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『さよならの儀式』 宮部みゆき [読書]

この短編集を読んであらためて
宮部さんはスティーブン・キングの大ファンであり
多大な影響を受けているということを
思い出しました。
近頃では社会派小説や時代小説作家として
名を馳せているのでモダンホラーの帝王との
関連性を忘れてました。

語り言葉も登場人物も優しい
「海神の裔」が好きです。
「さよならの儀式」も印象に残りました。

「母の法律」
高みから正義をふりかざす人たち。
SNS界隈でよく見かけます。
「聖痕」
勝手に望んだ物語を押し付け
願望をかなえるために生贄にする。
おぞましい話です。

以下、つらつらと感想など


*

*

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「海神の裔」
”死体から新たな生命「屍者」を生み出す技術”
ゾンビ系が苦手なので読むのを躊躇しました。
しかしなんとも優しい物語でした。

寿命が尽き使い捨てにされる「屍者」を憐れみ
軍に背いてでも逃がしてやろうとする兵隊服を着た若い男。
小舟に乗ってたどりついた小さな漁村。
村人は男の懇願に応えてふたりをかくまう。

トムと呼ばれる屍者はお礼をしたいと言う。
力持ちのトムはもう長くは保たない体で
崩れた岩をどかし漁場を元に戻してくれる。
岩の下の漁師の骨を拾ってくれた。
力尽きた屍者は村人に丁重に葬られ
うもり様として祀られる。

「海守様」

「漁師を守ってくれる海神様は、
海の向こうからこられます。
だから、トムさんはぴったりだったんですがぁ」

生きていたころ、英国(エゲレス)の
漁師だったトムさんは
遠い異国の小さな漁村で神様になりました。

「保安官の明日」
<周回(ラウンド)>という一つの言葉が
物語の色合いを一気に変える。
どういう成り立ちなのか目的は何なのか
ひとつの言葉が瞬時に読み手の想像力をかきたてる。
こういう瞬間が読書の醍醐味ですわ。


「さよならの儀式」
老朽化したロボットとの別れ。
200歳を超えるロボットのハーマン。
ハーマンに育てられたようなものだという若い娘。
冷ややかに別れを見守る
ロボット回収センターの技師。

音声認識機能も発生能力も失われているロボット。
コミュニケーションは「手話」
だから離れていてもハーマンの最後の言葉はわかる。
愛情にみちたやりとり。

技師は手にすることができなかったものを
見せつけられる。
「ロボットを組み立てながら、
自分が、組み立てたロボットよりも必要とされず、
愛されることも、
気遣われることもない人間であることを
思い知る身の上になった。」

「あの娘が小さかったころ、
よちよち歩く彼女を後ろに従えて、
掃除をしたり荷物運びをしたりしたかった。」
「あの娘が話しかけてくれる声を聞き取れなくても、
その声に声で応えられなくてもいい。
あの娘と手話でやりとりするおんぼろロボットに、
俺はなりたかった。」
「ひとつロボットを組み立てるたびに、
俺は人間から離れてゆく。
それでいて、どうしてもどうしても、
ロボットにはなれない。
それが歯がゆくて、悔しくて。」

願いがかなえられることはない。
彼のやるせなさ、苦しさが
強く心に残りました。


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さよならの儀式

さよならの儀式

  • 作者: 宮部みゆき
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/07/10
  • メディア: ハードカバー

タグ:宮部みゆき

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