魔王 伊坂幸太郎 [読書]
うーん、私は伊坂幸太郎とは合わないのかもしれない。
「自分の読んだことのない小説が読みたい。そんな気持ちで書きました」・・・著者コメント
世の中の流れに立ち向かおうとした、兄弟の物語。
超能力者がファシズム政治と戦う物語です。
「自分のそれまでの小説で好意的に受け止められた部分を、ほとんど削って書いてみようと思ってもいました。たとえば、「伏線を生かした結末」であるとか、「意外性」であるとか、「爽快感」であるとか、そういう部分を削ぎ落として、そうしたら、読者はどう思うのだろう、と考えたのです。」
講談社BOOK倶楽部より
確かに削ぎ落とされていますね。
著者の思惑はわかりますが、それを外して書いてしまって、
結果おもしろい作品になりうるのでしょうか。
そういった仕掛けがあるからこそ小説を読む快楽が得られるのだと思うのですが。
気負わずに書いてほしかったです。以下、ネタばれがあります。
安藤は、自分が意図した通りに他人が言葉を発する【腹話術】の能力を
持っていることに気がつく。
カリスマ性を持つ政治家犬養をファシズムに導く者であると警戒する安藤は、自分の能力を使って、犬養が政治家としてスターダムにのし上がっていくのを阻止しようとする。
「俺だけが、魔王の存在に気づき、叫び、騒ぎ、おののいているにもかかわらず、周囲にいる誰もがそれに気づかない。」犬養が魅力的に描かれています。
危険だと感じながらも魅了されてしまう。
「人生を無駄にしたな」という言葉に「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決するんだ」
安藤は大きな流れを止めることはできませんでした。
兄が死んだ後の、弟の潤也と妻の詩織を中心に語られる「呼吸」
じゃんけんで負けない能力、十分の一の確率なら絶対に外さない能力を身につけた潤也。
その能力で大金を手に入れている。
「恐怖とかまわりの雰囲気に負けたくはない。」
「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、
立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」
「お金は力だろ」
憲法改正の国民投票が背景にあります。
潤也のやろうとしている事は何なんでしょうか。
「未来は晴朗なものなのか、荒廃なのか」
「上を見ればそこには、決して手の届かない空が広がっていて、
旋回するオオタカもかすかに確認できた。」
「呼吸」では、犬養もまた大きな力に流されてしまう。
犬養を守っていた何かが守るのをやめた。
「思い切ったことをやる決断力と、自信、それと、他人の恨みを買っても平然としてられる肝があるんじゃない?」「自分の利益や安全は度外視してる」
犬養はこんなふうに表現されています。
私はこの本のなかで政治家犬養がもっとも印象に残ります。
犬養と対峙する兄と弟がもう少し魅力的にくっきりと描かれていたらよかったのに。
犬養が暴漢に向かって放った言葉
「おまえは、日本の歴史をどこまで知ってる?日本のアジアでの位置づけを、世界との関わりを、俺よりも考えているのか?それならば意見を聞こう」「もし万が一、おまえの考えが、そこらのインターネットで得た知識や評論家の物言いの焼き増しだったら、俺は、おまえに幻滅する。おまえは、おまえが誰かのパクリではないことを証明しろ」
こういった文章を読むと伊坂幸太郎は本当に上手いと思います。
それなのに、ストーリー全体を読んで見ると、もっとおもしろくなる話なのに、
と欲求不満を感じてしまいます。
やっぱり私とは相性が悪いのかな…
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