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『光』 三浦しをん [読書]

う~ん、私にはダメだった。
こういうダークな物語は圧倒的な筆力がないと厳しい。
この題材を書かなければならないという
作者の強い衝動のようなものが迫ってくれば
もっと違った印象を受けたかもしれない。
「明るい光」を書いたから
次は「The Dark Light」を
書いてみようという安易な発想ではないですよね。

生まれ育った島が天災に遭い、天涯孤独の身となった信之。
しかも彼は愛する幼なじみを救うためにある罪を犯していた。
島を離れて二十数年、心を閉ざして生きてきた信之を、
過去の秘密が追ってくる。

利己的な父親と母親のもとに生まれた子どもは
不幸になるという話…ではないけれど
五歳になる娘・椿があまりに不憫です。
作者は娘を信之と南海子の欺瞞をわかりやすく描くための
媒体、単なる駒のように扱ってない?

章ごとに語り手が変わり
ひとつの出来事を別の角度から照らし出す。
美浜島から離れて終わる第一章
第二章はいきなり女性のモノローグで始まり
やがて彼女の夫が美浜島での信之だとわかってくる。
上手いです。

信之が家族を持とうと決めたのは
「つなぎとめてくれるものがないと、
海の底へ引きずりこまれてしまいそうになるから」
けれどもあっさりと手放してしまう。
愛する幼なじみのために

美浜島で共に生き残った輔が脅迫者として現れる。
それすらも美花につながる道筋が見つかったように
信之は感じているようです。
家族との幸せを求め、
きちんとした社会生活を送るふりはもうやめて
美浜島の夜に戻ろうとする。

しかし美花は拒否する。
「自分が特別だとでも思ってるの?」
信之にとって美花は特別な運命で結ばれている
離れがたい存在であっても美花にとってはそうではない。
美浜島を出てからの美花の人生については
くわしく描かれていないけれど
平穏なものではなかった事がほのめかされている。
かつて会いにいった信之にこんな事を言う。
「叔父にはよくしてもらってる。」
濁点を打ってわざわざ作者が強調している意味を
信之は想像することもできなかった。

「凍りついて死んでしまいそうになる」
と言う美花を信之は理解することなどできないでしょう。

「膿んだような甘い日々の果てに生まれ落ちた秘密を、
この世で共有するのはお互いだけなのに。」
…ドリームだねぇと読みながら私はあきれました。
(読み方、間違ってる?)

以下、ロクなこと書いてないです^^;

 

 

美花に拒絶されたあとの信之のモノローグ
「俺は美花を愛していると思ってきた。
だが、島で一番見栄えのいい女とするセックスが
気に入っていただけなのかもしれない。」
…そうとしか思えない
「実際は愛でも欲望でも執着でも、
言葉なんてどうでもいい。
ただ、きみをずっと求めてきたということ。
きみを大切だと思う気持ちがたしかにあったということ。
それだけが本当だ。」
…あまり説得力を感じないんですけど。

突然姿を消した夫が何食わぬ顔で帰ってきて
それを受け入れる妻・南海子。
生活を守るために、ひとごろしと暮らしていく。
生きのびるために、南美子はなにも知らないふりをする。
空しさの矛先が娘への心ない仕打ちというのがおぞましい。
意識して「幸せな家庭を守っている」ふりをして
娘に優しく接する信之のほうがまだましかもしれない。
それにしてもこの「専業主婦」の描き方は
あまりに類型的ではないですか。

美浜島での過酷な出来事が信之を変えたというよりは
もともとの性質が露わになっただけのように感じた。

ラストシーン、美浜島を家族3人で見ているのに
信之の心の中は何も描写されない。
「暴力はやってくるのではなく、帰ってくるのだ。
自らを生みだした場所――日常のなかへ。」
という南海子のモノローグ

最も弱いところにしわ寄せがやってくる。
「日常」に拡散された暴力は
最も弱い存在に向かっていく。
娘の椿の行く末が心配です。

「光」という物語の先に重松清「疾走」や
天童荒太「永遠の仔」が見えるような気がして
暗澹たる気持ちで読み終わりました。

光

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/11/26
  • メディア: 単行本

 

美花は微笑んだまま、「そう」とだけ小声で言った。
「なんてことを」でも「気にしないで」でも
「出ていってはいや」でもない。「そう」だけだ。

美花の一言をここまでわかりやすく解説するとは
なんて読者に親切なのだ…
でも、必要なの?


タグ:三浦しをん
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コメント 3

miyuco

薔薇少女さん、nice!ありがとうございました^^
by miyuco (2009-02-22 09:28) 

chima

何の気なしに読み始めた本が津波の話で、
動揺していました
今読む話じゃなかったぁ(>_<)と猛烈に後悔しています
同じ本を読んだ人にこぼしたくて…失礼しました
m(__)m
by chima (2011-04-01 12:32) 

miyuco

ううっ、今は読んじゃだめな本ですね
(;_;)
by miyuco (2011-04-06 17:46) 

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