭遇。全員顔見知り。
で、普段の人間関係の軋轢が狭い空間で爆発するわけです。

中3男子の遠藤圭介がとてつもなく憎たらしく描かれています。
この年頃特有のむかつく男子に矯正をかけなければ
閉ざされた場所での治安は保たれない。

わがままな男子は規律優先の自衛官にガンとあたって砕け散る。
砕けたあとのこいつは言葉ではなく
行動できっちりと落とし前をつけます。
格好良かったよ、ボロボロになってしまったけど、
裸の王様よりいいよね。
作者のまなざしは温かい。

料理上手な吉田茂久、
クールに見えていたけれど、
じつはオタクだった木下玲一。
メンバーには魅力的なメンツもいます。

唯一の女子が恋心を抱くのは、
優男のほうではなく、強面の夏木くん。
こちらもストレートにぶつかって、砕け散った
…ように見えたのですが。

望と弟の翔(かける)のわだかまりが
消えていくエピソードがいいですね。
親は名前にいろいろな気持ちを込めている。
それを大事にしてくれる人がそばにいて、本当によかった。
それに気づく事ができてよかった。
夏木大和くん、良いヤツです。

巨大エビとの攻防。
米軍との兼ね合いがあって、
自衛隊出動に踏み切れない硬直した事態。
それを動かさなければ、横須賀は壊滅する。
ネットを使っての情報収集。
趣味でつながった情報網はすごいです。
(JR福知山線の脱線事故で、TV画面を見て1両目が見あたらないと
早い段階で気づいたのは鉄オタのみなさんのネット情報だったと思う)

ある意味おたくな深海生物学者・芹澤が
巨大ザリガニの正体を突き止め、
弱点を見つける。
「ゴジラを退治する新兵器を作った科学者の名前が
芹沢だったんですよ。験が良いでしょう」
…確かに明石さんの読みはあたったけど、すごい根拠。

自衛隊を引っ張り出すことができたのは、
機動隊の命懸けのパフォーマンス。
アタフタする官僚たちは相変わらず
どうしようもなく無能に描かれています。

巨大ザリガニは駆逐され、
最後には復興した横須賀が平和に描かれています。
事件から四年が過ぎ、
彼らはどんなふうに過ごしているのか、
素敵なラストです。

『クジラの彼』にスピンオフの
短編が収められているそうです。
夏木、冬原、望が登場する短編が楽しみ。
『空の中』のツンデレパイロット・光稀(かわいい)と
高巳の物語もとっても楽しみ。
(実はそのために『クジラの彼』を読みたくて、
でも『海の底』のスピンオフもあるなら
そちらを先に読んでおかねばという流れでした^^;)

それにしても、我が街の図書館は間違っている。
何で『クジラの彼』があって『海の底』がないの?
市外の図書館から調達してくれたので、
読むことはできたけど…

海の底

海の底

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 2005/06
  • メディア: 単行本


タグ:有川浩
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