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『一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--』佐藤多佳子 [読書]

青春スポーツ小説、いいですね。
森絵都の『DIVE!』を心から愛する。
そんな人は、間違いなくこの本を好きになる。
というわけで、私も大好き。
人が成長する物語は本当に気持ちいい。

主人公・神谷新二の一人称で語られる物語。
語り口がとても活き活きしている。

100m走ってのは、とにかく一番緊張する。
横一列に並ぶあのスタートね。ものすごい威圧感。
みんな、ギンギンのオーラ出してて、
俺が俺が俺が俺が、勝つ勝つ勝つ勝つって。
スタートでミスったら、まず終わりだし。
気の弱いヤツは、もうスタート前にエネルギー枯渇しちゃう。
俺は、だいたい「やべえ」と思いながら位置について、
「しまった」と思いながらスタートして、
「もうちょっと速いだろー」と後悔しながらゴールする。

この文章は、夕食の席でしゃべっているウチの高校生たちの
話し言葉そのまんま。
ビックリするほどおんなじ。
テンポがよくて弾むような活きのいい話し言葉。



新二の二つ違いの兄は天才的なセンスを持つサッカー選手。
両親ともマリノスサポーターというサッカー一家で育ち、
新二もサッカーを続けてきたが、
兄と同じチームでプレイするという夢は叶いそうにない。
自分の力がどの程度のものなのかわかってきた。
少し疲れて、リセットしたくなった。
一度、頭を真っ白にしてみたい。
そして家族の反対を押し切り、
サッカーとは無縁の公立高校に進学する。

そこには一ノ瀬連がいる。

一ノ瀬連は幼なじみ。中学では陸上部。
全国大会100m七位の記録を持つ。
新二いわく「辛抱のきかない男」「我慢という字が辞書にない男」
「走るの好き」と言いながら、部活のしがらみが面倒なのか、
陸上部に入ろうとはしない。
連の走りを目の当たりにした新二は連を走らせたいと思う。
「嘘だろ?走んなきゃ」
新二と連は春野台高校陸上部に入部する。
新二はスプリンターとしての一歩を踏み出していく。

サッカーを楽しむことができなくなってしまい、
なんだか縮こまっていたような新二。
球技が苦手で、下半身に強力なバネを持つ選手は、
スピード競技で大成する。
スプリントの王者になれるかもしれない。
顧問の三輪先生の言葉をお守りに、
スプリンターとしての才能を発揮していく。
サッカーでは得ることのできなかった自信を持てるようになる。
走ることに魅了され、もっと速くなりたいと願い、解放されていく。
「夢は?」と兄に聞かれて新二は「速くなる」と答える。

「アシメントリーのレイヤーっぽく切ってライト・オレンジを入れた髪」
の新二が
「チーム愛とか先輩への礼儀とか、
スポーツマン精神のイロハのイから説教しなきゃ」
と思うような性格の連。
陸上に関わる者はどうしても連をスター扱いしてしまう。
けれども幼なじみの新二はそうではない。
(天才には兄貴で慣れてるし)
連にとっては、そんな新二の存在はかけがいのないものです。
新二がいなければ連は陸上部に入らなかったし、
連の走りがなかったら
新二はスプリンターにならなかったかもしれない。
そんなふたりの関係がとてもよく描かれています。

根岸くんもいいヤツですね。
連に4継(ヨンケイ)を一緒に走ろうと言われて、走れると言われ
実際にリレーメンバーに選ばれる。
そして春高陸上部は「すげえチーム」になっていく。

続きが楽しみ!早く読みたいけど、
図書館の順番がずっと先なんですよね
直木賞の候補作になっています。

私自身はスポーツに縁がない人間なので、
息子たちの部活エピソードがおもしろい。
合同合宿では、食事を残さないように厳命されて、
偏食なヤツは連のように周りの協力を得て
どうにかクリアできたそうです。
みんなが先生の目を盗んでおかずをチェンジしていたらしい。

一番実力のある選手はインターハイなどの大きな試合の前でも
ゲームなんかして、平気な顔。
「試合前にビビってるヤツが勝てるはずない」と
ダブルスのペアを組む相手が緊張しているそばで言い放つ
いい性格の人間。
当然、2人の人間関係は破綻しているのに、
なぜか勝ち進んでしまう。
彼の家族は追っかけと化して、
合宿所のそばのペンションに宿泊したりしてました。
「ストーカーかよ」と言ってたけれど、
彼はそんな親に慣れちゃってるみたい。
おもしろいな。新二の家族や連みたいでしょ。

まったく縁のなかった世界だから、
こういう本を読むのが楽しいんだと思う。
ほんとうに楽しい

一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ--

一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--

  • 作者: 佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/08/26
  • メディア: 単行本

佐藤多佳子さんのブログがソネブロにあるんですね。
http://blog.so-net.ne.jp/umigarasu-to/


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コメント 4

「王様のブランチ」で紹介されていて、読みたいな、と思った本です。図書館でヤングアダルトのオススメ本として挙がっていました。
でも、未読なんです。3冊あるんですよね…。
若者が成長していく物語、清々しくて、悩みもあって、応援したくなります。
by (2007-01-10 09:15) 

miyuco

できれば三冊一気に読みたいところです[汗汗]
『風が強く吹いている』を読んだ方にはゼッタイのお薦め本ですよ。
同じように、元気をもらえます[ラブラブハート]
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-01-10 16:40) 

びっけ

miyucoさんのレビューを読んでいて、とても読んでみたくなりました。
左サイドバーのバンプの『ダイヤモンド』動画のコメント(新二が好きな曲)というのもすごく気になるし・・・。
☆この本、2007年本屋大賞にノミネートされていました。他に『図書館戦争』や『陰日向に咲く』『ミーナの行進』なども。
大賞発表は4月5日だそうです。
by びっけ (2007-01-22 23:29) 

miyuco

>びっけさん
第三部のラスト直前、インターハイ予選の勝負の日の朝に
新二がこの曲を聴いています。
そのとき初めて曲名が出てきました。彼は「身体ってかけがいのない大切なものなんだ」と折に触れて思っています。
歌詞の内容とパワフルな曲調が新二にぴったりで嬉しかった。
佐藤多佳子さん、やるなと思いました[ラブラブハート]
本屋大賞、もうそんな時期ですね。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-01-23 17:52) 

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