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『ツナグ』 辻村深月 [読書]

ていねいに紡ぎあげられた物語。
ダークな色合いを持つエピソードがあるにも関わらず
清冽な読後感が残ります。
とてもよかった!

死んだ人間と生きた人間を会わせる使者
「ツナグ」
死者との再会を望む4人の物語プラス「使者の心得」
あわせて5つの連作短編集。

生きている人間が死者と会えるのは生涯一度ひとりだけ。
死者にとっても生きている人間に会えるのは一度だけ。
「『この世』にいる時と、『あの世』にいる時、一度づつ」
ゆえに死者には面会を拒否することもできる。

「アイドルの心得」
急逝した芸能人“水城サヲリ”に会いたい
大勢いるファンのひとりでしかない女性の望みに
彼女は応える。
死んでしまった彼女にとっても
一度きりの機会のはずなのになぜ?
読者である私も疑問を感じて読み進めます。
そして自然に「ツナグ」のシステムを理解する。
うまいです。

「親友の心得」が一番印象に残った。
“親友”と無邪気に口にする無神経さと傲慢さを
描ききる作者の力量に感心しました。

当初は少年の姿をした「ツナグ」が
この世のものなのかすら定かではなかったが
徐々に生身の人間らしさがあらわれてくる。

最後の「使者の心得」では
“ツナグ”の役割を果たす少年の物語を描きつつ、
若干あいまいさを残した「アイドル」と「親友」の
エピソードを補完して見事でした。

以下、未読の方はご注意を

*
*
*

少年が着ている藍色のダッフルコートまでもが
のちに意味を持つとは思いもしなかった。

「長男の心得」
「母さん恋しさに呼ぶんじゃないって言ったのに、
仕方ないのねえ」
そんなんじゃないと不器用な息子は言うけれど
母はわかっている。やさしい言葉。

「アイドルの心得」
「いてもいなくてもいい私」
死ぬことを考えているファンに
「来ちゃダメだって」と伝えるアイドル
自分のことを思ってくれる人なんていないと
絶望していた女性の心に灯りをともす。
たしかにアイドルの鑑です。
「アイドルって、すごい」

「使者の心得」で描かれる「親友の心得」の後日談
嵐美砂の姿が印象に残ります。
死者との再会で救われることばかりではない。
しかし自らの愚かさを思い知り
そこから目を離さずに生きていく彼女は
一歩前に進んだのでしょう。

死者に会うことで、人生を先に進める人がいる。
それは、何食わぬ顔で死者の存在を消費し、
軽んじるのと同じではないだろうか。
どうしようもなく驕ったものだという気がした。
生者のエゴではないかと歩美は思う。
しかしエゴでもしかたないではないかと
後に思えてくる。

「残された者は他人の死を背負う義務もまたある。
失われた人間を自分のために生かすことになっても、
日常は流れるのだから仕方ない」
「残されて生きる者は、どうしようもないほどに
わがままで、またそうなるしかない。
それがたとえ、悲しくても、図太くても。」

生きていかなくてはならない。
寄せ集められた影である死者にすがることになっても。

ツナグ

ツナグ

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/10
  • メディア: 単行本

水城サヲリは飯島愛ですね。
(読者は皆そう思ってる、たぶん)

「黄泉がえり」を思い出す。 あれも死者と生者の切ない物語だった


タグ:辻村深月
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