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『三鬼 三島屋変調百物語四之続』 宮部みゆき [読書]

三島屋変調百物語
おちかが聞き手の変わり百物語の四冊目です。
おそろしい鬼が描かれた表紙に
身構えながら読みはじめましたが
『食客ひだる神』でホッと一息つきました。
夏場の休業の理由が愉快。
みっつ並んだ小豆の判じ物がいいですね。
そういう意味だったのね。

ほほえましい話もこわい話も
宮部さんは巧いです。

最後までありがたい守り神であった「ひだる神」
『おくらさま』では守り神のおそろしさに慄然とします。

『迷いの旅籠』
[石杖先生が優れた筆さばきで呼び出し、操ってみせたのは、
結局、生者の魂の方だったのかもしれない]
人々はこの世を去った者たちを取り戻したいと
狂おしいほどに願う。
しかし貫太郎の静かな覚悟の前にたじろぐ。

『三鬼』
藩の失政のはてに打ち捨てられた山奥の村。
「生吹山は人を許さない。
人は罪をおかすものだから。
洞ヶ森は秘事を抱いている。
そこには人の罪があるから。」
重苦しい物語の最後に少しの明るさがあります。
理不尽に痛めつけられた人が
不幸なままに生きていくことがなくてよかった。

『おくらさま』
黒白の間を訪れた謎めいた老女の
悲痛な叫びがまだ耳の底に残っている。
だからおちかは調べようと思った。
辿り着いたのは寝たきりの病人。
お梅は悲しみを吐き出し胸のつかえがおりたと言う。
そしておちかに語りかける。
あたしと同じになってはいけない。
「時を止め、悔恨に打ちひしがれ、
昔を恋うて懐かしむだけの老女に。」

時を止めてはいけない。
自分の心のなかに閉じこもってはいけない。

おちかは少しづづ変わっていきます。
怒ったり泣きじゃくったり。
心を動かすのを自分に禁じていたような
痛ましい姿はなりをひそめました。

別れはつらいです。
いかにも彼らしい身の処し方に
異を唱えることなどできないがゆえになおさら。

「一人が去り、一人が加わった。」
貸本屋の瓢箪古堂の若旦那・勘一
商売柄、顔が広くて地獄耳。
昼行灯の風情の食い道楽。
これからどんなふうに関わってくるのか
楽しみです。

北村さゆりさんの挿画がすてきです。

「驚いたことに、島田髷(しまだまげ)を結い
振袖を着ていた。どちらも若い娘の支度だ。」
「着物は大胆な縞柄(しまがら)で、
魔除けの意味もある可愛らしい<麻の葉>柄と
黒繻子(くろじゅす)の昼夜帯(ちゅうやおび)を合わせ、
花簪(はなかんざし)も華やかに美しい」

わたしなんぞでは容易に想像できない身形(みなり)ですが
この挿画を見ればよくわかります。

特設サイトからお借りしました → 

story-4.png

 029 点線青.gif

聞いて聞き捨て、語って語り捨て。
己の胸に秘めておくには辛い、不思議な話、
せつない話、こわい話、悲しい話を語りに、
<黒白の間>へやってきたお客が
あの世やあやかしの者を通して語り出したのは――
亡者、憑き神、家の守り神

第一話 迷いの旅籠
お化けを見たという百姓の娘
第二話 食客ひだる神
夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋
第三話 三鬼
山陰の小藩の元江戸家老
第四話 おくらさま
心の時を十四歳で止めた老婆

三鬼 三島屋変調百物語四之続

三鬼 三島屋変調百物語四之続

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2016/12/10
  • メディア: 単行本



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