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『偉大なる、しゅららぼん』 万城目学 [読書]

万城目学の新作、いつも楽しみに待ってます。
しかしながら…
本作はなかなか物語に入りこめなくて難儀しました。
終盤の怒濤の展開はおもしろかった!
挫折しないでよかったと心から思った次第でございます。
エピローグのうまさは相変わらずですね。

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琵琶湖畔の街・石走に住み続ける日出家と棗(なつめ)家には、
代々受け継がれてきた「力」があった。
高校に入学した日出涼介、日出淡十郎、棗広海が
偶然同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がった!

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日出涼介は高校入学を機に日出本家で暮らすことになる。
「僕が石走に行くのは、生まれて三日後、
『涼介』と名づけられたときからすでに決められていたことだった。」
「選ばれた日出家の人間だけが授かる名誉」と父は言う。
石走城にいたのは当主の日出淡九郎と息子の淡十郎。

「生まれながらの殿様」淡十郎は涼介と同い年であり
高校でも同じクラスになる。そこには棗広海がいた。

日出家と棗家は千年以上も対立している。
日出家は他人の心に入りこみ、
相手の精神を操る力を琵琶湖から授かった。
棗家が琵琶湖から授かったのは
同じように他人の心に入りこみ、相手の肉体を操る力。
力は拮抗し、相手の足を休みなく引っ張り続けるという
あまりにも消極的戦いが繰り返されていた。


そしてどちらの一族も琵琶湖を離れることはできない。
なぜなら「湖の民」は琵琶湖を離れると力が弱まるから。
日出家と棗家は琵琶湖の虜となったまま
石走で不毛な戦いを続けている。
しかし三人が出会ったことで何かが動きはじめた。
しゅららぼんが発動した瞬間にそれは決定的なものになる。

「しゅららぼん」が起こるまでの210ページが長かった…
殿様・淡十郎はかわいくないし
城での生活描写にも特に心惹かれなかった。
出だしの「KOWNBY」のキャラに期待して
登場を待ってきたのに全然出てこなくてがっかり。
しかし『敵』が姿を現し、“龍と話せる女”グレート清子が
前面に出てくるあたりから、俄然おもしろくなってくる。

戦いはどんなふうな結末になるのか。
不気味な『敵』の正体は?
わくわくしながら読み進めます。

「僕の望みは、この力を根こそぎ失うことだ。
普通の人間に返ることだ。」
「他人の心に入りこんで好き放題できる力」を
涼介は嫌っている。

そう思っていたのは涼介だけではなかったのですね。

もしかするとそういう意思がどこかに届いたのが
この顛末のきっかけになったのかもしれない。
仕組みを知った淡十郎たちには
「力」の継承を終わらせることができるのだもの。

淡十郎はけっこういいヤツでした。
速瀬に力を使うことを絶対に許さなかった。
「自然さが消えてしまうから」
「外から力を受けただけでも、
無意識のうちに何かしらの影響が残る」

「一度失ったら、僕の自然は二度と戻らない」
速瀬の内なる「自然」を守ろうとしたが
それは淡十郎自身の戦いでもあった。
力を避けてきたのだが、最後には決断をする。
責任をとるために、終わりにするために、
なによりも源爺のために。

棗広海も決断をする。
ほかの湖の民の力を解くことはできないから。
棗の時を操る力をリミットを外して使ったら反動も大きい。

「でも、いちばん大事なことは―、わかっているな」
淡十郎へのラストメッセージ。
“自分の手で未来を切り拓け”
ということだったのでしょうか。

優しいラストでした。
読者はきっとこうあってほしいと願っていたはず。
棗の秘術と同時に力を使い
しゅららぼんを発動させた淡十郎にとっても。
でも…
淡十郎の恋が成就する可能性がゼロになってしまった。
(それでなくても、ムリ?)
二度づけ禁止の縛りがなくなったから
涼介の恋は始まるかもしれない。

しゅららぼんは残酷だけれど
源爺の記憶をもてあそんだ人間も非道い。
「さんずいが二つ」
源治郎という名前は
そんなに大きな意味を持っていたのですね。

「見た目は同じでも、アシのほうには茎を折ると
綿のようなものが入っている。
腹の中で悪いことを企む人を、ここらではヨシではなく
アシなやつと呼ぶ」と源爺は説明してくれた。
しかし全てが終わった後に涼介はこう思う。

「アシになったり、ヨシになったり、
ころころと変わるのが人間ではなかろうか」

今回の万城目作品も気まぐれな神々に翻弄されましたね。

偉大なる、しゅららぼん

偉大なる、しゅららぼん

  • 作者: 万城目 学
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/04/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

淡十郎の次は淡十一郎でも、戻って淡一郎でもなく
淡太朗兵衛(たんたろべえ)であり
淡二衛門(たんにえもん)、それから淡三郎と続くようです。

棗広海が最後に聞きたかったことがこれだったので
思わず笑ってしまったのでした。


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