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『四十九日のレシピ』 伊吹有喜 [読書]

超弩級の物語「ソロモンの偽証」を読み終わり
あれやこれやが頭の中を渦巻いていたので
気分を変えたくて、あったかくて前向きな感じの
本がいいかなと手に取ったのがこの本
「四十九日のレシピ」
ドラマ化されて、今度は映画にもなる
人気の作品のようです。

わたしがいなくなっても、
あなたが明日を生きていけるように。
たいせつな人を亡くしたひとつの家族が、
再生に向かうまでの四十九日間
                  ...帯より

再生の物語はいいですね。
わたしも乙美先生のレシピが欲しいです。

心臓発作で突然亡くなってしまった乙美さん(71歳)
妻に先立たれた良平はその後二週間
まともなものを食べていなかった。
差し入れされた料理も出来合いの総菜も口にあわない。
配達される牛乳だけを飲んで部屋に閉じこもっている。
散らばった牛乳瓶とゴミにまみれた良平のもとへ
若い女が訪ねてくる。
生前の乙美に四十九日あたりまで
残された家族の面倒を見て欲しいと頼まれたと言う。

「乙美の弟子で、四十九日の大宴会までの助っ人」
井本幸恵と名乗る若い娘はまさに強力な助っ人でした。

初っ端で亡くなってしまったにも関わらず
「乙美」の存在が最後まで物語をやさしく包み込みます。

乙美が残した「暮らしのレシピ」
洗濯や掃除のコツや料理のレシピなどを
小さな画用紙のカードにイラスト入りで書きとめ
リングに通したもの。

そのなかの一枚・「四十九日のレシピ」
ここに書かれているレシピの料理を立食形式で出して、
みんなで楽しんでもらえればうれしい。

妻を亡くし失意のどん底にいる良平と
母を亡くし、夫の浮気が発覚し、
体調も最悪の娘・百合子は
乙美の願いをかなえることができるのでしょうか。

***

「掃除機は重いから週に一、二回で十分。
毎日、軽く不織布のモップで拭くだけでOK」

「暮らしのレシピ」の「毎日の掃除」と書かれた項目には
イラスト付きでこう記されていた。
「畳も板間もこれひとつでピッカピカ!」

トラブルを抱えた女の子たちの互助施設
「リボンハウス」
基本的な生活の手順を
誰にも教えてもらえなかった女の子たちにとって
乙美のレシピは真の支援になったことでしょう。

母親がいれば当たり前に教えてもらうことを
親がいない自分は教わることができなかった。
だから人に教えてもらったことや、気づいたことを
ひとつひとつ忘れないように乙美は書き留めていた。
その「レシピ」が「教えてもらえなかった」女の子たちに
受け継がれ、生きる力になっていくのですね。

「子どもを産まなかった」から
何も残せなかったわけではない。
「暮らしのレシピ」は女の子たちの心に
種をまき、花を咲かせ、また種を落とし、
大勢の人たちに彩り豊かな何かを
残していくのだと思います。

フォルクスワーゲンのビートル
黄色い車に乗ってやってきた青年。
四人でおそろいの服を着たかったのは
そういうことだったのですね。
一緒に過ごせてよかった。

「豚まんの君」・良平に会いに来た乙美さんの
いじらしさ、かわいらしさに泣けました。
一目ぼれだったのね。
まっとうに生きてきたけれど
どうにも寂しさがついてまわってきた女性が
幸福になれてよかった。

「さっき、熱田さんは運命には勝てない、
っておっしゃいましたよね。
でもあの、うまい!って一言で、
少なくとも私のそれまでの不幸は
吹き飛ばしてくれましたよ。
私、あれからとても幸せな気持ちになったんです」

「熱田さんのところが良かったです」

「お嫁に行くなんて、
好きな人のところにお嫁に行くなんて、
自分の人生にありっこないって、
そうあきらめていましたから」

がんばって作ったけど体型が横に広がって見える
派手に光る黄色のワンピース。
五歳の百合子に初めて会ったとき「乙母(オッカ)」が
きていたのも同じ黄色いワンピース。
「小さなハンバーグ」「星の形に抜かれた卵焼き」
心をこめてつくってくれたお弁当。

あのころの乙美と同じ年齢になった百合子は
小さい百合子が乙美を幸せにしていたことに
気づいたことでしょう。

乙美は幸福でした。

↓文庫本はイラストがちょっと違うのですね。
読み終わってこの装丁を見ると楽しくなります。

四十九日のレシピ

四十九日のレシピ (ポプラ文庫)

 

 

 

 

 


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