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[節度ある 新しい人間らしさ] 大江健三郎 [雑記]

4/18朝日新聞朝刊の大江健三郎「定義集」を読みました。
大江健三郎の息子さんは知的な障害を持っています。
光さんは42歳。作曲家としてCDを何枚か出しています。
癒しの音楽。

印象に残る文章です。以下、長い引用です。

光さんの歩行訓練のためにふたりで歩いていた時のこと。
彼が石につまずいて転倒してしまいます。
てんかんの発作ではなく意識がはっきりしているので、
かえって気持ちを動転させています。
自分の失敗を責めてもいるようです。

そこに通りかかった壮年の婦人。
だいじょうぶ?と声をかけて彼の肩に手をあてる。
しかし光さんは見知らぬ人に身体をさわられることを嫌う。
大江氏は、しばらくほうって置いていただくよう強くいいます。
婦人は憤慨して立ち去ります。

その後、ある距離を置いて
こちらをじっと見ている高校生らしい少女に気が付く。
彼女はポケットからケイタイをのぞかせて、
しかしそれを出すというのじゃなく
ちょっと私に示すようにしただけで、注意深くこちらを見ています。
私にとどいたメッセージは、
自分はここであなたたちを見守っている、
救急車なり家族なりへの連絡が必要なら、
ケイタイで協力する、という呼びかけでした。
私らが歩き出すのを見ての、
微笑した会釈を忘れません。

フランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユの、
不幸な人間に対して注意深くあり、
どこかお苦しいのですか?と問いかける力を持つかどうかに、
人間らしい資質がかかっている

という言葉を大江氏は引用しています。
大江氏と同様に私もこの言葉に惹かれます。

こちらが受け入れられないほど
積極的な善意を示してくださった婦人も
ヴェイユの評価する 人間らしさの持ち主です。
むしろこういう時にも自分にこだわる
(そこからの解放をヴェイユは説くのでもあります)
私を変えねばなりません。

その上で、不幸な人間への好奇心だけ盛んな社会で、私はあの少女の注意深く
かつ節度もある振る舞いに、生活になじんだ新しい人間らしさを見出す気がします。
好奇心は誰にもありますが、注意深い目がそれを純化するのです。

少女のメッセージは大江氏に伝わりました。
けれども、実際には
それに気づかない人も多いのではないでしょうか。
婦人の行為のほうが
わかりやすく受け入れやすいのかもしれません。

若い人たちの間には、この少女のように、
そっと手を差し伸べるケースが多いように思います。
それにまわりの大人たちが気づかない。
気づかない大人たちは自分が気づかなかった事にも気づかずに
平気で若い人たちを非難する。
いい子もいれば、そうではない子もいる。
大人だっていい人もいればそうでない人もいる。
若者は未熟でもしかたない。
(もちろん当人に開き直られたら腹がたちますが)
まわりはもう少し寛容であってもいいのにと思います。

「今時の若者は」という若者批判はとてもカンタン。
だれにでもできるストレス解消。
自分たちには何も責任がないかのように言い放つ。
反論される危険のないところから責めていくんだよね。
でも、そんなに簡単に切り捨ててしまっていいの?
“若者”には育てた親がいるし、社会的環境を作ったのは
先に生まれた大人たちです。
彼らは自分ひとりで何にも影響されずにきたわけではありません。

自分の子供が大きくなるにつれて、
イマドキの若者というイメージって
何なんだろうって思うようになりました。
たしかに昔の気質とは変わっているだろうけれど、
良い方に変わっている部分だって確かにあるはずなのに。

「 日本の若者はおそらく世界一人を殺さない」
(世界保健機関(WHO)の統計)
少年による凶悪犯罪のピークは昭和35年だそうです。

当時の朝日新聞の記事はこんな文章で結ばれていました。
不登校・引きこもり・いじめなどの新たな問題もあるが、
殺人を頂点とする暴カ犯罪の激減は
今の若者たちの大きな長所である。

「ニート」って言うな!

「ニート」って言うな!

  • 作者: 本田 由紀, 内藤 朝雄, 後藤 和智
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/01/17
  • メディア: 新書

新・後藤和智事務所~若者報道から見た日本~

もう一度 大江光

もう一度 大江光

  • アーティスト: 大江光, 荻野千里, 小林美恵, 海老彰子, 和久井仁, 小泉浩
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2005/05/18
  • メディア: CD


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コメント 8

綺華

パチパチ、私も同じ事思いました。
今の子って、優しさも思いやりもあるんだけどその気持ちの
表わし方が分からない子が多いと思う。
それに、ニートだ引きこもりだと今の若者を労働意欲のない
出来損ないみたいに言う人もいるけど、働かないでも親が食べさせてる
現状とか、社会における心の問題とか表面的には一言では
言えない問題も多いです。

インターネットや携帯が思考能力を下げていると聞くとなんだか
責任逃れみたくて嫌悪の気持ちが強くなります。
ちょっと筋がずれてしまったかもしれないけど、大江さんの息子さんに
対する愛情はいろんなところで読んだり聞いたりするけど
見習わなきゃならないことが多いです。

話は変わりますが・・・
ベルばらKidsに投稿してみたら掲載されました(*^^)v
「わたしのまちのベルばらな人たち」と言う記事です。
http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/04/post_238c.html
by 綺華 (2006-04-21 13:08) 

スゥ。

動いているものは見えにくい。イチロー並の動体視力をもってしても。
あとになってから「今にして思えば」って事は多くあって、停止確定してるから、よく(良く?)見えて、だから評価は後世に委ねるしかない、いつだって。
もう洋の東西を問わず何千年も昔から人は「今時の若者は」って云ってて、「昔は良かった」って云ってる。
もしそれがホントウなら時代が下るごとに我々の世界は悪くなってて、末世思想を始め多くの宗教書には、そんなふうに書かれてたりするけど、それはアンマリ悲観的な見方というものでしょう。
独裁政治にすらイイ所はあって、民主主義が全て正しいわけでもなくて。
悪いところだけで出来上がってるものはないし、良いものだけで出来てるものもない、残念ながら。

望都サマの『城』を思い出します。「白い石だけじゃァお城は築けない」

どうしても石の色は白と黒と半々で、黒を白く塗っても剥げてきて、過去から未来まで、政治体制から個人の心理まで、それは動かせないのかもしれません。
でも、割合は同じでも、石全体の数は増えたかもしれない(より高く広い城を建てられるかもしれません)
昔とは石の質が違ったかもしれない(より強固な美しい城に出来るかもしれません)
デザインセンス自体が変わったかもしれない(城である事さえ止め石畳の広場になっているかもしれません)

近すぎて見えないものもある。
少し離れて見たらマンザラでもないかもしれません。
でも彼らの建設現場には、きっと看板が立っていましょう。
     「工事中につき御迷惑をおかけしております」
礼をした黄色いヘルメットの下がどんな表情なのか判りませんが…

>ayakaサン   投稿しようとしたらキーボードを打ってる間にコメントが!
 「わたしの町のベルばらな人たち」って!! (#≧▽≦#)ノ彡☆
それで不動産屋夫人は「オーホホホ」と笑ったのでしょうか?
ayakaサンは「きょう、は、駐車場、は、たいへんなひとですこと」って
おっしゃいましたか?じゃなくて!無事駐車場が借りられましたか(その店で?)

でもアレは、云われるより、ゼヒとも1度云ってみたい台詞ですね。
(この頁知りませんでした。あとでゆっくり読もうっと) 
by スゥ。 (2006-04-21 14:02) 

miyuco

>ayakaさん
たしかに無気力な子もキレやすい子もいると思うけど
昔だってある割合でそういうふうに見える子はいたと思う。
「キレる」という括る言葉がなかっただけだと思うのですが。
レッテルを貼りひとくくりにした途端に、簡単に批判できるような空気に
なってしまった気がして、なんだか納得できない。
だって、自分の子供の周りを見回しても千差万別ですよね。
大人の側の批判する力こそ衰えているんじゃないかと
そんなふうに省みることも必要だと思います。
最近嫌いな事はもうひとつ、子育て中のママを非難すること。
子育ては本当に難しいし必死のママも多いのに
つまんない小言を聞くとうんざりします。
あ~長くなっちゃったな^^;
nice!とコメントありがとうございます♪
「わたしのまちのベルばらな人たち」おもしろかった♥
by miyuco (2006-04-21 19:17) 

miyuco

>スゥ。さん
彼らは看板を立てることも思いつかないんじゃないかな。
未熟だし周りが見えないし。だからこそ私みたいな立場の人間がかわりにそれをやってあげたいと思ってしまいます。
もちろん、ヤツらを調子づかせるつもりは毛頭ございませんが(^^)v
スゥ。さんも「わたしのまちのベルばらな人たち」のネタがありそう。
投稿お待ちしております。(何気にプレッシャー★)
by miyuco (2006-04-21 19:25) 

綺華

ロザリーのように間違った不動産屋の影で、かのポリニャック夫人を
待ち伏せしていて『オスカル様』が現れてくれるなら・・復讐するんですけど(爆)
グッと抑えて、無事に駐車場は借りられました。
我が家では、うちの夫も同じ目にあったのでその不動産屋に行くときは
『ベルサイユに行ってきます』で通じます(;^_^A
ネタじゃないからね(笑)
by 綺華 (2006-04-21 20:28) 

スゥ。

>私みたいな立場の人間がかわりにそれをやってあげたい

そうですね、ほんとうに。すばらしいお考えだと思います。
結局親の役割は自分が死んでも子供が自力で生きていけるようにしてやることに尽きるでしょう。
他者に頼ることなく自分の力で食べていけるように、でも人は決してひとりでは生きていけないのだから支え合う仲間を持てるように。

大江健三郎氏は、そのことを確実に成し遂げた人で、光氏と彼を取り巻く状況を考えたら、それはノーベル文学賞を受けることよりも困難で大切なことだったように思われます。

>ヤツらを調子づかせるつもりは毛頭ございませんが

うふふ。そうこなくっちゃあ。転んでも自分で立つまで見守る、ですね。
でもコレがまた…手を貸す方が気が楽だったりしますからねー。

「わたしのまちのベルばらな人たち」…
野菜の切れ端の浮いてるだけのスープを見つめているワタクシ…?
仕事やめてから10㌔も太っちゃって q(T▽Tq)(pT▽T)p
なのにパンがきれてるとケーキ食べちゃったりするからなー (//∀//)ゞ

それにしてもayakaサン 旦那様とまでベルサイユで通じるとは!!
ひょっとしてホントにオスカル様に逢えちゃうかも?
by スゥ。 (2006-04-22 00:06) 

miyuco

>ayakaさん
ああ~また少年犯罪が…
高校一年生なんて、ウチの子たちと同い年。
こういうニュースは本当に心が痛みます。
15歳の加害者と13歳の被害者なんて…
by miyuco (2006-04-23 00:23) 

miyuco

>スゥ。さん
大江健三郎はノーベル賞よりも光さんの音楽が評価されたことのほうが
嬉しいくらいだと言ってましたね。
『静かな生活』などを読むと、光さんの妹さんの存在が印象に残ります。
大江氏がこの高校生のメッセージに気づいたのも、日々の生活の中で
お嬢さんの振る舞いを見ているからではないでしょうか。

…仕事をやめるとどんどん膨張しますよね(><。)。。
by miyuco (2006-04-23 00:33) 

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